応援メッセージ(アグネス・チャンさん)

勇気を出して語ってくれた患者さんに感謝!

誰でも、病気になると不安になります。病気についていろんな疑問もわいてきます。中には他人に聞けないこともあり一人ぼっちで孤立してしまうこともよくあります。そんな患者さんも、このDIPExを通じて、先に病気になった方の「語り」を聞くことで、不安や疑問を解消できるかもしれません。このことは、ほんとうにすばらしいことだと思います。

私も2007年秋に乳がんが見つかった後、薬の副作用などいろんな心配ごとがありました。そんな時、リレーフォーライフ(※)などの活動でお会いした皆さんから、「私もそんな症状あったけど、一年くらいで治るよ」とか「大丈夫、なんとか乗り切れるものよ」というアドバイスをいただいて、ほっとした経験があります。まわりにそんな経験者がいなくても、このデータベースでインタビューを聞くことで、同じような効果が得られると思います。

このデータベースでは、患者さん自身が映像で語ってくれます。自分の病気のことについてインタビューを受け、公表するということは、とても勇気のいることです。病気を公表することによって、家族に心配を掛けてしまうとか、例えば、仕事を頼んでも大丈夫?などとまわりの人が必要以上に遠慮してしまうとか、そんなこともあるでしょう。でも、勇気を出して患者さん自身が語ることによって、多くの人に強いメッセージを送ることができます。その「語り」を聞いて、「病気と闘っているのは、私だけじゃないんだ」と、後に続く多くの患者さんが勇気をもらうことができます。そしてそうやって勇気を出して語ってくれた患者さんに大きな感謝の気持ちを持つと思います。

さらに、そうやって自分の体験を語ることは、その患者さん自身にとっても、その人がその瞬間を生きた「証(あかし)」を示すものとして、深い意味を持っていると思います。

このデータベースは、患者さんが適切な治療法の選択をすることにも役立てられます。私の場合は早期発見だったので、いろいろ治療法に迷うことはありませんでした。でもがんの種類によっては、日進月歩で治療法が変化しているものもあります。そんな最新の情報を誰もが知ることができるわけではありません。みんながみんな、すごいがんセンターの隣に住んでいるわけではありませんからね。同じ日本国内でも、場所によっては、病院で最新の治療についての情報が得られないというところもあります。そういう意味で、このデータベースの意義は大きいと思います。

もちろん、その情報を鵜呑みにするのではなく、自分でも良く調べる必要はあります。他の人にはうまくいっても自分には合わないということもありますから。

このデータベースは、未来の医療の担い手である医学生や看護学生などの教育に役立てられると聞いています。確かに、私もお医者さんの前では、言いたいこと十のうちの二くらいしか言えません。お医者さんは忙しそうだし、後ろにたくさん他の患者さんが待っていらっしゃいます。心配なことがあっても、お医者さんに「大丈夫です」といわれたら、そうですか、というしかないんですね。

がんという病気は、長い経過をたどるものです。手術したら終わり、というのではなく、時には再発したり転移したりします。自然に、お医者さんとのつきあいも長くなります。ですから、お医者さんと患者さんの心が通じ合っていなければ、お互いに疲れてしまうのです。そういう意味でこのデータベースを学びに活用することで、ひとりひとりの患者さんの気持ちを考え、患者さんと心を通わせることができる医療者がもっともっと増えてくれればいいと思います。

最後に、がんと闘うみなさんに私からメッセージを送りたいと思います。
「みんなで一緒に、希望を持って、毎日を大事にして、がんばっていきましょう」。
このDIPEx「健康と病いの語りデータベース」が、多くの患者さんをつなぎ、勇気づけてくれることを期待しています。

※リレーフォーライフ:がんと闘う人たち(サバイバー)の勇気をたたえ、地域社会全体でがんと闘うことを目標に、患者、医療者、家族、友人たちが24時間リレーをしながら歩き続けるチャリティーイベント。1985年にアメリカで始まり、日本でも2007年の秋以降全国10か所あまりで開かれている。アグネスさんはこのイベントに実際に参加するなど深くかかわり、支援をしている。

アグネス・チャン(歌手)