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東京都がん検診センターで消化器内科部長として、消化器系のがん検診を多数行ってきた。熊本市出身、平成2年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部第2内科入局後、関連病院や昭和大学藤が丘病院消化器内科勤務後、平成9年から現在のがん検診センターに勤務。胃がん・大腸がん検診だけでなく、術後の切除標本と画像との対比を行い、診断精度の高いX線・内視鏡診断や内視鏡治療へ取り組んでいる。
語りの内容
大腸がんになってそれなりの症状が出てからでも、検診を受けなくてもいいんじゃないかと、症状が出てから医療機関を受診しても助かるんじゃないかというお考えがあると思いますけれども、症状が出てからでも助かる方もいらっしゃいます、確かに。大腸がんというのは基本的には胃がんや食道がんに比べまして、生命予後――少し進行していても助かる可能性というのは非常に高いです。
進行がんでも転移がない方は助かるんです。非常に救命率が高いです。肺とか肝臓への転移がない方は、それでも7~8割の方は助かるわけなんですけれども、いったん肝臓とか肺に遠隔転移を起こしてしまいますと、救命率というのはぐっと下がって、5年間の生存率はそれで見ますと2割に落ちてしまうと。そこが大きなギャップになっているわけです。だからその前に見つける必要があると。
進行がんでも、転移を起こす前に見つけるというのが大切なところなんですね。そこに便潜血検査という、大腸がん検診というのが重要であるということになっていきます。だから、進行がんになってしまいますと表面がただれてきて潰瘍(かいよう)を起こしてきますので、貧血が起こったり……出血ですね、便に血が混じる。それが持続していると。それから閉塞してきますと便が出にくくなる。おなかが張ったりとか、便がほとんど出なくなるという症状が出てくるということになります。そういった状況になりますと、結局、肺とか肝臓に転移しているがんが多くなるということです。
それで、そのような症状が出る前の、できれば進行がんでも転移を起こす前のがんで見つけるというのが、この便潜血検査の大事なところであるということになります。何も便潜血検査はポリープを見つける検査でもありませんし、早期がんを見つける検査でもないんです、実は。その人の救命というのを考えますので、そういった転移を起こす前の、進行がんになる前の状態で見つけるというのがこの便潜血検査の大事なところになります。
専門医インタビュー一覧
- 食生活の変化で大腸がんは増えている。大腸がんになる人は男性のほうが多いが、臓器別の死亡率では女性のがん死亡率の1位を占めている
- 症状が出てから受診する人には命に関わるようながんが見つかることが多い
- 大腸に症状が現れる病気はいろいろあるが、がんで便が出にくいとかおなかが張るといった症状が出るまでには、がんがかなり進行してしまっている
- 大腸がんは症状が出てから受診しても遠隔転移がなければ助かる率は高いが、便潜血検査を受ければ転移を起こす前の段階で見つかる可能性が高くなる
- 大腸がんはある程度大きくなると潰瘍を形成し、そこから出血する。そうなると便に血が混ざるようになり、便潜血検査で陽性となる
- 便潜血陽性は6~7%なのでかなり絞り込まれている。偽陽性が出ることもあるが、それが痔のためなのかどうかを確かめるためにも大腸内視鏡による精密検査を受けて欲しい
- 陽性になったら必ず大腸内視鏡による精密検査を受けて欲しい。続けて偽陽性になる場合は、便潜血検査の代わりに定期的に内視鏡や違う種類の精密検査をやることもある
- がんが上行結腸にあったり便秘だったりすると便潜血は偽陰性になることもあるが、有効性は極めて高いので受けて欲しい。ただし、症状が現れたらすぐに精密検査を受けることが大切
- 便潜血検査は2日法(2日間で便を採る)ではじめて有効性が認められる。但し、1日しか陽性にならなくても、その数値が高ければ大腸がんの病変の確率は高い
- 便潜血検査は2日法で有効だが、1回でも出せるのなら出し、新たに個別に医療機関で受けるという方法もある。便秘がひどいなら、一度内視鏡検査を受けると良いかもしれない
- 便潜血検査が1回でも陽性であれば、すぐに精密検査を受けることが大切。1回法で陽性なら陽性と考えてほしい
- 大腸内視鏡の前に飲む2リットル洗浄液(下剤)は量が多くて途中で飲めなくなることもあったが、新しい洗浄液は1リットルの洗浄液と500ミリリットルのお茶という飲み方ができる
- 内視鏡機器が進歩して挿入しやすくなっているものの、内視鏡の挿入技術はキャリアによって差が出てくる。最近は安定剤を使って緊張感を和らげる施設もある
- 全国的なデータでは二次検診を受けた人の5パーセントほどの人からがん、45パーセントほどの人からはポリープが見つかっている。検診で見つかるがんは早期が多い
- 内視鏡は視野が140度のものが多いため、見落としたり腸のヒダの間のがんが見つけられない場合はあるので、毎年便潜血検査を受けてほしい
- 便潜血検査は便を採るだけなので身体へのデメリットはないが、内視鏡検査の場合は穿孔(腸に穴が開くこと)が起こる場合がある