事前説明:説明の内容

通常の医療でも専門知識のない患者が、十分な理解のもとに納得して意思決定を行うことは容易ではありません。まして臨床試験・治験では、仕組みや手続きが複雑で、耳慣れない言葉も多く、理解はより困難です。

ここでは、今回のインタビューに協力してくださった方々が受けた事前説明について、その内容別に紹介します。臨床試験・治験への参加を考えている患者さんに事前に説明すべき項目は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP)等に定められています。以下では、その中から治験参加の意思決定に欠くことのできない重要な項目のいくつかについて、インタビューに答えた人たちがどのように説明されていたのかを見ていきましょう。

治験の薬や医療機器の開発段階における位置づけ

治験には開発の段階として第I相から第Ⅲ相までのステップがあります。治験実施者は被験者に対し、今回実施するのが第何相の治験かということを伝えなくてはいけません。しかし、私たちのインタビューでは、自分がかかわった治験が第何相だったかということを覚えていた人はあまりいませんでした。

「海外では承認されている」「開発段階の後ろのほう」といった言葉が、安心や安全性を裏付けるような形で使われていたように記憶している人たちがいました。ただ、海外で承認されている薬でも、食生活や遺伝的体質によって薬の効果や副作用の出方が異なることも考えられます。また、薬の開発の最後の段階(第Ⅲ相試験)まで進んでも、期待される効果が出なかったり、予想外の副作用が出たりして承認に至らないこともあります。だからこそ、治験が行われているのだということを忘れないようにする必要があります。

臨床試験・治験の仕組みについて

多くの臨床試験・治験では、薬や機器の効果や安全性を判断するために、参加者をグループ分けし、その各々に試験薬(機器)または標準薬(機器)を使用して、両グループを比較します。試験を実施する側は被験者に対し、そうした試験の組み立てに関わる基本事項をきちんと伝えなければなりません。例えば、グループ分けは「くじ引き(ランダム化)試験」かどうか;比べる相手は「標準薬」か「プラセボ」かなどの違いによって、被験者が期待する効果や安全性も変わってきますし、得られる試験結果の信頼性にも大きく影響するからです。

臨床試験・治験の実施方法の説明

臨床試験・治験を実施する側には、対象となる患者さんの条件や、薬の投与方法や機器の使用法、治験中の検査とそのスケジュール、参加予定期間と人数などについても、説明する責任があります。今回のインタビューでは普段の治療と比べて、より丁寧に説明してもらえてありがたいと話している人もいれば、実際に臨床試験・治験のプロセスが始まってみて、事前に説明されていたこととは違う、と感じた人もいました。

線維筋痛症の治療薬の治験への同意書にサインしたのに、その後から問診で除外基準に該当したという理由で参加を断られた女性は、事前説明のときにいわれた「お断りする場合もある」「参加できない場合がある」という説明が、同意した後の段階のことも含んでいる、というのは理解していなかったと話しています。

また、自分たちが参加した臨床試験・治験で、痛みを伴う検査や投薬があることを、事前の説明では理解していなかったと話す人たちもいました。

上記のお二人は、事前説明で理解していた内容とは違うと思いながらも、一度引き受けたことだからと、臨床試験・治験をやめることは考えず、つらかったことを実施側には伝えていませんでした(「参加継続/中止をめぐる思い」のインタビュー23も参照)。

メリット・デメリットの説明

臨床試験・治験への参加によって被験者が受ける利益と不利益の説明は、事前説明の基本です。今回のインタビューでは、多くの方が予測される不利益と副作用について説明を受けたことを話していました。

しかし、中には副作用や不利益については、説明文書には詳しく記載されていても、口頭では十分に説明されなかったと感じた人がいました。

一方、期待される利益についての説明では、どの程度効果を期待できるものなのか、プラセボのグループに入ったら病気に対する直接的な効果は期待できないことなども、被験者に伝える必要があります。しかし、今回のインタビューでは、次の人のように、本人にとっての利益が期待できないことをしっかり説明されたと話す人はあまりいませんでした。

自由意思による参加と同意の撤回について

臨床試験・治験は、その薬や機器の有効性・安全性についてまだきちんと証明されていないという点から、参加するかどうかの意思決定はあくまでも患者が自由な意思に基づいて行うことが大事です。そのためには、事前説明を行う人は、患者が参加を強制されているように感じないよう、いつでも断ることができることを伝え、ひとたび同意書に署名をしてもその同意を撤回して、途中でやめることができることを理解してもらう必要があります。

途中でやめられるということで安心して参加した人たちがいる一方、同意撤回についての説明が記憶に残っていなかったという人もいました。

2016年11月公開

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