ごあいさつ
どんな病気の患者さんでも、「病気である」と診断された瞬間から、まるで迷路に突然放り出されたような不安と孤独を味わうとよく聞きます。自分はいまどこにいるのか、これからどういうことになるのか、どうすればそこから抜け出せるのか、誰に相談すればよいのか――医療スタッフは病気のことをいろいろ説明してくれますが、患者・家族が抱いている不安や疑問とは、大きな隔たりがあります。そんなとき、たぶん一番助けになるのは、自分と同じ病気を体験している他の患者さんの話を聞くことではないでしょうか。
DIPEx(ディペックス)の活動は、そんな発想から生まれた、とてもユニークな試みです。一つの病気について、約30~50人の患者さんの体験を集め、それを検索しやすいように編集して、映像・音声・文字情報としてネット上に公開するという画期的な方法です。情報としての信頼性は、医療専門家はもとより、社会学者・心理学者・患者の視点から、さまざまな角度でチェックされることで保証されます。この活動が始まった英国ではウェブサイトの公開から8年が経ちましたが、この間に40以上の病気や状態について、全部で約2000人分の語りが集積し、最も信頼できる医療情報源の一つとして広く利用され、高い評価を得ています。情報の信頼性を高めている、もう一つの特徴は、その活動の独立性です。情報の「公平性」や「公正さ」を損なう恐れのある個人や団体からの便宜供与や財政支援を受けず、純粋にこの活動の意義を理解し、支えてくださる方々から寄せられた基金によってすべての活動がまかなわれているという点です。ディペックスの活動には、いま世界中が注目しており、さまざまな国で同様な試みが取り入れられようとしています。
DIPEx(ディペックス)が提供する情報は、患者さんに役立つだけでなく、医師・看護師など医療専門家や医療福祉行政に携わる人々にとっても、貴重な情報や課題を与えてくれます。医療・福祉の現場で、何が足りないのかを、患者さんやご家族の目を通して学ぶことができるからです。
日本でも、2006年ごろから準備活動が始まり、今年(2009年)6月には正式に特定非営利法人として承認され、「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」がスタートしました。そして、いまここにようやく乳がんと前立腺がんの患者さんの語りをネット公開することになったのです。2009年からはさらに、認知症の患者さんや介護者の語りを収集する試みが始まり、がんだけでなく、難病や慢性疾患、小児疾患・精神疾患・介護など、医療のあらゆる分野に活動を広げてゆく予定ですが、そのためには、患者さんや医療・福祉関係者だけでなく、社会学・心理学・情報技術などさまざまな分野のボランティアのご支援と協力が必要なのです。あなたの知識・技術・感性・企画力を、このプロジェクトのために提供して頂けませんか?
特定非営利活動法人 健康と病いの語りディペックス・ジャパン
理事長 別府宏圀
2009年12月
