大腸がん検診の語り

インタビュー18:プロフィール

医療関係の仕事に就く辻さん(仮名)は、毎年職場の健康診断を受けてきた。2008年に便潜血検査で陽性反応が出たものの、忙しい、面倒、恥ずかしい、がんになるはずがないとの思いから、このときは精密検査を受けなかった。実際、便通異常などの自覚症状は何もなく、おそらくは痔による出血だろうと考えていた。
その後も便潜血検査では陽性反応が出たが、やはり精密検査は受けず、2年余りの間放置していた。だが、2010年の8月、毎年行っている山登りで体調の異常に気づく。いつもは3回の休憩で頂上に着くのが、この年は倍の6回休憩を入れないと登頂できなかった。これはおかしいと思い、帰って早々に貧血検査を行ったところ、成人男性の平均の半分ほどの値しかなかったため、すぐに精密検査の予約を入れた。
その3日後に受けた内視鏡検査で、大腸に腫瘍が見つかってしまう。病変が広範囲に確認されたため、すぐに手術をすることになった。がんができた場所は盲腸近辺で、腹腔鏡手術の対象になるかは微妙だったが、できるだけ早く仕事に復帰したかった辻さんは、医師に無理やりお願いをして腹腔鏡で手術を受けた。
手術はうまくいき、術後の回復も順調だったため、1週間で退院できた。ただ、詳しい検査の結果、がんはステージⅢbまで進行しており、リンパ節などへも転移していたため、抗がん剤治療が行われることになった。既に仕事に復帰していたこともあり、治療は基本的に外来で受けた。抗がん剤治療のやり方は昔に比べて格段に進歩しており、患者のQOLもずいぶんと改善されていることが実感できたが、食欲不振や吐き気、手の神経の痺れ、顔の冷感過敏などさまざまな副作用があり、それについては我慢の連続だった。
最初に便潜血検査で陽性反応が出たときに精密検査を受けておけば、もう少し早期の段階でがんが見つかったのに、という思いはある。ステージⅢbということで、自分の将来についても楽観はしていない。時々眠れなくなることもあるが、とにかく悔いが残らないよう、今できることを全部するという気持ちで、趣味などにもこれまで以上に熱心に取り組んでいる。そうした意味では、前の10年より多少充実はしているようにも感じている。ただ、全体としてみたときに、やはりがん患者への治療後のフォロー体制は不十分であり、国にはがんになった後のアフターケアにも力を入れてほしいと思っている。
がんは自分で防ぐのが難しい病気であり、やはり検診で早期に発見することが重要になるが、大腸がんに関しては、便潜血検査で陽性反応が出ても精密検査を受けない人が多いというのが現状である。そこには、羞恥心や面倒さ、経済的なコストの問題などがあって、解決は難しいのかもしれないが、例えば、身近な人が大腸がんになったと聞けば、少しは自分も気をつけようとなるので、そういう人たちの経験談を聞ける機会を作っていくのが一番いいのではないかと思う。