大腸がん検診の語り

インタビュー29:プロフィール

辺見さん(仮名)は公務員として勤務していた。職場では毎年健康診断が実施されていたが、便潜血検査はオプションだったので受けることはなかったし、受けるようにという指導もなかった。異変に気づいたのは、朝排便の後にティッシュペーパーに茶褐色のものが付いた時だった。これまでそのようなことはなかったし、尋常ではないと思い、当日かかりつけ医を受診した。その場で、総合病院を紹介され、救急外来にかかった。そこでは、問診、触診、血液検査をしたが、私から距離をおき医師同士がうつむき、小声で話している様子に不穏な空気を感じた。入院が決まり、CTや内視鏡検査を受け、ステージⅣの「直腸がん、多発性肝転移」と診断され、リンパ節への転移も伴っていた。
がんと告知された時は、実感はなく受け流してしまった感じだった。直腸のがんと肝臓のがんを切除し、抗がん剤治療に取り組むこととなった。しかし、抗がん剤治療中にも関わらず、再度肝転移、肺転移が確認され、治療薬を変えて様子を見たが、がんは縮小せず外科手術を行った。それでも職場復帰を目標に頑張り、一度は復帰したものの、復帰後3ヶ月で再び肝臓と肺に転移した。治療は長期にわたり、仕事を休む必要があったため退職を選択した。術後、排便も健康な時とは違い、日常生活での困難を感じている。病気のことは同僚や上司に特に隠すことはなかった。
直腸の手術の他、肝臓と肺の手術も合わせて計7回の外科手術を受けた。頻繁な入退院を経て、がん患者が置かれている状況はとても厳しいと感じている。がん治療の費用は高く患者の経済的負担も大きい。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代を考えると、国や地方自治体はがん撲滅のためのプロジェクトを作るなど、一刻も早く真剣に取り組むべきだと考える。辺見さん自身は、忙しい中でパンと牛乳だけなど食生活をおろそかにしていたことが、がん発症の大きな要因だと思っている。
今は自己管理で再発しないように工夫した食生活を実践している。検診を受けることもそのひとつであり、検診を受ける時間はとられるが、たった1日か2日で1年分の安心が得られるのであれば、有給休暇を取ってでも積極的に受けるべきだと思う。
がん患者への支援や予防など国としてやらなくてはいけないことは多々あるが、現場の医療者は本当に頑張っている。医療者を疲弊させないということも、よりよいがん医療を実現するためには大切だと思う。