参加継続/中止をめぐる思い

いったん臨床試験・治験に参加することを決めた後でも、途中で参加継続に不都合があれば患者本人の意思で参加を取りやめることができます。また、途中で被験者が体調を崩したり、生活に変化が生じたり、試験の計画全体が変更を余儀なくされて、試験参加を中止せざるを得なくなることもあります。私たちのインタビューでは、計画されていた期間の最後までやり切った経験も多くありましたが、医師の判断で中止せざるを得なかったり、自らの意思で参加を取りやめたりした経験もありました。ここでは、各人がどのような思いで、臨床試験・治験への参加を継続・中止したのかをご紹介します。

効果を期待して継続する

臨床試験・治験は、通常の治療と異なり、個々の被験者への治療効果を第一目的に行うものではありません。しかし、場合によっては臨床試験・治験で使われている開発中のものに効果を感じたり、効果があることを医療従事者から告げられたりすることもあります。私たちのインタビューでは、多くの人がそうした治療効果への期待や実感が、参加を継続するモチベーションになったと話していました。

効果が得られないので中止する

効果を期待して臨床試験・治験に参加している人の中には、効果がないのであれば参加をやめたいと考える人もいます。次の人が参加していた臨床試験はプラセボとの比較ではなく、必ず薬の成分が含まれる実薬が使われる試験でしたが、治験ではなかったので自己負担額が大きく、飛行機代もかかっていたので、3クール受けた時点で費用に見合う効果が得られないと判断して、参加を取りやめました。

継続したかったのに中止になる

一方、効果を実感したり、期待したりして臨床試験・治験に参加し続けたいと思っていた人の中にも、何らかの理由で参加を中止せざるを得なくなった人もいます。次の人は、腎臓がんを患っており、2回の治験に参加しました。2回目とも医学的理由で参加を取りやめざるを得なくなりましたが、本人としては参加し続けたかったことを話しています。

体調のトラブルではなく、手続き上の問題から参加を取りやめなくてはならなくなった人もいます。次の人は、全身性エリテマトーデスの治療薬の治験に参加していて、治験薬が体に合っていたので続けたいと思っていたところ、途中でいつも飲んでいる薬の処方の状況が治験の手順に違反していたことがわかり、残り1ヶ月というところで参加中止を余儀なくされ、残念に思ったと話していました。

効果がなくても継続する

初めから治療効果への強い期待を持っていなかった人たちもいます。次の人は、糖尿病の治験で毎日指先から採血をする必要があり、それが嫌だったにもかかわらず、人のためにもなることだし、せっかく勧めてくれた医療従事者に悪いという気持ちもあって、医学的な理由で参加中止になるまで我慢して続けたといいます。

C型肝炎を患う次の女性は、自分が今使っている薬も誰かが治験を受けて使えるようになったのだから、自分も役に立ちたいと思って治験に参加しましたが、副作用が出たため参加中止になってしまいました。医師には「我慢できるから続けたい」と訴えましたが、継続は無理と言われ、自分は役に立つことができなかったのではないかと考えていました(「参加した理由」「参加中の体調トラブル」のインタビュー32さんも参照)。

新しい薬の開発では薬の安全性を確かめることも重要です。途中で試験が中止になった場合も、どんな副作用がどれくらいの頻度で起こったかを知る上で、とても大事な情報なのです。ですから、副作用が出たことで試験を中止しても決して「役に立たない」ことにはならないので、何か支障が生じた時には無理をせず、すぐに担当医やCRCに申し出てください。

自ら参加中止を申し出る

こうした医療上の問題とは別に、生活環境の変化や気持ちの変化など、自分の都合で参加を中止する人もいます。

次の人は薬学部への進学を希望していたため、治験ではどういうことをするのか関心があって、自らにきびの治療薬の治験に参加しましたが、大学入学が決まり、生活が大きく変化したため自ら中止を申し出ました。

一方、自ら中止を申し出ることは考えられない、という人もいます。次の人は、母親が末期の膵臓がんで、既存の治療法で有効なものがなく、参加できる治験を探していました。そうした差し迫った状況では、せっかく参加できた治験を、患者側からの申し出でとりやめることが想像できなかったといいます。

2016年11月公開

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