徐さん(仮名)は結婚して子どもが生まれるまでは教員として働いており、当時は職場で健康診断を受けていた。その中に便潜血検査も入っていた。4人の子育てのあいだは、夫の会社の主婦検診を受けることは可能だったが、とてもその余裕はなかった。在日韓国人として本名を使用していたため、子どもたちがいじめや差別にあい、子育て自体が大変だった。
2人目の子どもが生まれた頃から痔になった。便秘もひどく市販の下剤をしばしば服用しており、この時期は心身ともに不調だった。一番下の子どもが中学校に入ったので、療育センターに再就職した。職場では定期的に健康診断があったため、再び便潜血検査を受けるようになった。ある時、結果が陽性となり、自宅近くの大きめの病院で内視鏡検査を受けた。検査そのものの痛みは大したことはなかったが、前日に飲む下剤は量が多く閉口した。また、内視鏡検査をした時、医師から周囲に聞こえるくらい大きな声で「痔がありますね」と言われたのはショックだった。怒りさえ覚えたが、大腸の中を見ることが大切だと思い直して最後まで見た。大腸の中はきれいで、出血の原因は痔ということだったが、もう内視鏡検査は受けたくないと強く思った。それ以降、食生活に気を付けたためか痔はあるものの出血はしなくなり、便潜血検査で陽性になることもなくなった。
しかし、療育センターをやめて子育て支援センターの相談員をするようになって、ストレスから大腸炎になった。出血がひどく、もっと大きな病院で内視鏡検査を受けるように言われ予約をとった。だが、どうしても受けるのが嫌で、やめてしまった。がんの可能性もあったので、これまでより一層生活に気を付けるようになった。食材のみならず、ドレッシングや酵素まで手作りし、体調は快復した。仕事をする日数も減らして、今は少し余裕のある生活ができるようになった。
在日一世は永住権や納税の有無に関わらず、長いこと健康保険に入れなかった。雇用差別もあり、経済的に厳しかったので病院に行くことも困難だった。徐さんは在日二世なので、子どもの頃健康保険が適応されるようになったが、日々の生活の苦労から健康診断まで手が届かなかったし、誰も「健診に行こう」と言ってくれる人はいなかった。社会的に差別されている人々はなかなか健康診断やがん検診には行けないのではないか。
健康診断/がん検診は体の不調がないのにわざわざ行くのだから、医療者側にもう少し配慮があっても良いと思っている。療育センターで精神障碍者たちと接し、その後子育て支援センターで多くの母親の相談に乗った経験から、人と人との関係性が重要だと感じている。がんの検診制度も医師と患者の関係など人間関係が大切。健康診断/がん検診が患者にとって嫌な経験にならないような気配りが欲しい。
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本間さん(仮名)は若い頃には企業健診を受けていたが、その後国保となって自治体健診を受けたり、夫の扶養家族に入っていて主婦健診を受けていた時期もあった。現在は、国保加入なので自治体が行っている特定健診を受診している。そこに検便も付いており、特に拒否する理由もないので、受けるようにしてきた。
実は昨年、検便で陽性になり精密検査が必要と通知された。何軒か内視鏡検査を受けることができる病院があったが、比較的行きやすいところにある病院を選んで受けた。内視鏡を入れる場所が場所だけにそれなりに身構えて受けたが、麻酔をかけなかったにもかかわらずあまり痛みを感じることはなかった。むしろ、生まれて初めて自分の腸の中を見ることを興味深く感じた。幸いポリープはなく、出血は肛門付近にある痔のためではないか、と医師に言われた。その前年にも、お腹の中のものが出きっていない感覚があり、それを言ったら一度内視鏡検査を受けたらどうかと勧められていた。けれども、便潜血検査の結果が陰性だったため受けることはなかった。今回内視鏡検査を受けようと思った理由は、便潜血検査で陽性になり自覚症状があったことの他に、その頃母に初期の大腸がんが見つかり切除したこともあると思う。
内視鏡検査は、胃カメラを挿入するのに比べると、自分にとっては楽な検査だったし、腸の中を一度カラにしたせいか、その後調子がよくなったように思う。大腸の中を興味深く見られたのは、自分と体のつながりを意識したいためかもしれない。過去に子宮筋腫の手術をうけたときも、摘出した腫瘍を夫にデジカメで撮影してもらった。
子宮筋腫の経験は、その後の自分の体を考える上で大きな影響を与えた。最初に行った病院では、子宮を取らなくては良くならないと言われたが、その後患者会に入って患者同士で情報交換し、新たに診てもらった先生は子宮を残す治療をしてくれた。子宮を取るのは絶対に嫌だという感覚に従ったのは良かったと思う。患者会の電話相談員として相談を受けていたこともあるが、そこで気持ちと体の行き違いが起こって辛い思いをしている人たちの話も聞いた。検診を受けること、早期発見することは大切だと思うが、自分の体の感覚に従うことを優先するのは間違いだとは言い切れないと思う。
家族や友人と美味しいご飯を食べられることが幸せだと感じているので、健康のために取り立てて何かをしているというわけではない。ただ、考えることばかりで体を動かさないとバランスがとりづらくなるという実感があるため、ウォーキングをしたり不定期にヨガに通ったりしている。ヨガの仲間とは体の調子について話すこともある。ただ、病気ではなないのだろうけど体調がちょっと気になるときに、ポッと行けて検診を受けられたり不安を受け止めてくれるような機関があったら良いと思っている。それは何科何科と分かれていない、アメリカのプライマリーケアのようなオープンな場所になるのかもしれない。
加藤さん(仮名)はずっと野球を続けてきた。会社にも野球で入ったが、30歳頃に引退してからは肥満が気になり、また現在単身赴任をしているので、遠方の妻も気にかけてくれている。
大腸がん検診は、会社の定期健康診断で35歳になると毎年検便が入ってくるので、それ以来きちんと受けている。去年はじめて(便潜血検査が)陽性になった。健診では便を採るのは1回だけで、もともと痔があり、検査の当日はひどく出ていたのでひっかかるだろうな、と推測していたが、そのとおりだった。結果は産業医から伝えられ、紹介された個人病院で大腸内視鏡検査を受けた。出血の原因は痔とのことだったが、モニターを見ながらポリープがあるという説明を受け、針金の輪っかのようなものをポリープにかぶせて、レーザーでスッと切った。痛みはなく、簡単にできた。むしろ、検査の前にスポーツドリンクのようなものを、かなりの量飲まなければいけないのが辛かった。1週間後にその病院に行き、病理検査の結果、がんではなく良性の腫瘍だと知らされた。
実は、まだ野球をやっている頃に、一度血便が出たことがある。看護師をしている姉に相談したら、すぐに病院に行った方がいい、といわれ姉に付き添われて診察を受けた。痔かどうかよくわからなかったので大腸内視鏡検査をしてポリープが見つかり、その場で切除した。念のため翌年にも受けたが、ポリープはもうなかった。その後は、会社の健診で検便が入るまで、便潜血検査も大腸内視鏡検査も受けなかった。
会社では、ここ1、2年、部下の健康診断の結果が上司に伝えられ、上司が部下の健康をチェックする仕組みになった。健康診断で引っかかると病院に行け、と言われ、行ったら報告している。ただ、そう言っている上司も結構悪かったりもするので、健康の自己管理のプレッシャーはかかっているが、そう厳しい雰囲気ではない。
がんについては、父も祖父も、場所は異なるががんにかかった。遺伝的には、なりやすいのだろうし、だから検診をきちんと受けないといけないのだろうが、遺伝だから仕方がないという気持ちもある。がんの他にも糖尿病の気が父も自分もあるが、同様に思っている。ただし、検診の信頼性については、日本の医療は進んでいると認識しているので、悪くなくてもひっかかるということもあるだろうが、大丈夫だと思っている。
岡田さん(仮名)は大腸がん検診(便潜血検査)を夫の会社の検診や自治体検診で受けてきた。大腸内視鏡検査は3回受けた。1回目(2001年頃)、たまたま胃の調子が悪く病院で胃の内視鏡検査を受けたとき、便潜血検査も受けたらどうかと勧められ受検した結果、陽性となった。次に大腸内視鏡検査を受けたが、過去に2回帝王切開で開腹していたためか、内視鏡が入れにくく、途中でやめてしまった。その後、バリウムを入れて検査(注腸検査)をした。結局、肛門付近に痔があったことから、便潜血検査が陽性の原因は痔のせいだと言われた。
今年(2011年)の初めに受けた便潜血検査で陽性と出た。紹介された一般病院で大腸内視鏡検査を受けた結果、2cmのポリープがあることがわかり、後日手術を受けることになった。悪性かどうかは、組織を取って病理検査をしないとわからないと言われたので、その可能性も考えて、父が大腸がんの手術をしたがんセンターに転院した。
そこでもう一度内視鏡検査を受けたが、痛みが全くなかったのは驚きだった。ポリープは(直径)4cmで平べったい形をしているのがわかり、開腹手術か腹腔鏡下手術(ガスでお腹すなわち腹腔内を膨らませて内視鏡で見ながら行う手術なので、内視鏡手術と同じ意味)かの選択が示された。さらに国から先進医療に指定されている「内視鏡的大腸粘膜下層剥離術」についての説明も受けた。これは内視鏡の先端から特殊なナイフなどの器具を出して、病変の周囲を切開してから、病変の下の粘膜下層をはがし取る方法で、従来の内視鏡手術に比べ、確実に一括切除ができて、根治が望めるが、自分の場合は腸のひだの上にあるポリープのため、この方法では取りづらいということだった。これまでの開腹手術で腸の癒着があり、入院期間も考えて従来の内視鏡下の手術にした。検査後に先進医療の説明を受け、1週間後に治療法を決めるまでの間に、インターネットの医療相談サイトにアクセスして、先進医療と従来の方法との違いなどについて質問し、知識を得た。
手術の様子が見たかったので鎮静剤は希望しなかった。内視鏡を入れるとポリープが見えたが、そこからは出血していないということだった。また、10年くらい前からそのポリープがあることも聞き、10年前の出血の原因は痔ではなくポリープだったのではと疑った。そう考えると、大腸がん検診は集団としての死亡率は下げるけれども、実際には、見逃されていたり、運よくわかることがあったりして、必ずしも個人の死亡率を下げるわけではないと思った。
また、内視鏡を入れた状態で、「今日なら先進医療ができるがどうするか?」と術式を再度聞かれたのも驚いた。腸は動くから、今日なら器具を入れやすいということだった。ネットで得た知識もあり、穿孔のリスクは若干高いものの、処置がしやすく、がんかどうかの確定診断もできる先進医療を選んだ。
結局がんではなく、今回のポリープががんになる可能性は20%程度だが、切除した方が良いと言われた。手術を受けたことが良かったのかどうかは自分が亡くなるまでわからないと思うので、そのことを率直に言ってくれた医師は正直な人だと好感を持った。
すべてのがん検診が有効だとは思わない。10年前からも便潜血検査はほぼ毎年受けているが、がん検診一般については疑問がある。夫は毎年肺がん検診を受けて異常がなかったのに、突然肺がんと診断され、手を尽くしたが亡くなった。主治医や放射線専門医、かかりつけ医も、肺がん検診が有効だとは言わなかった。けれども、がんの種類によっても違うので、大腸がん検診は身近に検診で見つかった人がおり、簡単にできる検査なので、受けている。
井上さん(仮名)にとって、便潜血検査は毎年受けている人間ドックのメニューに入っているため、特に意識することなく受けていている。3回便潜血反応が陽性と出たが、一度目は20年近く前のことで、その後内視鏡検査をしてポリープが発見され切除したものの、悪性ではなかったため、数年前に再び反応が出たときは内視鏡検査などの精密検査は受けなかった。便秘をしていて、いきんだ時に出血したのかもしれない、との思いもあり受ける必要を感じなかったからである。結果を聞くときに、一緒に人間ドックを受けた妻がいたが、ご家族のために受けて下さい、という医師の言い方には違和感があった。検査を受けさせるために、家族を利用してプレッシャーをかけるのはおかしいと感じた。金融関係の仕事をしているが、顧客に商品を勧める際には、必ずリスクについても話している。しかし、医療の検査では、ただ検査してください、と言うだけである。検査を受けることの、精神面も含めたデメリットや、検査を受けた結果どのくらいの割合の人が問題ないと言われているのか、など説明を受けたことはないし、データとして見たこともない。もし、がんが見つかる可能性が非常に低いのであれば受けないかもしれない。また、ほとんど同じ時に2回検便をすることの意味もわからない。例えば、便潜血検査で検査当日に便秘をしており、2~3週間後に(便秘をしていないときに)もう一度検査をしてみましょう、という医療機関があれば、その方が合理的だと考えるので、お金を多く支払っても受けてみたい。こうした考えに至る背景には、歯の治療をする際に十分に説明しないで(被曝というリスクのある)レントゲン撮影を強く勧めたり、コンタクトレンズを売るために見当違いな診断をした眼科での経験があるからだと思う。命には代えられないという気持ちを逆手に取るような、医療者の指示には、簡単に従いたくはない。
だが、病気を早く発見して早く治療することのメリットはわかっている。十分に納得する説明を受けた上で、医療を受けること自体には何ら問題はないと思っている。今回3度目の便潜血反応が陽性と出たので、年齢的にも腸をチェックしてみても良いと思い、内視鏡検査を受けようかと考えている。
三村さん(仮名)は若い頃からスポーツが得意で、特に水泳やスキー、登山などを趣味としてきた。現役時代、年に一度の健康診断に検便も入っていたので、継続して受けていた。45歳になったころ、会社から大腸内視鏡検査を勧奨された。強制ではなかったが、自己負担が3000円ほどと軽かったので受けることにした。それまで、便潜血検査で陽性だったことはなかった。結果はポリープが二つ発見され、後日切除した。自分でも初めて大腸の中を見て、確かにポリープを確認できたし、実際に腸の中を見たのは良い経験だったと思う。偶数年の勧奨なので、2年後に再び受診したが、何も発見されなかった。それ以降も便潜血検査で陽性になったことはない。数年前に様子を見るために3度目の内視鏡検査は受けてみたが、前回と同じようにポリープは発見されなかった。検査の痛みもあまり感じなかった。
がん検診はできるだけ受けるようにしているが、周囲には受けるのを嫌がる人もいる。億劫だと感じる人もいるし、逆に病気が見つかるのが怖いという人もいると思う。集団検診にしても、周りの人と一緒で行きやすくなる人もいるが、他人に受けたことを知られたくない人もいるので、どういったやり方が良いのは一概には言えないだろう。ただ、行政は一度だけでなく、二度目の案内を出せば、受ける方もその気になるかもしれない。
自分自身は、もともと健康第一で生活してきたわけではない。現役時代は営業部門だったこともあり、接待などで不規則な生活を送ってきた。しかし、42歳の頃急性肝炎になりその時は目も見えなくなり、怖い思いをした。その後一度お酒を飲んだが、また具合が悪くなったので、以降一滴もお酒は飲んでいない。大勢で楽しむのは好きだが、お酒を飲まなくても楽しく過ごせるようになった。
年を取ったらがんになりやすくなる、というのはわかっているが、だからといって不安をあおるようなやり方はよくないと思う。楽しく過ごすためには心の健康も大切だ。現役を退いてからは、公民館で働き、今はスクールガードとして毎朝交差点に立っている。家の前の道は車の往来が多く危険だからだ。これが毎日早起きをするきっかけにもなっており、子どもたちとの交流をとおしてやりがいも感じている。近所の高齢者から安心してごみを出せるようになったとも言われている。
実はたばこが好きで、今でも一日20本ほど嗜んでいる。肺がんが心配になってきたので、肺がん検診を申し込んだところだ。本当はやめた方が良いのだろうが、美味しく吸うためにも、毎日の食生活や運動などに気を配って人生を楽しむことに貪欲でいたいと思う。がん検診も一人ひとりの義務というより権利、つまり与えられたチャンスと考えて受けていくのが良いのではないだろうか。
町田さん(仮名)は調理補助の仕事をしており、基本的に1か月に1度は検便を受けることになっている。この他に年に一度の健康診断が職場で実施されており、その中に検便が含まれている。このように頻繁に検便をしているが、幸いなことに一度も陽性になったことはない。便を取るのにも慣れて、特に億劫だと感じることはない。だが、もしも陽性と出たら精密検査をすることになるだろう。身近に大腸の内視鏡検査を受けた人はいないが、テレビの健康番組で見たことはある。痛そうだと思うし、前日から食事をコントロールするなどの準備も大変そうだと思った。また、血液の状態を継続的にチェックするため献血をしている。健康診断にも入っているが、血液中のアルブミンも大切だと聞いたので、気をつけている。
ただ、検便も含めて、この病気を知るためにこの検査をしている、と明確に考えたことはない。このインタビューを受けることになって、はじめて健康診断の検便は大腸がん検診なのだと知った。たまたま家に遊びに来ていた社会人の子どもと(子どもの)友だちに、どういう状態だったら大腸がんの検診が受けやすいのか聞いた。検査の場所や費用、窓口がどこなのか、など検査を受けるにあたっての情報が不足していると感じた。通勤に駅を通る人が多いので、駅構内にわかりやすく提示するのが良い、と言っている人もいた。
一方で受ける人の意識も大きいと考える。自分が健康に気を付けようという意識がないと、人から言われても簡単に生活習慣を変えるのは難しいだろうし、検診を受けない人もいると思う。
けれども、検診さえ受ければがんが早期発見できるとは思わない。早期発見の限界はあると感じている。実は20年前に夫が舌がんで他界した。会社の健康診断は毎年受診してがんの可能性を指摘されたことはなかったし、最初は歯茎が痛いと言っており、まさか舌がんになっているとは思いもしなかった。なぜもっと早く気付いてあげられなかったのかと自分を責める時期が続いたが、ミクロの世界のことを見ることは難しい、と知人に言われて少し気が楽になった。今は技術が進んで色々な検査ができるようになったので状況は違うかもしれないが、これまでがんで身近な人を亡くした人たちと話してきた経験から、検診で大丈夫でもがんがある可能性もあると感じている。ただし、自分で受けられる便潜血検査などの基本的な健康診断は、毎年受けていきたいと思っている。
医療者の方々には大変お世話になったが、中には患者の気持ちを配慮しない医療従事者もいた。また、家族が病気になった時の深い悲しみを共有できる人も少ない。医療の中では当たり前のことも、家族にとっては非日常である。現在模擬患者として教育現場に関わっているのには、そういった背景がある。経済的には、子どもの育英付の保険からの補助や夫の生命保険で付けていた高度障害の付加給付が利用できて、助かった。最近自分の保険を見直し、死亡保険金ではなく自分の健康を維持できるような内容に切り替えたところである。これからも食生活や運動などに注意して生きていきたいと思っている。
関谷さん(仮名)は子どもを育てながら薬剤師としてパート勤務をしている。夫の扶養に入っており、夫の会社の方から人間ドックの案内はきていたが、子育てで忙しくあえて時間を作って人間ドックを受けようという気にはならなかった。検診を受けたからといって、それが死亡率の低下と結びついているかどうかは曖昧だという話も聞いたことがある。
けれども、年齢が上がってきたし、会社からの補助も出るので受けようと思い、3~4年前から受け始めたところである。その理由は、子どもの友達のお母さんが乳がんで亡くなったこと、自分の親族でも何名かがんにかかっているため、人ごとという感じではなくなってきたせいもある。ただ、検便が大腸がん検診だということは知らなかった。潜血反応を見るということは知っていたが、それが大腸がんにはつながらなかった。乳がんや胃がんの検診は、そのために行く、という目的がはっきり意識できるが、人間ドックの内容については検便に限らず、何のためにするのかあまり気にしてこなかった。この検査は何の為にするのかよく知らないし、異常があればわかるだろうという感じで受けとめてきた。結果が悪ければその項目については注意を払うが、良ければ安心して終わってしまう。人間ドックの帰り、病院に大腸がん検診のキットが無料で置かれていたのでもらって帰ったら、検便とまったく同じでがっかりしたことがある。
検査の方法は説明書の字は大きく、丁寧に書かれていたのでそれほど難しいとは思わなかったが、便の量は多いのにわずかな量しか採らなくてよい、というのは少し心配だった。これで大丈夫なのか不安だったが、提出の際に検査について質問するということはこれまでもなかったので、特に尋ねてはいない。もし悪ければ、精密検査になるのだろうが、一度も受けたことはない。夫はおなかの調子が長期間悪かったときに心配して病院に行き、内視鏡検査を受けたことがあるが、痔のせいだったようでがんではなかった。
いま振り返ってみて人間ドックをこれまで受けてこなかったというのは、億劫だったせいもあったが病気が見つかるのが怖い、と思っていたためかもしれないし、ひとりで自活している人に比べて、ある意味人任せなところがあったからかもしれない。夫は家計のメインなので、彼は生命保険もしっかりかけていて人間ドックもきちんと受けている。自分の場合は、絶対病気になれない、というのではなくて、誰かが助けてくれるなっていう甘えがあるのだろう。だが、これからは人間ドックだけではなく自治体のがん検診なども機会を捉えて受けていきたいと思う。
吉田さん(仮名)は、定年退職後2年間会社の健康保険が継続している。人間ドックにも少額補助が出ているので、これまで通りの病院で同じ内容で受けている。勤務していた会社では、若いころには普通の健康診断を受けるが、35歳以上になると人間ドックに切り替えるように推奨される。会社の健康診断は身長や体重などが主で、検便は入っていなかったと思う。35歳を過ぎても人間ドックに切り替えない人もいたが、自分は近所に良い病院があるので、そこを利用している。
これまで独身で過ごしてきたため、自分の死後誰かにお金を残す必要もないと思っている。そのため民間の医療保険は最低限しか入っていないが、その分、人間ドックの内容を充実したものにして、病気を予防することを優先している(早期発見も含めて)。
これまで、ポリープを含めて大腸の病気には罹ったことはない。友達が大腸がんになったが、何度も手術を繰り返して普通の人と同じようには過ごせていない。自分は病気になる前に気が付いて早めに処置をしたいと思っている。一度だけ、検便で何か所見が出て、注腸検査(大腸レントゲン検査)でフォローアップしたことがあるが、その時は検査に失敗して結局できなかった。ショックだったが、必要があれば大腸内視鏡検査などは受けていきたいと思う。幸い所見が出ることもなく、ここまできている。
けれども、消化器系ということであれば十二指腸潰瘍になったことはある。今でも、調子の悪い時はあるが、自分の体は自分にしかわからないので、自分で管理するしかないと思う。十二指腸潰瘍はストレスが原因と言われているようだが、ストレスは仕事によるものばかりではないので、会社の上司には言わず、自分で仕事のやり方などをコントロールして悪化させずに過ごしてきた。
これまで、検便が便潜血検査であり大腸がんを知るための検査だということはあまり意識しなかった。振り返ってみれば、人間ドックの検査項目も「異常なし」と言われて内容をあまり詳しく確認せずに通り過ぎてきたような気がする。何を調べるための検査で、異常が出たらどうするのか、など前もって医師に確認しておくのが良いと思う。

