病気と仕事の関わり

前立腺がんの場合、診断を受ける人の平均的な年齢は60~70歳と言われています。そのため私たちのインタビューでは、比較的多くの人が、診断を受けたときにはすでに仕事の第一線からは退いていたか、定年を迎えていたと話していました。しかし、定年前後に診断を受けた人でも、生活のためにまだまだ働く必要があったという人もいますし、40~50歳の働き盛りで診断を受けた人もいました。また仕事は、単なる生活の糧を得る手段に留まりません。生きがいや心の支えだと考える人もいます。ここでは、このような職業生活と前立腺がんの関係について、体験者の語りをご紹介します。

仕事への影響(勤めている人の場合)

勤めに出ている人の場合、治療や療養に際して、仕事の調整ができるかどうかが大きな問題になります。これには立場や仕事の内容が大きく影響するようです。例えば管理職であったり、リタイヤを考えていた時期だったりして、仕事の多くを他の人に任せられるような人たちは、調整もしやすく、影響をほとんど感じなかったと言います。

一方、かなり影響があったという人たちもいます。60歳の定年後に再雇用を受け、年金受給年齢まで働く予定だった男性は、診断後に精神的な負担が増えているにも関わらず、診断前とさほど変わらない仕事を続けなければならなかったことの大変さについて語っています。治療が長期にわたるため、仕事が思うように出来ないなかで、職場に行き続けなければならない状況を「針のムシロにいるよう」と話していました。また、部門の責任者として第一線で働いている公務員の男性は、進行がんを抱え、睡眠のコントロールが難しくなり、そのためにかかる身体や精神への負担について話していました。

一方、限局したがんで、放射線治療の内部照射法や手術療法など、短期間で治療が終了する見込みがあった人は多くの場合、職場にも説明しやすく、ほとんど影響なく仕事の調整や復帰ができたと話していました。

治療 期間の問題ではなく、手術の後遺症である尿漏れが改善するかどうかが、仕事復帰の大前提だったと話す方もいました。

とりわけ治療期間が長期にわたる人たちは、仕事と治療の両立のために必要なサポートについて話題にしています。通院サポートや休職期間、傷病手当などの福利厚生がどの程度充実しているかは、職場の企業規模や、官か民かによっても大きく異なります。ある公務員の男性は、仕事をしながら通院で放射線療法を受けたときの苦労について語っています。

中小企業に勤めていたある男性は、仕事を続けたくとも職場との調整がつかず、辞めざるを得なくなってしまった体験を語っています。このように働きたくとも辞めざるを得なくなったと話す人の多くは、年金が受給できる年齢になるまで、失業手当や貯金を切り崩しながらの生活をせざるをえなかったと話していました。この男性は、前立腺がんのような闘病期間が長くなる病気については、体調がよい時に仕事ができるよう、社会として就業支援体制をもっと整えてもらいたいと話していました。

仕事への影響(自営業の場合)

一口に自営業と言っても、調整のしやすい仕事もあれば、難しい仕事もあります。窯業を営むある男性は、診断後は体調に無理のない範囲で仕事を続けていると話していました。選んだ治療と仕事の組み合わせによっては、治療と仕事を同時並行で行うことができたと話す人もいました。放射線治療の外部照射法を選択した男性は、入院中も精力的に仕事をこなした経験について語っています(放射線療法(外照射療法)のインタビュー06を参照)
一方、代理の効かない仕事に就いていた男性は、入院の日程調整のときに、仕事先との交渉や工夫が必要だったと語っていました。

前立腺がんの診断を受けたことを、仕事関係の人に伝えるかどうかについて、多くの人たちが語っています。仕事の調整のために、話す必要があったという人がほとんどでしたが、自身の健康情報が漏れることが、会社や仕事の大きな損失につながる場合や、話さなくても済むような仕事についている人たちは、基本的には話さないか、話す人を慎重に選ぶと語っていました。例えば、企業の外部講師として働いている男性は、健康状態が仕事の依頼にかかわる重要な情報になるので、基本的には口外しないと言っていました。また企業経営に携わっていた男性は、現役当時であれば、病気のことは口にしなかったと話し、その理由についても語っています。

生きがい、成長の糧としての仕事

人によっては、仕事は生活費を稼ぐ手段だけには留まりません。ある男性は、病気のことを考えないようにするために、そして自身の尊厳を保つためにも、仕事は必要だと話していました。またある男性は、NPO法人でキャリアコンサルタントとして働き続けることについて、たとえ末期がんであっても仲間とともに自分を成長させたいから、仕事を続けたいと語っていました。

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