大腸がん検診の語り

インタビュー31:プロフィール

町田さん(仮名)は調理補助の仕事をしており、基本的に1か月に1度は検便を受けることになっている。この他に年に一度の健康診断が職場で実施されており、その中に検便が含まれている。このように頻繁に検便をしているが、幸いなことに一度も陽性になったことはない。便を取るのにも慣れて、特に億劫だと感じることはない。だが、もしも陽性と出たら精密検査をすることになるだろう。身近に大腸の内視鏡検査を受けた人はいないが、テレビの健康番組で見たことはある。痛そうだと思うし、前日から食事をコントロールするなどの準備も大変そうだと思った。また、血液の状態を継続的にチェックするため献血をしている。健康診断にも入っているが、血液中のアルブミンも大切だと聞いたので、気をつけている。
ただ、検便も含めて、この病気を知るためにこの検査をしている、と明確に考えたことはない。このインタビューを受けることになって、はじめて健康診断の検便は大腸がん検診なのだと知った。たまたま家に遊びに来ていた社会人の子どもと(子どもの)友だちに、どういう状態だったら大腸がんの検診が受けやすいのか聞いた。検査の場所や費用、窓口がどこなのか、など検査を受けるにあたっての情報が不足していると感じた。通勤に駅を通る人が多いので、駅構内にわかりやすく提示するのが良い、と言っている人もいた。
一方で受ける人の意識も大きいと考える。自分が健康に気を付けようという意識がないと、人から言われても簡単に生活習慣を変えるのは難しいだろうし、検診を受けない人もいると思う。
けれども、検診さえ受ければがんが早期発見できるとは思わない。早期発見の限界はあると感じている。実は20年前に夫が舌がんで他界した。会社の健康診断は毎年受診してがんの可能性を指摘されたことはなかったし、最初は歯茎が痛いと言っており、まさか舌がんになっているとは思いもしなかった。なぜもっと早く気付いてあげられなかったのかと自分を責める時期が続いたが、ミクロの世界のことを見ることは難しい、と知人に言われて少し気が楽になった。今は技術が進んで色々な検査ができるようになったので状況は違うかもしれないが、これまでがんで身近な人を亡くした人たちと話してきた経験から、検診で大丈夫でもがんがある可能性もあると感じている。ただし、自分で受けられる便潜血検査などの基本的な健康診断は、毎年受けていきたいと思っている。
医療者の方々には大変お世話になったが、中には患者の気持ちを配慮しない医療従事者もいた。また、家族が病気になった時の深い悲しみを共有できる人も少ない。医療の中では当たり前のことも、家族にとっては非日常である。現在模擬患者として教育現場に関わっているのには、そういった背景がある。経済的には、子どもの育英付の保険からの補助や夫の生命保険で付けていた高度障害の付加給付が利用できて、助かった。最近自分の保険を見直し、死亡保険金ではなく自分の健康を維持できるような内容に切り替えたところである。これからも食生活や運動などに注意して生きていきたいと思っている。