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Sue Ziebland先生来日講演記

英国DIPExリサーチディレクターである、医療社会学者Sue Zieblandさんが2006年11月に来日し、東京、京都で講演会を行いました。

【Sue Ziebland先生来日講演】

公開フォーラム「患者の語りが医療を変える:患者の語りデータベースDIPExの実践例に学ぶ」

場所:東京大学本郷キャンパス 理学部新1号館・小柴ホール
日時:2006年12月2日

待ちに待った公開フォーラム「『患者の語り』が医療を変える−患者の語りのデータベースDIPExの実践例に学ぶ」が開催された。この日、小柴ホール(東京大学)は、約130名の参加者たちでにぎわった。

Koshiba Hall

参加者には、研究者以外に医療関係者、患者団体の方、マスコミの方、そして一般市民の方も含まれていた。当日を迎えるまで作業は手作り、効果的な周知方法は?と模索しながらの開催であったが、前日には新聞記事にも広告された。DIPExがより多くの方に関心をもっていただけた結果のようで、開催者としては喜びの声を上げた。

まずは第1部として、DIPEx-JAPAN設立準備会を代表して、佐藤(佐久間)りかさん(お茶の水女子大学ジェンダー研究センター研究協力員)からの報告。「DIPExって何だろう?」の素朴な疑問を解く、わかりやすい入り口となった。集積されている疾患の紹介、DIPExモジュールの構成などが説明され、実際の患者の語りの画像が流れたときには、会場の目は釘付けになった。これまでホームページは知っていても、画像から流れる声は英語であり、それが日本語にちゃんと吹きかえられていたからだ。疾患体験を語る方の身振り手振りの詳細までがわかる。病気を患った当事者の、本当の心情を知ろうと思えば、テキストデータからはわかり得ない雰囲気や表情までを見なければいけない、そのことを実感させてくれる画像だった。

Sue Ziebland

そしていよいよ、英国Oxford大学講師(reader)で、「患者の語り」のデータベースDIPExのリサーチディレクターであるSue Zieblandさんからの講演。今後、我々活動の基本知識となる内容だった。前日のワークショップからの流れを受けるものだが、さらに一般の方にもわかるように、よりわかりやすく詳しい内容が説明された。DIPEx活動の意義・目的、運営委員会の組織、調査手法の実際、著作権や倫理委員会への働きかけ、そして資金調達、医療政策や他部門との共同研究の関連など…。往々にしてこのような活動発表の場合、聞き手は「(活動した)当事者でなければわからない」「文化が違うのでわが国では無理」などの感想を抱きがちであるが、医療体制が異なる我々にとってもDIPExが何者なのか、その表舞台から裏方の仕事までがわかるような内容だった。

続いて、第2部「日本における『患者の語り』をめぐる取り組み」と題して、わが国で患者主体の医療を目指す活動を先進的に行っている2名の方から講演をいただいた。まずは健康情報棚プロジェクト代表、石井保志さんからの講演だった。DIPExと形は異なれど発信元を同じくする、病の語り“闘病記”。この1年、全国に闘病記文庫を広める活動を行ってきた彼からの投げかけは、「必要な医療情報、特に先輩患者からの声は今、悩む本人たちに届いているか」であった。昔から出版され図書館に並んできた闘病記だが、一般的な分類記号からでは私たちあるいは患者本人は、疾患を特定して手にとることができなかった。それを、石井さんは可視化した。活動はそのことにとどまらず、闘病記の医療者教育への活用、そして患者会資料など他の医療資源との連結におよんだ。彼らの活動もまた、「疾患体験者の生の声が当事者を救い、政策を動かす」という、DIPExと礎を同じくしていることを感じさせられた。

最後は、NPO法人楽患ねっとから副理事長、岩本ゆりさんの講演だった。多くを語らずとも彼女たちグループの5年間の歩みが、ここに集結・具現化したといっても過言ではないように思えた。ナースとして長い経験をもつ彼女は、もっともそばで患者の声を聴き、現実の医療が患者のためになっていないことを肌で感じていたのだろう。まずは学会や患者団体の集会に足を運び始め、その体験が最終的に会の立ち上げにつながったという経緯は、まさしく「“どうやって患者の声を生かすか”の歴史といえる」(岩本さん資料より)。メーリングリストに表された患者の声、それを聞いた学生の学び、そして「360°カンファレンス」という患者-医療者協同のディスカッションの場は、その名の通り医療に対する提言と解決の道筋を、幾重にも表現しているようだった。

panel discussion

その後第3部として、上記3名と、佐藤(佐久間)さんに代わり中山健夫さん(京都大学社会健康医学系専攻健康情報学分野)が壇上に上がり、ディスカッションが行われた。中山さんからは診療ガイドラインやNICEがそもそも、患者と“ともに自己決定のため”であったとの基本的背景から、それが実現しない故に患者-医療者間に生まれているギャップは何であるかという、現在の医療現場の問題について指摘がなされた。

会場からは、患者会代表、教育現場からの疑問の投げかけ、実際に診療にあたる医師からの難しさなど、さまざまな意見が聞かれた。特筆すべきは、「科学で明らかにできることは最低限決まっている。それ以上の、患者の細かい声を吸い上げる機能がない」−こう投げかけたフロアからの声であろう。我々医療者は、どこでもいつでも公平に、確かな医療が提供できるよう日々努力している(つもりである)。しかし、科学的根拠にもとづいた医療を行っている、と確固たる信念をもつことはできても、それが常に患者当事者の理解・納得・満足とイコールになるわけではない。我々は専門家として、そのギャップが何であり、どのくらい溝を埋められているかを常に自分に問うことしか、今はできないような気がしている。

DIPEx-JAPANが今後どのように機能し、上記疑問に答えを出していくのか、多くの人と認識をともにできてエキサイティングな場であった。今後の活動に向けて、限りないパワーをいただいた。

(和田恵美子)