からだ・心・パートナーとの関係
乳がんの治療は、手術で胸に傷が残ったり、抗がん剤で髪の毛が抜けたりするなど、しばしば外見の変化を伴います。また、ホルモン療法による更年期症状のように外から見ただけでは判らない機能的な変化を生じることもあります。インタビュー協力者の声を聞くと、このようなからだの変化は、その人の心の状態や自己イメージにつながる体験であり、身体的・精神的に親密な相手であるパートナー・夫との関係性にも多大な影響を及ぼすことがわかります。ここではそうしたからだの変化に伴う心の動きとパートナーとの関係性についての語りを紹介します。
では、まずインタビューに協力してくださった女性たちは、自身のからだの変化をどのように受け止めていたでしょうか。自分が人造人間になったような気持ちになった、女性としての自信を失い悲嘆したという人もいれば、どんなにからだが変化しても人間性や女性らしさは変わらないという人もいました。
退院後、おしゃれをしている同世代の友人と会ったり、テレビで女優を見ると、自分との差を感じて、生きているのが辛く、自分の殻に閉じこもっていた
乳房切除後、今でも鏡で自分の傷を見るのは嫌で、治療でいろいろなからだの変化が生じた自分を人間じゃないみたいだ、人造人間になったみたいだと思ったこともあった(音声のみ)
髪の毛がなくなるということは、女性としての楽しみの一つを諦めざるを得なくなることなのだと実感した
アメリカ人女性が乳がんの手術痕にオリーブの枝のタトゥーを入れている写真を見て、エネルギーを感じた。乳房を失うことで女性性も人間性も損なわれないと思っている
人によっては男性に打ち明けづらいと言うが、自分にとって乳がんは自分の生き方と一体であるので、切り離せないものだと思っている
乳房を切除したことの受け止めは、その人が自分自身に対して思い描く自己イメージや女性らしさによってさまざまでしたが、年齢や出産経験という要素も関係しているようでした。授乳期に手術をした女性はおっぱいを上げられないことをとても辛く感じていましたが、すでに子どもを産み育てた体験者たちは「もう役目を終えたので」という説明をしていました。
単純に胸が二つあるというだけでうらやましかった。子供に授乳できないことが悲しく、夫婦生活でも夫に申し訳ない気持ちになった
子宮筋腫と乳がんで子宮と胸を取ったとき「女だって言うものが何もないじゃない」と言われたことがあったが、子どもも産んだし、「ないから何なの?」と思った
乳房切除についてはもう役目が終わっているし、病気だから仕方ないと思う。胸があったときは女性として恥らいがあったが、今は平気で傷を見せられるのは、女らしさがなくなったのだろうか
体験者が自分の傷や脱毛した姿をどのように受け止めたかには、パートナーの反応が重要な鍵となっていました。何人かの人たちは、パートナーが手術後のからだの変化にもかかわらず、以前と同様に受け入れてくれたことが自信につながったと語っていました。相手に傷を見せたタイミングはさまざまでしたが、最初は拒否していた夫が自分から傷を見ると言い出して、見てもらったことでそれまで夫との間にあった壁がなくなり、心が打ち解けたと語った人もいました。彼女は、夫に見せたことがきっかけで、子どもにも傷を見せられるようになり、一緒にお風呂に入ったそうです。また、あえて相手に傷を見せていないという人たちもいました。
退院後早い時期に勇気を出して、夫に傷を見てもらったところ、「よく頑張ったね」と受け入れてくれたことがありがたかった
本人以上にショックで傷を見たくないと言った夫が、あるとき「傷を見たい」と言ったので、「これが私の体だよ」と見せたそれから病気のことも心底話せるようになった(音声のみ)
自分としては髪の毛が抜けてしまい、女としてすごく嫌だったが、彼は変わらず女性として扱ってくれた
傷についてはタブーのような気がして話題にしないが、抗がん剤で髪が抜けたときのことや闘病の様子を詠んだ短歌で、夫の自分への思いを知ることができた(音声のみ)
からだや心の変化はもちろん性生活の場面にも影響します。夫やパートナーが求めてくれたことが自信につながった、どんなときも普通に愛情をもって接してくれた、さりげなく傷をかばってくれて、自然とお互いが慣れていったという声が聞かれました。身体的な側面では、体調が万全でなかったり、ホルモン療法の影響で性欲の変化や膣の潤滑不良が経験されたり、容姿の変化で女性として自信が持てず積極的になれないなど、性生活上の難しさで自然と回数が少なくなっていった人もいました。
女性として終りなんだという気持ちと彼と繋がっていたいという気持ちの間で揺れ動いたが、彼は女性として求めてくれたので、すごく嬉しかった
胸の傷や脱毛や外見の変化はあるが、なるべく女性らしい格好をしてきた。彼も女性として扱い、性行為時も変わらず普通に接してくれた
傷口が壊れてしまいそうで触れられるのが怖くて、自然と回数が減った。ホルモン療法中の性生活では自分が無機質な物体にでもなったような感じなさがあり、愕然とした(テキストのみ)
パートナーがいない女性たちにとっては、これから出会う相手が病気の自分を受け止めてくれるかどうかは重要な問題です。自分の姿を人に見せることを怖がっているのは自分自身であり、一歩踏み出すことで、はじめて自信がついたと語ってくれた人もいました。
乳がんとわかり、彼氏に別れを告げられた。これから自分の病気をちゃんと受け入れてくれる人が現れるのか不安になる
独身女性の自分にとって乳房のないのは死活問題だと思う一方、乳房を取ったことで本当の運命の人に出会えるかもしれないとも思う
パートナーに乳がんであること、手術痕のこと、すべて事実を伝えたが、それは気にしないと言われて、怖がっていた自分にはじめて自信ができた
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