大腸がん検診の語り

インタビュー34:プロフィール

徐さん(仮名)は結婚して子どもが生まれるまでは教員として働いており、当時は職場で健康診断を受けていた。その中に便潜血検査も入っていた。4人の子育てのあいだは、夫の会社の主婦検診を受けることは可能だったが、とてもその余裕はなかった。在日韓国人として本名を使用していたため、子どもたちがいじめや差別にあい、子育て自体が大変だった。
2人目の子どもが生まれた頃から痔になった。便秘もひどく市販の下剤をしばしば服用しており、この時期は心身ともに不調だった。一番下の子どもが中学校に入ったので、療育センターに再就職した。職場では定期的に健康診断があったため、再び便潜血検査を受けるようになった。ある時、結果が陽性となり、自宅近くの大きめの病院で内視鏡検査を受けた。検査そのものの痛みは大したことはなかったが、前日に飲む下剤は量が多く閉口した。また、内視鏡検査をした時、医師から周囲に聞こえるくらい大きな声で「痔がありますね」と言われたのはショックだった。怒りさえ覚えたが、大腸の中を見ることが大切だと思い直して最後まで見た。大腸の中はきれいで、出血の原因は痔ということだったが、もう内視鏡検査は受けたくないと強く思った。それ以降、食生活に気を付けたためか痔はあるものの出血はしなくなり、便潜血検査で陽性になることもなくなった。
しかし、療育センターをやめて子育て支援センターの相談員をするようになって、ストレスから大腸炎になった。出血がひどく、もっと大きな病院で内視鏡検査を受けるように言われ予約をとった。だが、どうしても受けるのが嫌で、やめてしまった。がんの可能性もあったので、これまでより一層生活に気を付けるようになった。食材のみならず、ドレッシングや酵素まで手作りし、体調は快復した。仕事をする日数も減らして、今は少し余裕のある生活ができるようになった。
在日一世は永住権や納税の有無に関わらず、長いこと健康保険に入れなかった。雇用差別もあり、経済的に厳しかったので病院に行くことも困難だった。徐さんは在日二世なので、子どもの頃健康保険が適応されるようになったが、日々の生活の苦労から健康診断まで手が届かなかったし、誰も「健診に行こう」と言ってくれる人はいなかった。社会的に差別されている人々はなかなか健康診断やがん検診には行けないのではないか。
健康診断/がん検診は体の不調がないのにわざわざ行くのだから、医療者側にもう少し配慮があっても良いと思っている。療育センターで精神障碍者たちと接し、その後子育て支援センターで多くの母親の相談に乗った経験から、人と人との関係性が重要だと感じている。がんの検診制度も医師と患者の関係など人間関係が大切。健康診断/がん検診が患者にとって嫌な経験にならないような気配りが欲しい。