大腸がん検診の語り

インタビュー02:プロフィール

井上さん(仮名)にとって、便潜血検査は毎年受けている人間ドックのメニューに入っているため、特に意識することなく受けていている。3回便潜血反応が陽性と出たが、一度目は20年近く前のことで、その後内視鏡検査をしてポリープが発見され切除したものの、悪性ではなかったため、数年前に再び反応が出たときは内視鏡検査などの精密検査は受けなかった。便秘をしていて、いきんだ時に出血したのかもしれない、との思いもあり受ける必要を感じなかったからである。結果を聞くときに、一緒に人間ドックを受けた妻がいたが、ご家族のために受けて下さい、という医師の言い方には違和感があった。検査を受けさせるために、家族を利用してプレッシャーをかけるのはおかしいと感じた。金融関係の仕事をしているが、顧客に商品を勧める際には、必ずリスクについても話している。しかし、医療の検査では、ただ検査してください、と言うだけである。検査を受けることの、精神面も含めたデメリットや、検査を受けた結果どのくらいの割合の人が問題ないと言われているのか、など説明を受けたことはないし、データとして見たこともない。もし、がんが見つかる可能性が非常に低いのであれば受けないかもしれない。また、ほとんど同じ時に2回検便をすることの意味もわからない。例えば、便潜血検査で検査当日に便秘をしており、2~3週間後に(便秘をしていないときに)もう一度検査をしてみましょう、という医療機関があれば、その方が合理的だと考えるので、お金を多く支払っても受けてみたい。こうした考えに至る背景には、歯の治療をする際に十分に説明しないで(被曝というリスクのある)レントゲン撮影を強く勧めたり、コンタクトレンズを売るために見当違いな診断をした眼科での経験があるからだと思う。命には代えられないという気持ちを逆手に取るような、医療者の指示には、簡単に従いたくはない。
だが、病気を早く発見して早く治療することのメリットはわかっている。十分に納得する説明を受けた上で、医療を受けること自体には何ら問題はないと思っている。今回3度目の便潜血反応が陽性と出たので、年齢的にも腸をチェックしてみても良いと思い、内視鏡検査を受けようかと考えている。