大腸がん検診の語り

インタビュー16:プロフィール

竹田さん(仮名)は2010年、大腸がんの診断を受けた。きっかけは毎年会社で受けている健康診断だった。会社の健診には検便も入っているが、その年は提出した二日分のどちらかに血が混じっていたということで、精密検査を受けるよう通知があった。二回とも陽性反応が出たわけではないし、実際に検査を受けたら痔やポリープだったという話もよく聞いていたので、あまり深刻に考えていなかった。だが、勤めている会社の社長が過去に大腸がんを経験していることもあり、再三にわたって精密検査を受けるよう勧められた。そこで、社長に紹介された大学病院で内視鏡検査を受けたところ、大腸にがんが見つかった。
内視鏡検査は二度受けた。一度目に肛門から10センチのところにがんが見つかったが、このときは入りが悪く、腸の奥まで見ることができなかった。そこで1週間後に再度検査を受けた。このときはスムーズにカメラが入り、全体を調べたが、結局がんは最初に見つかった一箇所だけだったことが分かり、ほっとする思いだった。
幸い見つかったがんは早期で、命に別条はないということだった。ただ、発生部位が肛門付近だったため、医師からは人工肛門になる可能性も伝えられた。渡された手引きを呼んで自分なりに理解はしたものの、やはり不安はあった。もうひとつ、非常に心配だったのが治療費のことである。がんの治療にはお金がかかると聞いていたし、子どもたちの学費や生活費のこともあったからだ。そこで、経験者である勤め先の社長に相談したところ、治療費を補助してくれる制度があることを教えてもらい、全額支払わずに手術を受けることができた。
2週間ほど入院し、それからほどなくして仕事に復帰した。食事に関しては、野菜をとるよう心がけ、消化しづらいものはなるべく避けるよう注意している。術後に一番大変だったのは、排便に関することである。手術で肛門の筋肉をとった関係で、排便時の抑えがきかなくなり、一日に15回から20回ほどトイレに行かなければならない。営業で外回りも多いため、外出時には紙おむつを携帯し、危ないと思うときは付けるようにしている。
診察をした医師からは運が良かったと言われた。もし今回精密検査を受けなければ、その間にがんは大きくなっていただろうし、翌年の定期検診で必ずしも陽性反応が出るとは限らないからだ。そういったこともあって、現在では精密検査を受けることの大切さを感じている。
今回は勤務する会社の社長からの強い働きかけがあって再検査を受けたわけだが、以前勤めていた大企業であれば、精密検査は受けなかったのではないかと思っている。そこでは、再検査などについて会社からの指示などは何もなく、受けるか受けないかは個々の社員に任されていたからだ。その点、今の会社は、少ない人数だからこそ、社長は従業員の健康を大事に考えているし、検査などで仕事を抜けたときにも他の人がカバーしてくれるなど、社員の団結力を感じる。