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大腸がん検診の語り

便潜血検査は便を採るだけなので身体へのデメリットはないが、内視鏡検査の場合は穿孔(腸に穴が開くこと)が起こる場合がある

まず大腸がん検診の便潜血検査に関しては、疑陽性・偽陰性の問題があるにしても、体にとって何かストレスが起こるわけではありませんので、排泄物を取るだけですから、それは問題ありません。ただ、そのあと陽性になったときに内視鏡検査をお受けになるといったときに、どうしても肛門から内視鏡を奥まで入れていくときに、癒着があったりとかするとやっぱり破れやすかったりとか、穿孔(せんこう)が起こってしまうということは、かなり今は確率が低いですけれども、そういったことも稀にあります。だから、内視鏡検査が必ずすべて安全というわけではありませんけれども、受ける必要性は高いですので、わずかなリスクが……必ず説明が検査の前にはありますけれども、そういった穿孔(せんこう)といって腸に穴があいてしまうリスクはゼロではありません。

大腸がん検診の語り

内視鏡は視野が140度のものが多いため、見落としたり腸のヒダの間のがんが見つけられない場合はあるので、毎年便潜血検査を受けてほしい

内視鏡検査は140度しか視野がありませんので、それを使ってグルグル回しながら腸の中を見ていくわけなんですね。そうしますと、どうしてもヒダの真裏とかにある病変といったものを見ていない可能性があります。ただ、そのヒダの裏に隠れている病変というのは小さなポリープ……腫瘍性であっても5ミリを下回るようなものが多いので、また経過を見ていけばいいということになります。ただ、がんをその場で見落とすということは極めてまれであると思います。ただ、内視鏡を受けたあとに3年後に見て進行がんが見つかるということも年に数例は経験があります。それほど大きくはない進行がんであるということになります。
だから、なんらかのポリープがあったりとか、初回検査で何もなくてもだいたい2~3年後にはもう一度内視鏡検査を受けていただくということはあります。あるいは便潜血検査をそのあと定期的に受けていただいて、陽性になればまた受けていただくというのは非常に大切なことになってきます。それで初回にもし見落とした部分があっても、次の便潜血が陽性であればまた見ますし、2~3年の間で見れば見落としたものも救命可能なところで見つかっているという状況です。

大腸がん検診の語り

全国的なデータでは二次検診を受けた人の5パーセントほどの人からがん、45パーセントほどの人からはポリープが見つかっている。検診で見つかるがんは早期が多い

私たちの施設はどちらかというと対策型検診……住民検診をやっていますので、比較的高齢の方が多いわけです。そうしますと、高齢の方を対象にやるとそれだけがんの罹患率というのが、がんの方が多く含まれているということもあるんですが、便潜血検査が陽性となって精密検査として内視鏡検査をお受けになった場合に、だいたい13パーセントぐらいの方が大腸がんが見つかってくるというデータがあります。
 ただ、そのうち87パーセントぐらいの方は早期のがんで、内視鏡治療や腹腔鏡手術が可能であったと。非常に便潜血検査は頼りがないように思いますけれども、実際に見つかってくるがんは症状がない方がほとんどですので、やはり早期がんが80~90パーセントを占めているということなります。ただ、全国的なデータを見ますと、だいたい半数の方、5割の方には何もないと。内視鏡検査をお受けになって。がんが5パーセント前後見つかってくる。あと45パーセントぐらいの方には、ポリープが見つかってくる。前がん病変としてのポリープも見つかってきますし、あとは大腸憩室なども見つかってくるという報告があります。

大腸がん検診の語り

内視鏡機器が進歩して挿入しやすくなっているものの、内視鏡の挿入技術はキャリアによって差が出てくる。最近は安定剤を使って緊張感を和らげる施設もある

今、内視鏡のほうもかなり、太さも違いますし柔らかくなったり、硬さを変える内視鏡も出ていますので、以前から比べると……以前はやっぱり受けられる方も検査を行うドクターも汗水たらしながら両方大変だったわけです。ところが内視鏡機器も非常に進んできまして、挿入しやすい内視鏡が出てきています。それともう一つは、大腸内視鏡の挿入技術というのは昔からかなりキャリア的に差が出てきます。まず大腸専門の、内視鏡を専門にしているところに行かれると、やっぱり検査は上手であるというのは間違いありません。だからそういったところに受けに行っていただくのがいいと思います。
それから安定剤を使うというのは、大腸検査では、私たちの施設では必須で使っています。それはどうしてかといいますと、やっぱり検査台の上に上がられると受診者の方はみんな緊張します。そうするとおなかに力が入ってしまって、内視鏡を入れようとしますが押し出されてうまい方向に入っていかないようになるんですね。だからリラックスしていただくということもあって、それと「うー」と言われながらじっくり観察することはできませんから、お互いに精度の高い検査をするためにはリラックスしていただいて検査を進めていくと。受けたあとも「あの検査は二度と受けたくない」と言われてしまうとそれもデメリットですので、検査を楽に受けていただくために少し安定剤を使って……安定剤を使っていますので、心電図モニターとか血圧モニター、あとは酸素モニターをつけて、優しい看護婦さんがついて検査をしているということで、受けやすい態勢を作っているところが多いと思います、今は。だから、専門的なところで受けられることをお勧めいたします。

大腸がん検診の語り

大腸内視鏡の前に飲む2リットル洗浄液(下剤)は量が多くて途中で飲めなくなることもあったが、新しい洗浄液は1リットルの洗浄液と500ミリリットルのお茶という飲み方ができる

大腸がん検診、便潜血検査は排泄物を取るだけの簡単な検査なんですけれども、その次の検査、これが大事なところなんですが、精密検査というのは一つハードルが高いっていうのが、なかなか精密検査の受診率が低いという問題になっています。いろいろ改良されてきまして、以前は食事を3日ぐらい前から制限したりとかしながら洗浄液、検査当日2リットル飲まなきゃいけなかったんですね。それがもちろん大変だということで、その点についていろいろ検討してきました。
そこで、今出てきたのは、私たちの施設でも使っていますけれども、検査当日に新しく、昨年の6月に出た洗浄液ですが、1リットル飲んでお茶を500cc飲むというタイプが出てきていますので、だいたいそれで7~8割の人は検査を受けることができるぐらいきれいに前処置ができている状況です。だからだいぶん変わってきました。ただ、味が、味は個人差がありますので好き嫌いがあります。ただ、胃袋が1.3リットルぐらいの容量なので、1リットルまでだとある程度嘔吐せずに入る量だと思います。そのあとにお茶を500cc飲んでいただく。お茶とか水を飲んでいただくということで、ちょっとまずかった洗浄液を、味が変わりますので比較的飲みやすくはなってきています。以前は、2リットルの時代は、途中で飲めなくなったとかいうお電話をよく頂いていましたけれども、今、その1リットルになってからは「飲めない」という方はほとんどいらっしゃらないです。ただ、味が悪いと。でも「おいしい」という方もいらっしゃるし、味に関しては非常に難しいです。味に関しても、今、メーカーではもうちょっと味を工夫しようという努力をしているという状況です。かなり変わってはきています。

大腸がん検診の語り

便潜血検査が1回でも陽性であれば、すぐに精密検査を受けることが大切。1回法で陽性なら陽性と考えてほしい

まず1日法だけでやるという便潜血検査の大腸がん検診っていうのは認められていませんので、これは必ず2日法でやらなきゃいけない。さらに1日法で陽性になったら、これはもうすぐ精密検査という方向に持っていくことが大切だと思います。1日でも陽性だったら陽性ですので。またさらに、1日陽性だったら次また便潜血検査を受けて、というのはそれは根底から間違えてる。それはやり方を正す必要があると思います。

大腸がん検診の語り

便潜血検査は2日法で有効だが、1回でも出せるのなら出し、新たに個別に医療機関で受けるという方法もある。便秘がひどいなら、一度内視鏡検査を受けると良いかもしれない

ある程度期間が決まっているので、その提出期間に間に合わないということになると、それはまた別で2日法でやってもらうしか本当はないと思います。ただ1日だけでも、その場合は仕方ありませんので、まず提出していただくことが大切かと思いますが、なかなかそれは難しいですね。

―― というのは、1本しかなかったら、もう検査として成立しないということですか。

1本は結局取れなかったということで提出してもらうしかないと思います。提出期間は決まっていますよね。そこは問題ですよね、本当は。

―― あとからでも提出できる、あらためて。

ようにしたほうが本当はいいですよね。

―― どうしても便宜性でなんでもかんでも一緒にやろうと。こちらもそれを要求するようなところがあるわけですけど、ただ、便の調子というのはなかなか自分の力ではどうしようもないというところもありますから、ある程度自由に受け付けられると。

いうようなシステムにしたほうがいいですよね。

―― ないとしても、とりあえず1本しか取れなかったから無駄だと思わないほうが……

いいですね。だから、それは不完全な検診だったというふうにその年は考えるしかないかなと思います。だから、方法としては、市町村でやってる検診では、どうしても一括で回収しますので間に合わないけど……。あとは、医療機関、かかりつけの先生のところに行かれて個別検診というかたちになりますけれども、そこで受け付けてもらうと。そういう方法も一つあります。その場合はちょっと別途お金が発生するとは思いますけれども、それはもう対策型として一括で行政がやるものに関しては、ある程度一定の期間で出してほしいというのがありますから、うまく出せなかった場合は地域の医療機関に行って、かかりつけに行って、そこで便潜血検査をやるということも大事かもしれません。やっぱりそれだけ便秘があるということは、それは症状の1つなので、一度精密検査をお受けになったほうがいいかもしれません。

大腸がん検診の語り

便潜血検査は2日法(2日間で便を採る)ではじめて有効性が認められる。但し、1日しか陽性にならなくても、その数値が高ければ大腸がんの病変の確率は高い

便潜血検査の1日法、2日法というのは、いろんな厚労省を含めた研究成果を元に、2日法であって初めて有効性が認められているといわれていますので、1日法でやるというのは邪道ということになります。認められていないと。2日法でやるというのが大切であると、有効性が認められている方法です。
それから、1日陽性の方と2日陽性の方ですね。これはあまり公表はできませんけれども、やはり2日とも陽性の方に病変は多い可能性が高いと。ただ、1日でも、その1日の陽性のほうが数値が非常に高い場合はかなり病変の確率が高いというデータを私たちは持っておりますけれども、それをあまり公表してしまいますと、今度、1日だけしか陽性でなかった方の受診率が下がって、1回しか陽性になっていない方が今度は精密検査を受けない、受診率が今はもう低いですので、そういったことにもつながっていきますから、2日のうち1回陽性だったらこれは陽性ということで、必ず精密検査を受けていただきたいというふうに思います。それだけリスクはあるということで受けていただきたいと思います。

大腸がん検診の語り

がんが上行結腸にあったり便秘だったりすると便潜血は偽陰性になることもあるが、有効性は極めて高いので受けて欲しい。ただし、症状が現れたらすぐに精密検査を受けることが大切

便中の血液、便ヘモグロビンという蛋白を調べる検査ですので、一番奥のほう、上行結腸というところにがんがあって、そこから少し出血していても、なかなか便潜血陽性となりにくい場合も少なからずあるということは指摘されています。ただ、ある程度の出血量があれば必ず陽性になりますし、特に便秘をお持ちの方は、腸の中に血液が混じった便が停滞していますので、いろんな腸内細菌によってそれが壊されて陽性とはなりにくいということは指摘されています。だから、便秘の方に関しては、特に偽陰性になりやすいということも予測はされています。
ただ、これは、すべて100パーセントの検査ではないわけです。危険因子のある方を拾い上げてやっていくという検査で、かなりの感度・特異度(*1)は高いと……この便潜血検査ですね。今やっているこの便潜血検査ですけれども、いろんな検診の方法がありますけれども、これは被ばくもありませんし、ただ排泄物を2日間取るだけなんです。それで有効性が極めて高いということが認められてますので、これは積極的に、やるほうとしては進めていく必要があると。偽陰性の方もいらっしゃるかもしれませんけれども、これはやはりもっともっと広めていく必要があると思います。多くの方を救命可能ながんで見つけるということとしての対策型(*2)の検診という考え方で、多くの方にたくさん受けていただいて救命可能ながんをたくさん見つけるというのが、この便潜血検査の方法です。だから、症状があれば、必ずそれは便潜血検査じゃなくて、内視鏡やエックス線検査などの画像検査を精密検査で受けることが大切であります。

*1:「感度」とは、病気にかかっている人の中で検査結果が陽性になる人の割合、「特異度」とは、病気にかかっていない人の中で検査結果が陰性になる人の割合を指します。「感度」と「特異度」が高ければ、その検査は正確だということになります。

*2:対策型検診とは、集団全体の死亡率減少を目的として実施するものを指し、公共的な予防対策として行われます。このため、有効性が確立したがん検診を選択し、利益は不利益を上回ることが基本条件となります。わが国では、対策型検診として市区町村が行う住民検診が該当します。これと対照的に、個人が自分の健康リスクを回避するために選択的に行う検診を任意型検診といい、人間ドックが代表的な方法です。

(国立がん研究センター がん検診アセスメント)

大腸がん検診の語り

陽性になったら必ず大腸内視鏡による精密検査を受けて欲しい。続けて偽陽性になる場合は、便潜血検査の代わりに定期的に内視鏡や違う種類の精密検査をやることもある

今年は陽性となって内視鏡検査を受けた。特に異常がなかった。翌年、陰性となるのは特に問題がないと思います。ただ、今年陽性で受けてなくて来年は陰性だったというところで、そのまま放置していくと、(早期だったために)たまたま出なかっただけかもしれませんので、必ず陽性になったら精密検査を受けるということが大切です。最初にも申しましたように、便潜血検査は腸の中を実際に見ているわけではありませんので、腸の中を通ってきた便の中に含まれている血液を頼りして検診を行っておりますから、陽性となったら精密検査を絶対受けるようにしていただきたいと思います。
ただ、毎回陽性になって、それでも内視鏡を受けて何もないという方は、2~3回受けて問題なければ、今度は内視鏡だけである程度定期的に見ていくしか方法はないかなと思います。そういった方は非常に少ないと思います。毎年便潜血検査で陽性になるという……何もなくて陽性になるという方は非常に少ないですので、2~3年おきに(内視鏡検査を)、(便潜血が)陽性になりやすい方は、受けていくという方法もないではないです。あるいは、内視鏡検査だけでは同じところを見ている可能性がありますので、初回が陽性になったら内視鏡検査、そのあとまた便潜血検査で陽性になったら次はまた内視鏡検査をやるんですけど、また翌年なった場合には同じ内視鏡検査じゃなくて今度はバリウムの検査とか、3D-CTっていうのが今ありますので、そういった検査で内視鏡の弱点を補うということも可能ではないかと思います。