家族会・本人の会に参加する

ここでは主に認知症の人を介護する家族を対象とする家族会と、認知症の人同士が話し合う場としての本人の会についての語りをご紹介します。

介護を支える家族の交流の場

認知症の人を介護する家族の会は、病院や介護施設が主催しているローカルなものから、全国に支部を持つ大きな組織まで、様々なものがあります。私たちのインタビューでもそうした家族会に参加している人や自ら会を立ち上げた人がいました。家族会を通じてこのプロジェクトを知って協力してくださった方も少なくありません。そうした家族会から派生する形で、認知症の本人の会も各地に立ちあがっています。

まずは家族会に参加した感想についてみていきましょう。多くの人が、介護で同じように苦労している人たちと話をすることで、癒されたり、勇気をもらったりした、と話していました。また逆に、異なる立場の人の意見を聞くことで「そういう考え方もあるのか」と気づいたと話す人もいました。

人によっては、こうした精神的な支えだけでなく、認知症の医療や介護施設に関する実際的な情報が得られてよかったと話す人もいます。特に、家族会で経過の長い認知症本人やその家族の現実に触れることで、今後病気が進行していった時の心の準備ができると考える人もいます。しかし、それとは反対に将来の看取りの話などは聞きたくない、という介護する家族もいました。

また、おしゃべり会などに参加するだけでなく、会のスタッフに個別に相談に乗ってもらったと話す人もいました。たとえば、夫が退職を迫られた時に家族会に相談して、簡単に応じずに休職扱いにしてほしいと交渉するよう助言を受けたケース(「病気と仕事のかかわり」インタビュー家族15を参照)や、患者会のスタッフに病院に同行してもらって、検査を受けたがらないピック病の夫を説得してもらったケース(「診断のための検査」インタビュー家族31を参照)などがそうです。

家族会の中には認知症を専門とする医療者が関わっているところもあり、そういうところでは主治医とは別の医師に治療に関する相談をしたり、治験などの情報を得たりすることができるのをメリットと考える人もいます。

さらに家族会への参加を通じて、自らの思いや情報を発信していくことに目覚めた人たちもいます。それらの人たちは全国組織の家族会の協力を得て講演をしたり、医療や行政に対してアピールを行ったりしていました。

レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症では、アルツハイマー型認知症とは症状が異なるために、同じ病気の方達の家族と出会って話すことが安堵感につながったと話しています。

次の女性は、施設主催の前頭側頭型認知症の家族会に参加した感想を話してくれました。

本人も参加できる若年性認知症の会

一般的に認知症の家族会は、認知症の高齢者を介護する家族が中心となっているため、参加している介護者の年齢も比較的高く、本人は病状がかなり進んでいる人も多いので、診断を受けて間もない若年性認知症の本人や家族が参加すると、ショックを受けたり、馴染めなかったりすることがあります。施設への入所や深刻なBPSD(認知症に特有な行動・心理症状)の話題などは、認知症本人には聞かせたくないと思う家族もいます。しかし、そこをあえて本人と一緒に参加した人たちは次のように語っています。

若年性のレビー小体型認知症の女性は、ネットで認知症の人の家族が介護の苦しみについて書き込みしているのを読んでいて、自分も「いつかはその加害者になるのか」と思っていたので、家族会に参加することをためらっていました。しかし、認知症の人が体験している症状をわかってもらうために家族会に出て話をしているという同世代の同病の女性に出会い、考え方が変わったといいます。

一方、なるべく自分たちと同じような境遇の人たちで集まったほうが、いちいち状況を説明しなくても済み、共感も得やすいことから、若年性認知症の人に特化した家族会も各地に発足しています。若年性認知症の場合、妻や夫といった伴侶が主に介護する人になることが多く、高齢の親の介護をする場合や老老介護の場合とはまた違った悩みがあるようです。認知症本人も身体的に健康で移動に支障がないことが多いので、夫婦揃って参加する人も少なくありません。

認知症本人の交流会

夫婦で一緒に病気に立ち向かっている場合でも、認知症本人と介護する人は立場が異なり、本人ならではの悩みや遠慮から口にできない介護する人に対する不満などもあります。そうした思いを本音で語り合える場として、認知症本人の交流会も開かれるようになっています。そうした交流会に参加することが、本人自らの力を自覚し、自らの生活や環境をコントロールする力を身につけること(*)につながっていると家族も話しています。

(*)この考え方を「エンパワーメント」と呼んでいます。

また、若年性認知症本人も当事者同士がつながることの大切さを訴えています。特に同年齢の同性の当事者同士だと困りごとや悩みにも共通点があり、互いに支えあうことができるというメリットがあります。

次の男性は、不安のある時は、ウェブ上の認知症当事者の会に自分の不安を投げかけてみてはと提案しています。そのためには、ITが苦手と諦めるのではなく、教えてもらって自分も覚える努力が必要だと話しています。

この男性(本人14)はインタビュー後、他の認知症本人とともに「日本認知症本人ワーキンググループ」という当事者組織を立ち上げ、認知症の人をめぐる政策や地域の取り組みに対して、「本人抜きで進めない」よう、当事者の視点から提言を行う活動を始めました。
前述の女性(本人16)も、その後、積極的に講演活動を行う若年性認知症の当事者丹野さん(本文参照)と出会って、自分も他の認知症の人のために役に立ちたいという思いを強くしたことを語っています。

求められる若くして介護する人の交流の場

若年性認知症本人を介護するパートナーの多くは50代~60代ですが、その子どもたちは10代~30代で、通常は介護とは縁のない生活を送っている世代です。そうした子どもたちが同じ立場の人と交流できる場を提供している家族会もあります。しかし、仕事や子育てで忙しい年代の子どもたちは、家族会に参加するのも容易ではありません。そうした若い世代の人たちの多くはブログなどを通じて匿名でネット上に思いを吐き出している、と話している人もいました。

2021年7月更新

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