インタビュー時年齢:26歳(2020年12月)
障害の内容:肢体不自由(下肢障害)
学校と専攻:大学・工学部(2014年度入学)、大学院・機械工学(2018年度入学)

関西圏在住の男性。脊椎・胸郭異形成症による体幹機能障害で、短い距離は歩くことはできるが、外出には電動車椅子を使用。軽度の難聴もあり、骨伝導の補聴器を使っている。小・中学校では普通学級で学び、高校に進学してまもなく大きな手術を経験して1年間休学した。国立大学に進んで機械工学を学び、大学院に進学して修士号を取得。総合職の技術職として採用してくれるところを求めて就活をして、大手電機メーカーに就職して研究開発の仕事に従事している。

プロフィール詳細

俊樹(としき・仮名)さんは、先天性の脊椎の異形成症で、仙骨がほぼ欠損している状態で生まれた。医師からは「何でこの状態で歩いているのかわからない」と言われるほどだったが、小学生の頃はサッカーや卓球などもやっていた。しかし、からだの成長とともに足や腰に痺れが出るようになり、中学では周りの男子との身長差も広がってきたので、部活動は吹奏楽に転じた。中学からは通学に電動車椅子を使うようになった。学校側の配慮で、通常学年が上がるにつれ教室が上の階に移動するところ、自分のクラスだけは3年間2階の階段に一番近い教室に決まっていて、担任も3年間持ち上がりになった。
 中学2年で受けた検査の結果、3カ月の入院を要する大きな手術が必要だといわれ、高校受験に間に合うようにと中3の夏休み前に入院した。ところが実際にはその年の終わりまで入院が延びてしまい、ベッドで寝たきりの状態で受験勉強を続け、地元の私立高校に進学が決まった。再手術が決まっていたため、最初の1カ月くらい通ってから入院する予定だったが、3月末に急に痛みが出てそのまま入院となり、その1年間に5回の全身麻酔手術を受けることになった。手術をしては石膏ギプスで肩から膝までぐるぐる巻きの状態で3か月寝たきりで過ごすことを繰り返す、非常に厳しい1年間だった。
 1年休学して高校に通い始めた。当初はクラッチの杖を使って歩いていたが、リハビリを重ねて、杖なしで歩けるところまで回復した。入院中に主治医に「将来は病院で働けたらいいな」と話したときに、「医療機器を作るなど、工学系でも医療に携わることはできる」と言われ、職業選択の幅も広いと考えて、工学部を目指すことにした。高校から推薦を受け、地元の国立大学を受験して合格した。
 大学では入学時に合理的配慮についての話し合いが持たれた。地元在住ではあるものの、車椅子でバスを乗り継がないと通学できないことを理由に、学生寮への入寮を認めてもらったほか、キャンパス内の私道の横断に際して危険がないか、現地で確認するなどきめ細やかな対応をしてもらった。
 学部時代、グループでやる実験では記録係をするなどして、重いものや高いところにあるものを持つなどの、自分にできないことは他の人に代わってもらっていたが、4年生になって研究室に配属になると、一人で実験をしなくてはならなくなる。大きなものを扱うこともある振動工学の実験を一人でやるのは危険だということで、教授と話しあった末、数値計算ソフトを使って「車椅子が段差を乗り越えるときにどういう挙動をするか」をシミュレーションするような研究に落ち着いた。しかし、自分は体や手を動かすことが好きなので、実験しないのは寂しいという気持ちが残った。
 その後、大学院に進んで修士号を取得し、大手電機メーカーに就職した。就職活動では総合職の技術職としての採用を目指していたが、障害者雇用枠で応募した場合にそういう採用があるのかわからず、手探り状態で一般雇用枠に20社くらいエントリーした。ユニバーサルデザインに関する資格を取ったり、大学サークルで運営や広報に携わった経験をアピールしたりして、他の学生との差別化を図った。そんな中で、面接前の就職セミナーでたまたま出会った今の会社の人事担当者の、「もし落ちても、あなたに何かが足りないということではなく縁がなかったと思うように」というアドバイスが心に残り、その後の就職の決め手になった。
 現在の職場は研究開発の部署で、大学の時よりたくさん実験をしている。「障害者だからこの仕事」ということはなく、まずは試してみてできるところはやるし、できないところはみんながサポートする、という社風が気に入っている。何ごともはなから諦めるのではなく、自分で工夫してできるだけ皆と同じように参加するというのが幼いころからの親の教えであり、それが今の自分を作っている根底にあると思う。

私は: です。

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