乳房切除術
乳がんの手術の術式には大きく分けて、がんのできた側の乳房を全部切除する手術(乳房切除術)としこりとその周辺の組織のみを切除する手術(乳房温存術)があります。ここでは乳房切除術に関する語りを紹介します。乳房切除術は、かつては胸の筋肉まで取ってしまう方法(ハルステッド手術)が主流でしたが、現在は筋肉を残して乳腺とリンパ節を切除する方法(非定型手術)が主流となっています。なお、リンパ節の切除についてはリンパ節郭清とセンチネル生検をご覧ください。
しこりの大きさから、温存しても「整容性」に問題があると言われ、別の形成外科でも全部摘出して再建するほうがいいと言われた
腫瘍が8センチと大きいため乳房切除することになったが、術後に「筋肉は温存できた」と言われ、筋肉も取る予定だったことを後から知った(音声のみ)
非浸潤性乳管がんは、乳房内に拡がる可能性はあるものの、転移する可能性はほとんどありません。病期で言えばごく初期のがんですが、乳房さえ切除すればほとんど再発の危険がなくなるので、かつては主に乳房切除術の適応となっていました。現在はがんが限局していて悪性度も低い場合は、乳房温存療法の適応になるとされています(日本乳癌学会編「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン2外科療法2005年版」)。私たちのインタビューでは、温存術を勧められたが、乳房内再発を避けたいという思いからあえて乳房切除を選んだ人がいました。
生検では非浸潤がんであり、医師は温存を勧めた。いろいろな可能性を考え、温存か全摘か、手術当日の朝まで決められなかった(音声のみ)
術式について手術前日まで迷っていたが、主治医に80歳になったときに後悔しない方を選ぶよう言われ、自分の気持ちが整理でき、全摘を決意した(音声のみ)
手術の実際
入院期間については多くの人が1週間から10日程度だったと語っていましたが、両側の乳房を同時切除した人や同時再建をした人はもう少し入院期間が長くなっていました。また、胸から体液を排出するためにドレーンという管からの感染で、入院が長引いた人もいました。
手術後は、目覚めてから息苦しさや吐き気を感じて辛かったという声もありました。術後の痛みは個人差がありますが、痛み止めである程度抑えられます。以前に婦人科等で開腹手術を受けたことがある人は、比較的楽な手術だと思われたようです。
麻酔から目覚めてから朝までは、嘔吐や傷の痛みが辛かったが、明け方に酸素や導尿の管を外してもらってからは点滴台を押して自分でトイレに行った
両側の乳房切除手術だったので7時間くらいかかったようだが、翌日には歩いて集中治療室から自分の病室まで戻った。術後感染による合併症で1ヶ月入院した
退院後の生活については、多くの人が余り時間をおかずに日常の生活に復帰しています。病院から帰ったその日から家事を始めた人や、2~3日で職場復帰した人もいます。一方、入院中にドレーンを抜いた後の傷痕からリンパ液が滲出し続けて不安に感じたという人もいました。
術後は、すぐにあちこちの病室へ出かけて民話の語りに行き、退院2日後には店を開けて20名の予約客を迎えられるほど元気だった
家に戻ってから半月くらいの間、ガーゼがびっしょりぬれるほど傷口から大量の体液がにじみ出て不安になり、メーリングリストに質問した
乳房切除後の傷痕について
外見の変化が本人の女性としての意識に及ぼす影響については別項(からだ・心・パートナーとの関係)にまとめましたので、ここでは傷痕そのものに対する思いについての語りをご紹介します。手術直後に傷を見たときの語りと半年から1年以上経ってからの傷についての語りでは、その思いはかなり違っていました。
もう乳房がないということはわかっていたが、術後2日間は胸を見ることができなかった
乳房切除後、初めは風呂場の鏡に映る自分の姿をまともに見られなかった (音声のみ)
夫や恋人などのパートナーや子供に傷痕を見せることについては、別項(からだ・心・パートナーとの関係、家族の思い・家族への思い)で触れていますので、ここでは温泉などで、胸が見知らぬ他人の目に触れることについての語りを紹介します。傷痕を隠さずに入ることにした人もいれば、シリコンなどでできた人工乳房を装着したり、専用のカバーを使ったりしている人もいました。
ドキドキしながら「温泉デビュー」したが、あっけにとられるくらい誰も関心を示さなかった (音声のみ)
あまり自意識過剰になっていると好きな温泉にも入れない、と思って、隠さずに入ることにした
本当は乳房再建したいと思っているが、今は限りなく本物に近い人工乳房を買って、温泉に行くときには貼りつけている
温泉に入るときは乳房切除後の傷を隠せるような肌色の生地でできた専用のカバーをつけている
また、着衣の時の対応については、乳房切除をした人のための専用補整下着を利用している人もいましたが、普通のブラジャーにタオルを折って入れたり、スポーツブラを使ったり、下着を自作したりと、独自の工夫をしている人もいました。
病院で下着メーカーの乳がん患者のための相談室を紹介されて訪ねていったところ、値段も手ごろで自分に合ったものを作ってもらえて、ありがたかった
補整下着の専門店を紹介されたが、自分で工夫するのが好きなので、洋服の肩パッドを使って下着を自作している
ワイヤー入りの下着はずれやすいのでワイヤーは抜いてしまった。メーカーの補整下着は合わないので、個人が自作している下着をネットを通じて分けてもらったりしている (音声のみ)
こうした外見的な問題のほかに、術後しばらくたってからも傷痕の痛み、感覚異常などが持続する後遺症の問題があります。
術後しばらくは縫った後の傷がジュクジュクしたり、胸に鉄板を巻きつけたような感触が残ったりした
センチネル生検だけで、リンパ節は取っていないため、腕のほうは問題ないが、乳房切除した胸の違和感は残っている (音声のみ)
このほかに「腕が上がらない」「腕が腫れる」といった症状もあります。これらについては術後後遺症とリハビリテーション、リンパ浮腫をご覧ください。
