抗がん剤・分子標的薬の治療
ここでは、乳がんの薬物療法のうち抗がん剤と分子標的薬を用いた治療に関する語りを紹介します。どのような薬物療法が推奨されるかは、ホルモン感受性やHER2、リンパ節転移の数、腫瘍の浸潤、がん細胞の悪性度などの病理診断の結果や年齢などで異なります。抗がん剤はがん細胞を死滅させる目的で用いられる薬剤で、吐き気や脱毛、白血球の減少などの副作用がよく知られています(脱毛については脱毛の影響を参照)。また、ハーセプチンなどの分子標的薬は近年開発されたがん細胞の増殖を抑制する治療薬です。これらの薬剤は、多くの場合、外来で静脈に針を刺し、点滴注射の形で投与されます。また、一回きりの投与ではなく、一定の間隔をおいて、決められた回数の投与が行われます。
FECという3種類の抗がん剤を外来で3週おきに点滴した。毎回、治療前に採血をして白血球数を医師がチェックした上で、治療が始まる
治療は外来で、まず吐き気止めを入れてから抗がん剤の点滴が行われた。原則的に手術した腕には点滴を刺せないので、最後の方は血管を探すのが大変だった
抗がん剤の点滴をして2-3日は胃の中に鉄の塊が入っているような重い感じが続き、すーっと楽になる。白血球が減ったり、爪の変化や口内炎、脱毛が起きた
乳がんの場合、手術後の再発予防目的(術後補助療法)、手術前にがんを縮小させ、手術範囲を小さくするなどの目的(術前化学療法)、再発・転移に対する治療目的で用いられます(再発・転移の治療も参照)。数人の人たちが手術前に抗がん剤治療を受けていました。術前抗がん剤治療は、しこりを持ったままの治療なので、不安を感じた人もいましたが、治療の効果や大きさの変化を感じたという人たちもいました(「セカンド・オピニオン」のインタビュー12を参照)。
乳頭を切除しないといけない場所と大きさだったので、術前抗がん剤治療を行うことになり、その結果、乳頭を残すことができた
術前抗がん剤の治療中、しこりが熱くなるような反応を感じることがあった。「小さくなーれ」としこりに話しかけていた(音声のみ)
副作用について
抗がん剤の種類や組み合わせ、投与回数などは、がんの種類や性質、病期などによって異なります。乳がんの場合、アドリアシンやファルモルビシンといったアンスラサイクリン系の薬剤を含んだ治療(EC、AC、FECなど)、タキソテールやタキソールといったタキサン系の薬剤による治療が多く用いられています。また、その両方を行う場合もあります。副作用は薬剤によって異なります。
吐き気
吐き気というのはインタビュー協力者が語った最も代表的な副作用の一つでした。アンスラサイクリン系の薬剤で吐き気を強く感じたと話す人たちが比較的多かったです。
最初はすごい吐き気を予想したが、実際ひどかったのは抗がん剤の点滴後3-4時間でそれを過ぎるとみるみる楽になった。1度体験したら次はコツをつかんで行動できた
吐き気のあるとき、同じ抗がん剤でも喉越しがよくてトマトばかり食べていたという人もいれば、トマトの赤が抗がん剤の色を思い出させて嫌だったと話してくれた人もいます。口にすることができたものは、比較的味の濃いもので、カップ春雨やハムサンド、梅干し、口当たりがよくてさっぱりした氷やアイスなど人によってさまざまでした。少しでも栄養を取れるようにジュースを凍らせたり、自家製シャーベットを作って、つらい時期を乗り切ったという人もいました。早い人で翌日、大抵の人が3-4日で楽になり、普通のものが食べられるようになったそうです。吐き気が強い時には、まったく食べられなくて、脱水になり、病院に行って点滴をしてもらったという人も複数いました。吐き気の出方についても個人差がありました。毎回、違ったという人もいました。
抗がん剤の点滴が終わってまもなく吐き気が襲ってきたが、吐き気止めを飲むと楽になった。同病の仲間に聞いたキリンレモンでげっぷを出すとすっきりした(テキストのみ)
自分は赤い抗がん剤(※)のときに赤いトマトがダメだった。家族には、吐き気があるときは「トマト食べる?」でなくて「何かほしいものがある?」と聞いてもらいたい※ファルモルビシンを含む抗がん剤の点滴。
体力が落ちて治療できなくなると思い、抗がん剤治療中は食べられるときに食べられるものを少しずつでも食べるようにし、できるだけカロリーの摂れるものを選ぶようにした
下痢・便秘
そのほか消化器系の副作用として、下痢や便秘、それに伴う腹痛がつらかったと話す人たちが少なくなかったです。あとで便秘が副作用だと知って、治療中に医師に相談して下剤を出してもらえばよかったと話している人もいました。
便秘で痔になりつらかった。副作用とは知らず、先生に言わなかったが、下剤を処方してもらえばよかった
味覚障害
また、消化器系の副作用のほかに、味覚障害を体験した人たちもいて、何を食べても味がわからないため、食欲不振やストレスにつながっていました。
抗がん剤治療中は味覚障害で何を食べても味がないので、高価なお肉も味気なく、食べる楽しみがない
だるさ・疲労感
そのほかに、何とも言えないだるさや疲労感を感じた人たちがいました。そういうときは、とにかく体の要求に任せて睡眠や休養をとるようにしていたそうです。
抗がん剤のあと、8時間くらいするともうろうとしてきた。つらかったのは3日間だけで、その間は母親のおなかの中にいるように丸まって眠り続けた
爪や皮膚の変化
このほか、爪や皮膚の変化を体験した人たちもいました。爪は浮いてきて、痛みを伴い、剥がれやすくなるほか、爪の色が黒くなったり白くなったりして不快だったので、プロの人にマニキュアを塗ってもらったという人もいました。
抗がん剤で爪が黒く変色し、物が当たると激痛があり、出血したり剥がれたりしてしまうので、ガーゼで爪を保護していた
抗がん剤の副作用で雪焼けをしたように皮膚が赤黒くなってしまったので、ファンデーションの色を濃い目に変えた(音声のみ)
血管痛・血管炎
比較的稀な副作用として、血管痛・血管炎を体験した人たちもいました。これは、アンスラサイクリン系の薬剤で起こる副作用の一つです。
抗がん剤の副作用と知らず、はじめは異常だと思わなかったが、点滴中に腕が突っ張るような気がして看護師に言ったら、血管痛ということだった
白血球数の減少
また、自覚症状ではありませんが、多くの人たちが白血球の減少について話していました。白血球の増減には周期があります。通常、治療後1-2週間で減った白血球が再び増えて、次の治療の時期になりますが、少ないままだと次の治療ができないため、人によっては500まで下がって白血球を増やす注射を受けたということです。また、白血球が少ないと感染しやすくなります。口内炎や未治療だった親知らずから感染を起こしてしまったという体験もありました。
一回目の抗がん剤治療で、白血球が減り、感染症を起こしてしまった。その原因は抜歯予定の親知らずだった(テキストのみ)
抗がん剤で白血球数の減少する周期について説明を受けたので、それに合わせて日程を組み、会合に出かけるなどして、仕事を続けることができた
しびれ、むくみ
タキソールやタキソテールといったタキサン系の抗がん剤では、しびれやむくみを体験した人たちがいました。これらの副作用は吐き気のように一時的なものではなく、抗がん剤治療を続けている間、終了後もしばらくは続く副作用で、さまざまな生活上の苦労が語られていました。家事をするときに包丁や熱い鍋には特に注意したと話す主婦もいました。
タキソテール2クール目から手足がしびれてきて、物を落としたり、こんにゃくの上を歩いているような感じがしたりして、点字ブロックに足を取られて転んだこともあった
抗がん剤の副作用でむくみで出て股ずれがしたり、正坐できない状態だった。1年経った今もしびれとむくみが残っていて、夜はむくみがひどいので、足を上げて寝るのが日課となっている
ハーセプチン
HER2(ハーツー)遺伝子が陽性の人で、術後に抗がん剤治療に加えて、ハーセプチンという分子標的薬の治療を受けた人もいました。この女性はEC療法に引き続きタキソテールとハーセプチンの治療で、計1年間以上の治療となり、血管がつぶれてしまい使えなくなったため、中心静脈にカテーテルを入れてポートを置き、そこから何度でも針を刺して抗がん剤を投与できるようにしたそうです。
抗がん剤のあと、ハーセプチンだけの点滴になり1年間の予定で治療をはじめた。アレルギー症状で発熱や頭痛が続いたが、1年間続けることができた
副作用との付き合い方
こういったさまざまな副作用に対して、その人なりの対処法がとられていました。治療中、指圧や漢方、お灸などを取り入れた人たちもいました。何人かの人たちは仕事や孫の世話など何か集中することがあったので、副作用にばかり気が取られずに済んだということです。自分の外見の変化や不快な症状を、新しい自分に生まれ変わるための苦しみだとして積極的な意味合いで受け止めようとしていた人もいました。ある人は、自分の経験からつらいときは素直に周囲に甘えたほうがいいと語っていました。
抗がん剤治療中、もともと通っていた整骨院で免疫をあげるつぼを刺激してもらっていた。効果はわからないが、予定通り最後まで治療することができた
抗がん剤治療中に娘が出産し、孫の面倒に追われ、病気にばかり気持ちが行かなくてよかった。吐き気などの副作用も軽く、無事に治療を終えられた
1回目は吐き気で体重が減り、顔色も悪くなってびっくりしたが、「これが抗がん剤なんだ、悪い細胞を殺して新しい自分に再生してる」と積極的な意味で受け止めた
抗がん剤の副作用でだるくて家事が進まないことがストレスだったが、ある時考え方を変えて、できないことは甘えてしまおうと思ったら、気が楽になった(音声のみ)
抗がん剤治療は大変な治療であるからこそ、終了したとき、やり遂げて生きていることの喜びがあったことを話してくれた人もいました。
途中でつらくてやめたいと思ったが、最後の抗がん剤が終わって退院した日、桜が咲いている中、お蕎麦を食べに行けた。生きている幸せを感じて感動した
