検診で見つからないがん

便潜血検査(一次検診)の偽陰性

インタビューに協力してくださった方々に、大腸がん検診の信頼性をどう考えるかということを伺ったところ、ある男性は日本の医療では「悪性なのに悪性じゃない」と言われることはないだろうと話していました。ほかにも便潜血検査の結果が陰性のときと陽性のときがあったのを、「がんなら絶対にマイナスになるはずがない」と思って、精密検査を受けなかった人(「精密検査を受けない理由」のインタビュー21を参照)がいます。

しかし、今回のインタビューでは、便潜血検査を受けていて陽性になったことがなかったにもかかわらず、解熱剤の座薬を使った時の激痛と出血をきっかけに肛門科を受診して、大腸がんがわかったという女性がいました。便潜血検査による大腸がんのスクリーニングは、利便性、経済性、効率性に優れ、特異度が高く感度も比較的良い(※)優れた検査法なのですが、潜血反応が陰性であっても、あとから実は「大腸がん」であったと判明する場合がときにあります。このような場合を「偽陰性」とよび、その確率は1000人につき1~2人程度と推定されています。ここではそのような「偽陰性」のケースについて、体験者の語りをご紹介します。

※ある検査法を用いて病気の有無を判定する場合、その判定の確かさを「感度」と「特異度」で表現し、「感度」は「病気がある人」を「あり」と判定する率、「特異度」は「病気のない人」を「ない」と判定する率を指します。「感度」の高い検査は病気があることを見逃す危険が少なく、「特異度」の高い検査は「病気のない人」を病人と誤診する危険が少ないと言えます。

この女性は診断当時まだ20代だったのですが、定期的に便潜血検査を受けていました。一度も陽性になったことはなく、便通もよかったので、自分が大腸がんになるとは思ってもいなかったと言います。

便潜血検査は、便に交じった血液(ヘモグロビン)を検出することを目的としています。しかし、がんがあってもまだ初期の段階で出血していなかったり、がんが胃に近く肛門から遠い部分の腸にあったりすると、便を採っても血液が検出されないことがあり、そういう場合に偽陰性となります。さらに便秘がちな人の場合も、腸内の細菌によって血液が分解されやすく、便潜血の反応が出にくくなると言われています(詳しくは「一次検診・二次検診」の専門医のコメントを参照)。医師が便潜血検査によるスクリーニングを毎年受けるように勧めるのは、このような「偽陰性」によるがんの見逃しを防ぐためなのです。

次の女性は便潜血検査で陽性になったので、大腸内視鏡検査を受けたところ、上行結腸という大腸の中でも胃に近い部分にがんがあることがわかって手術を受けました。潜血反応が出にくいとされる上行結腸のがんだったのですが、彼女の場合はたまたま痔の出血があって便潜血検査が陽性になったことが幸いして、がんの発見につながりました。

このように便潜血検査では偽陰性になりがちながんでも、たまたま別の理由で出血があれば、大腸内視鏡検査で見つかることもありますから、毎年便潜血検査を受けることに意味があるのです。ただ、最初に紹介した女性のように複数回受けても陰性になることもあるのは事実で、それを踏まえて、この女性は自分でも便の様子に気を付けたほうがいい、と話しています。

この女性は、飲酒をしたら下痢を繰り返していたのが大腸がんの症状だったのかもしれないと回想していますが、健康な人でも飲酒後に下痢をする人はいるので、それだけでがんと決めつける必要はありません。けれども、自分で気になる症状がある場合は、便潜血検査で陰性だったとしても受診するべきでしょう。この女性はこのほかに、肛門付近に強い痒みがありました。これもおそらく痔から来た症状だったと思われますが、肛門科を受診することに抵抗感があり、先延ばしにしていました。同時に倦怠感もあったということですので、もしその時に受診していれば、もっと早くがんが見つかっていた可能性があります。その経験からこの女性は、検診にすべてを任せるのではなく、自分の体に敏感になって、自分の体調は自分で管理することが大事だと語っています。

なお、この女性は、がん専門病院で調べた腫瘍マーカーの値がとても高かったので、腫瘍マーカーを検診に使えないのだろうか、と話していました。腫瘍マーカーとは、増殖するがん細胞が作り出すたんぱく質を血液検査で調べるもので、がんの診断の際に補助的に用いられたり、進行の状態、再発や転移の有無、治療の効果を見るために用いられたりしますが、早期診断にはあまり役立ちません。

大腸がんの腫瘍マーカーとしてよく用いられているCEAでも大腸がんのある方のうち40~50%前後の人でしか高くなりませんし、逆にがんがなくても喫煙者では高くなるなど、健康な人を対象とした検診には向いていないのです。

精密検査(二次検診)での偽陰性

便潜血検査で陽性になって、精密検査を受ける段階で、がんが見落とされる可能性はないのでしょうか? インタビューでは、大腸内視鏡検査での偽陰性について話している人もいました。

このように大腸内視鏡を使っても、精度は100%ではありません。現在、一般に用いられている大腸内視鏡は視野が140度しかありませんので、腸のひだの陰に隠れた小さな病変は見落とされることもあります。しかし、そのような小さな病変はすぐに命にかかわることは多くないので、内視鏡で陰性の結果が出ても、引き続き毎年便潜血検査を受けて、潜血反応が出たらまた精密検査を受けることによって、手遅れにならないうちに発見しようというのが、大腸がん検診の仕組みなのです。(詳しいことは「一次検診と二次検診」の専門医の語りを参照してください。)

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