診断されたときの気持ち(認知症本人)

ここでは、医師からはじめて「認知症」と告げられたとき、ご本人が何を思い、どう感じたのかをご本人と家族の語りから紹介します。診断時に少なからず受けるその衝撃の度合いは、診断を受けた年齢や経緯、就労状況、認知症に関する情報量、アルツハイマーかレビ-小体型かといった認知症の種類によっても異なっています。ここでは診断時の年齢で分けて、若年性認知症と診断された人の気持ち高齢で認知症と診断された人の気持ちについて、順に紹介します。

若年性認知症と診断された人の気持ち

若年発症した方のなかには、その病名に真っ青になったという人や自分や家族のことも分からなくなるなら死ぬと言った人がいました。

若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けた女性は、渡辺謙主演の映画『明日の記憶』で見た印象しかなくて、自分もそうなると思って深く悲しんだそうです。

また、60歳で若年と言われてもなんだかよく分からなかったという人もいました。

また、診断当時のことを、今はよく覚えていないがとにかく悔しかったと涙を流しながら話す男性がいます。その妻は、当時夫がいろいろなことを自らできないと判断して、何カ月も家にこもりきりになっていたと回想しています。今では診断される前から続けていた球技の練習や、患者同士の交流会に出掛けたりするようになりましたが、そうした外出についても自分から迷うことを恐れて、一人では出掛けない、と話していました。

一方、普通に受け止めることができた人、診断名がついたことでかえって気持ちが前向きになったと話してくれた人もいます。若年発症では、認知症と診断がつくまでにうつ病の治療を受ける人が少なくありませんでした。治療を受けてもいっこうに改善が見られない見通しのつかない不安の中で、「若年性アルツハイマー型認知症」というなじみのない診断名であっても、診断名がついたことでホッとしてがんばる意欲がわいたというご夫妻もいます。(うつとの関係については トピック「病院にかかる」 を参照)

心療内科でうつ病と診断された大学教員の男性は,1年後に、薬局で働いていた妻の勧めで脳神経外科を受診し認知症と診断されましたが、「僕的には平気だった」と語っています。一方、妻は、夫もショックはショックだったと思うが、診断後すぐに、ネット検索して大量の情報を打ち出して読んでいる姿をみて、なんとか授業をやらなくてはという思いが感じ取れたと語っています。

製薬会社に勤務し、病気に対する知識があった男性は、診断を受ける前から認知症についての文献を入手していました。妻と共に告知を受けた後、病気のこれからについて書かれた文献を家族にも見せることで、病気への理解と覚悟を求めています。

一方、医師として十分な知識があったからこそ、自分がアルツハイマー型認知症になったことをなかなか受け入れられなかったと言う人もいます。

当初うつ病と診断されていた若年性レビー小体型認知症の女性は、幻視などの症状から自らレビー小体型認知症を疑って受診したにもかかわらず、リバスタッチパッチによる治療が開始されたときには、「認知症」という焼印を押されたように感じたと語っています。

夫の診断に付き添った女性は、レビー小体型認知症と告げられた時の夫の姿を今でも覚えていて、切なかったと話しています。

「認知症っていう言葉は非常に重たい。もうあなたは終わりですみたいな感じがした」と話すレビー小体型認知症と診断された女性は、診断の際には精神的なサポートが受けられるような仕組みが必要だと語っています。

中には、いくつかの病院を受診後、大病院で精密検査を受けて、若年性アルツハイマー型認知症と診断され、真っ青になったという人もいます。

脳血管性認知症は脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害によって起こる認知症ですが、交通事故などによる脳血管疾患や脳損傷といった病気により神経に何らかの障害が生じる高次脳機能障害との判別は、専門家でも難しいとされています。いずれの場合も脳への損傷のために脳の機能に障害が生じたり、知能が低下したりといったことがみられますが、高次脳機能障害の場合は、損傷の程度によっては回復の可能性が無いわけではありません。
転倒から1年経ってしまい、脳の血管障害が原因で転倒したのか、転倒して後頭部を打ったことで脳血管障害が起こったのか、今となってはわからないという男性は、言葉が上手く出てこない、急ぐ動作が取れないなどの症状を訴え、いくつもの医療機関を受診しています。脳血管性認知症と高次脳機能障害という2つの診断名がつき、自分としては高次脳機能障害のほうがしっくりすると話しています。

高齢で認知症と診断された人の気持ち

2015年の厚生労働省の報告では、10年後には65歳以上の5人に1人が認知症に罹患するとされています。いまや誰でもかかる可能性のある病いですが、その受け止め方は一人ひとり異なります。自分でもの忘れに気づき、かかりつけ医に相談し検査を受けていたという人がいる一方で、診断を受けても自覚がない人、自分の物忘れはただの物忘れで、認知症という病名がつくことを不思議だと感じたという人もいます。

また、高齢の認知症の方は、自分が認知症になったことで家族に迷惑がかかることを「申し訳ない」と思い(「認知症本人の家族への思い」を参照)、迷惑をかけるくらいなら「早く死んでしまいたい」といった言葉を漏らすことがあります。

70代女性がレビ-小体型認知症と診断された後の様子をご家族が話しています。

レビー小体型認知症の場合、当初、他の認知症と診断されることも少なくありません。ある女性の父親は、脳血管型認知症と診断されたもののせん妄や幻視が続き、歩き方もおかしくなるなど、診断に違和感をぬぐえませんでした。2年を経て地域の開業医から脳にできたレビー小体が原因と説明を受けて、「だから具合が悪かったんだ」と、その日から気持ちの上で元気を取り戻したそうです。

2021年7月更新

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