投稿者「dipex-j」のアーカイブ

前立腺がんの語り

手術後の性機能障害については、あいかわらず駄目ですとアンケートに記入しているが、大して気には留めていない

―― 治療を選択する際に、その性機能への障害とか、その性の性的なその能力に関して、障害が出ることについて、ご自身で何かこう悩まれたりとか。大事にされていたことって何かありますか。

うんまあ、そげん、別にもう、気にすることはね、まあ、気にすることは、一応、そげにいいか悪いか言ったら、あんまりいいことはないですわっていうようなことで、アンケートで来ますけどね。医大のほうからこう、20……25枚ぐらいかな、アンケートが1から25、チェックしてほしいってね。どういう状態か、どういう状態かちいうようなこといわれて。そのときにまあ、性的なことで、関しても、アンケートがありますけど、あいかわらず駄目ですわでチェックしちょきますわね。そういうその程度に大した気には留めちょりません、それは。

―― 気にはとめていない?

はあ。

―― じゃ、ご自身で治療を選択するときに、あの、手術を選択されるということは、その性機能のほうに障害が出る可能性があるっていう…

ああ、それはもう、先生から聞いて分かっちょりました。先生から詳しく、説明があって、「こうこうこういう状態なるけん」ちいうこと聞いちょったです。「ああ、かまいませんよ」ちなことで。

前立腺がんの語り

手術で勃起障害が起きるという話を聞いた記憶がないが、手術したら何らか障害が残るだろうから仕方ないことと受け止めている

―― 治療を受けられるときに、腹腔鏡で全部摘除してしまうと、勃起障害が起きるっていうこと、事前にお話があったんですか。

ちょっとそれは聞いて…。忘れたんかも分からんけど、聞いてなかったように思います。勃起障害が起きるいうことは。ただ、まああの、「尿の漏れとかほんなんはあるかも分からん」いう話は聞いとったんですけどね。勃起の問題はあんまり聞いてなかったです。

―― じゃあ実際、手術受けた後に、勃起障害が起きて、それはご自身にとってはどういうふうに受け止められましたか。お気持ち、どんなふうだったんですか。

うん、まあ、ただやっぱり一つの手術したから、何かの障害は残るやろと。ほんで、ほかに、まあ、大きなもん…、障害起こさなんだら、まあ、それはしょうがないんじゃないかという判断をしてます。

前立腺がんの語り

尿漏れは不便だが、勃起しなくなったことを不便に思ったことはない。 女性を美しいと思えるのでプラトニックラブのようだ

それで、私自身ががんを取っていただいた後で、まあ、確かにそれはもう勃起はしませんし、別にそういうことを不便と思ったことはありません。不便なことは、やっぱり尿漏れがあることで、一生懸命練習リハビリをしたんですけれども、2年たっても、今でもおむつを当てております。
それから、女性を見て美しいなと、あの人はきれいだなと、いうふうに思うことはあります。トルストイが、女性を見て美しいと思うのは姦淫を犯せるものなりというようなことを言ってる、と読んだこともありますが、別に美しい女の人を見て美しいと思ったらそれはいいんで、それを美しいと思うことは、勃起神経はなくても、睾丸は残っているから、性欲に似たようなものはあるんでしょう。だけど、実行が伴わないですから、まあ、「プラトニックラブ」といって私はジョークを言いますが、そのために前立腺を取ったことによる障害というのは苦痛はないし、がん細胞がないということがどんなにすばらしいことかということは、今でも感じております。

前立腺がんの語り

性機能障害については年も年だし、神経が癒着していたし、温存のため放射線を選択したら後から手術はできないと聞き全摘にした

―― 生殖器の一部というかたちになりますから、そういう意味で、あのー、すごくこう治療の選択でそこをどうするかと迷われる方もたくさんいらっしゃるんですね。ご自身の場合には、それはいかがでしたか。

いや(笑)、もうそれは、もう、はっきり言って、年も年だからさあ。それは、男性と女性のあれだから、ありうるんだけど、わたしなりにはもうはっきり、バサッとこう割りきっちゃった。

―― うん。じゃ、あの、その性機能を残すとか大事にしたいっていうよりは、もう治療のほう優先されたという感じなんですね。

もちろん、そう、そう、そう。だって、そっちの神経がもう癒着しているもの。できないわけでしょ、とらないと。もう、もちろん勃起もないし。精液も出ないから駄目だちゅうことは、はっきり言われていますからね、それは、そっちのほうを選びますよ。例えば、女性ホルモン投与するにしても…やっぱり、だから、わたしも聞いたんですよ、女性ホルモンやる、放射線やる、例えば放射線やった場合は、そういうものはありうるかも分からん。勃起はできるかも分からんけど、それじゃ、これが失敗したら、全摘できるのかって言ったら、できないっちゅうからさ。「ああー」、こっちやったらこっち、そりゃ、こっちやったら、全摘やって放射線っちゅうのはできるというからさ、そりゃ、わたしが、さっきちょっと言い忘れたけど、全摘を選んだんですよ。放射線やって、全摘っていったらできないっていうからさ。それだったら、駄目だっていうことで、おかけでこっち(全摘)を選んだんですよ。

前立腺がんの語り

がんを全部取ってもらいたかった。手術にあたって勃起神経を切ると聞き、前立腺は前が立つ腺だから、取れば勃起しないのは当然でしょうと冗談で返した(テキストのみ)

実は私には、がん細胞が残っているということは非常に嫌で、まあ、病気と仲よく暮らそう、患者さんには、腎臓の病気の人によくそういうことを申し上げるんですけども、自分のがんのときに、がん細胞と仲良く暮らすというのは「江戸っ子の俺にあ性に合わねえや」と。まあ私は割合にそういう点で偏った人間で、好きじゃないという人とは付き合いたくないと、了見の狭いわけでもないのですが、がん細胞とは付き合いたくないから、とにかくがん細胞は嫌。だから全部取ってほしい。で、「80歳以上の人の生存率は、手術と他の療法との差がないのは、それは昔の統計であって、今は100歳まで生きる人がたくさんおられるんだから、その、100歳まで生きた人にがんを切らなかった人と切った人との差がなければ、それは私も承服するけど、ただ単に10年生存率が変わらないというんであれば、それはよくわかりませんから、とにかく私は切ってください」と。「それでは、初めての経験だけども、まあ先輩を立てて切りましょう」ということで、取り除いてくださったんです。
そのときに、いろんなことを検査された後で、「これはどうしても勃起神経を切りますけどいいですか」と。いやあ、別に構わないんじゃないかなと。「私もこの年になって特に、えー、セックスがどうとかということはありませんから。大体前立腺というのは前が立つ腺ですから、取っちゃえば前が立たないんだから当たり前でしょう」っていう冗談を言いながら、「勃起神経を切ってもいいですよ」と申し上げて、手術をしていただきました。

前立腺がんの語り

トイレに頻繁に通うことでいらいらし、家族と距離を置きたいと思ったことから、うつ的な自分に気づいた

で、えー、まあその前立腺の手術そのものは大変うまくいきまして、尿管(尿道)、をつなぐとか、それから、まあ回りの括約筋。まあ尿はほとんど失禁状態に初めなりますけれども、もうそれもまあある程度回復してきます。一生懸命訓練をするんですけれども。でも、その精神的な問題はそう簡単ではありませんで。

――ご自身で、そのうつだって気付かれたのはどういう?

うーん、まあ、トイレにじゃんじゃん行くでしょう。行くといらいらするじゃないですか。それは家族にも移りますよね。心配しているところにも持ってきて、こっちがいらいらしているから。あのう、向こうさんの感覚では、あのう、それはつらいかもしれないけども、そういらいらされても。だって、こうやって一緒に食事をするとか、うーん、万事一緒ですから。で、家族から少し離れるっていうことを考えたんですね。明らかにこりゃこっちが変だって自分で思いますし。ただ、私の場合は先ほど、それほど強度ではなかったと。だから、生きててもしょうがないっていうような思いにはならなかったんですね、何とかしたいと。
それから、お祈りっていうのは、ずっとこう座禅っていう形でやっていたんですけども、実際には、できなくなっちゃうんですね。呼吸をきちんと整えて、ずっとやっていこうとするんだけども、呼吸がうまくいかないんですね。深まっていかない。苦しくって座ってられないんですよ。動いちゃうんですね。だから、何かやることはできますけども、座って、ちゃーんとある状況。あれほど、自分がこう「やれた」と確信を持った状態にならないという。これは何だといって、まあうつとでも呼ぶ、不安定な状態。いらだち。それから、他人に対する、顔つきも良くなかったんですよ。鏡を見るとね、あー、何か目が座っちゃっててね(笑)、どう、これ、どうにもならないねとやっぱり思いましたね。

前立腺がんの語り

職場復帰後、何度もトイレに通いパッドの交換をしていたのは、少し惨めな気持ちだった

――尿失禁なんかもありますし、その職場復帰してもやっぱり大変なことってあったと思うんですけども、実際それはどうでしたか、復帰されてみて。

ええ、もう、やっぱ尿失禁と、痛みはだいぶ薄らいでいたのか、ですね。もうしょうがないですよね、パッドをかばんの中に入れて(笑)、行ってました。

――パッドの交換とかもやっぱりかなり大変だった。どうですか。

んー、やはり最初の頃はまだ量が多かったからですね、しょっちゅうトイレ行ってましたよ。

――日に、その、最初の頃は何回ぐらい交換されてました?

どんくらいだろうな、今いいのがあって、ごわごわするんですけどね、何回だったかな、朝…、3回くらいかな、それでも。で、ビニール袋入れて。

――で、お仕事が事務職というふうにおっしゃってくださったんですけど。

事務職と営業も。だから外回りもあるんですよね。

――外回りのときは。

あ、もう、それはもう。

――なんかこう、工夫されてたこととかありますか、外回りのときに。

いえもう、今は失禁ではいろんな、あるじゃないですか。あの、パッドにしても、尿漏れ用パンツにしても。ああいうのでカバーできてましたから。ただ替えるのが面倒くさいだけでですね、それとムレと。それだけでしたよ。

――じゃあその替えるのでちょっと煩わしい思いをされたっていう感じ。

そうですね、まあちょっと、少し惨めな気持ちっていうか、も、ありましたけど(笑)。

前立腺がんの語り

明るい気持ちで生活せよと言われても笑顔は作れるけど、下の方がジメジメして気持ちいいものじゃない。女性の気持ちがわかった

それよりも、あのう、前立腺がんのおしっこがじわーっと出るほうが苦痛だね。あと、べちゃーっとした感じ。多分、それだから女の人っちゅうのはおりものが出たり、月経が出たりすると、それはかなり苦痛なことだろうなというのはね、いまだに、今ごろになって分かったの。それまでね、患者会でいろんな話、聞いたってね、それはもうやっぱり3人称で聞いてますからね。うん、何ともなかった。
自分から前立腺がんになってね、今はどういう感じかというと、かなりもうほとんどここにまあちょっと前に、パッド見せたけども、パッドも無縁でいいような気もするんですけども、やっぱりこの周りがね、ジメジメしとるということはね、非常にあまり気持ちいいものじゃないですね。気持ちが明るく生活せよって言ったって、ここは若干明るくできないよ。明るくしようと思えばね、顔はね、こうやって、にこーって、これは顔を、これは作って笑おうと思えばできるんですよ。こういう訓練をしているから。

前立腺がんの語り

手術で膀胱と尿道を繋いだところが狭くなり(尿道狭窄)、尿が出なくなってしまった。狭くなった尿道を広げる処置がつらかった

それと、あと、この手術は、前立腺の中に、尿道が通ってるから、それを切り落とすじゃないですか。だけえ、それであと、それと、尿…(尿道)と、膀胱をつなぐんだけど、そこがね、結局、つないだ後がどうしても縮まって、おしっこの出が悪くなるんよ。それで、結局、最終…6ミリ? 本当は8ミリ言うたんかな。7ミリがあって、8ミリまであるんかな。もう「6ミリでもう痛いけえ、やめてくれ」言うたけど。ステンレスの、棒をね、あのー、そこの傷んところ通して、そして、20~30分置いといて、慣らすのね(尿道ブジー*1)。それを毎週行ったんかな。4回か5回。
入院しとるときはもう全く出なくなって、そしてすうって出る。もう膀胱に満タンになるやない? で、もう痛いの、痛みが出るから、看護婦さん呼んで、ビニール(の管)を通してもろて。ほして、ステンレスの何とかいうたな、あれを自分で、買(こ)うてからね、「自分でしてもいいよ」って言われたけど、それで、ビニールホースを買うてきてね、きれいに削ってね、それで、何…。自分でね、使用してみよう思てトライしたけど、もうものの5分にも入ったら、もう痛くて、それできなかった(笑)。
だから、やっぱり病院行って、痛いけど、うーん、痛さが…。最初の1~2回はもう却って出血もひどかったしね、どうしても、縫うたところやけえ、ね、開くから血が出て大変だったけど。後のほうでは慣れてきたけど、もうだんだん、細いのからだんだん大きいのに変えるんやけど、もう「大きいの、もういい」言うて(笑)。だけえ、細いまんま。だけえ、7ミリとかいうたら、本当、鉛筆の、赤鉛筆やら丸い鉛筆? あのぐらいのが通すからね。まあ、痛いよ。痛いっちゅうか、さっきと…。切り傷とかの痛みやないで、それこそ、あのー、がん取るとき、調べるときみたいに、何ともいえんね。
腸カメ入れたことある? 腸、大腸に。そんときに、やっぱり、腸の中をカメラが、どうしても角に当たると、まあ、力入れてぐにゅと曲げないけんときの、あの痛さ。そんな感じ。それぐらいかな。

*1尿道ブジ―とは、尿道狭窄で、尿の排出が障害される時に行われる処置。金属の細い棒を尿道に入れ、順々に太いものに差し替えて、しばらく置き、尿道を広げる方法。

前立腺がんの語り

頻尿は朝がひどく、家を出てから会社に着くまでに駅でトイレに行く。ただ術前がひどかったので、それよりは術後のほうが改善している(音声のみ)

頻尿に関しては、一応薬飲んでるんですけど、あんまり効いてるかな、どうかな。ひどいときだと、夜3回ぐらいおしっこに行くのと、それから、朝がひどくてですね、家を出てから会社まで1時間弱なんですけども、その間で、どうしても行きたくなって、駅のトイレに行くというようなことが時々ありますね。まあ、調子のいいときは、比較的午後から夜にかけては、まあ、2~3時間は全然平気だったり。えっと、ひどいときだと、まあ、1時間ぐらいするとかなりおしっこがいっぱいになったりするっていう感じがあったりして、ちょっと不便だったりするんですけど。
おしっこの、その何だ、QOLっていうんかな。に関するアンケートがありますけども、手術前のアンケートで、点数で出すと、かなりひどい状況だったんで、先生「わあ、これ、だいぶ悪いね」とかいう状況はもともとあって。で、手術でむしろ改善されたぐらいだったんですけども。まあ、手術前よりは少し改善されてると思いますが、やっぱり、ちょっと問題はあるみたいですね。

――手術前の問題っていうのは、頻尿とか。

ええ、頻尿とね、おしっこが出にくい。出だすまでに時間がかかったり、するのに時間がかかったりかな。そういう。かなり何十項目もアンケートの項目がある中で、割と悪いスコアが出たと思います。

――今、結構頻尿だっておっしゃったんですけど、1回1回に出る、あのー、お小水の量っていうのは、結構、量は。

普通やと思いますね。うん。