家族の死については、多くの人が自宅に訪れた警察官によって知らされたり、友人や身内からの電話で知らせを受けたりしています。今回インタビューに応じて下さった遺族の方々は、その多くが亡くなった息子、娘、両親、パートナー、友人といった方々の遺体との対面を望んでいました。しかし、どれだけ早く病院や遺体安置所に辿り着くことができたか、次に何が起こったかは、故人がどのように亡くなったか、それぞれの地域における手続きの違い等によって大きく異なっていました。
夫のニコラスの死に関して、ジョセフィーンの仕事はまず葬儀センターから始まった。ニコラスが交通事故で亡くなった直後、ジョセフィーンは病院の遺体安置所へ向かいました。それから3日間、毎日数時間、ニコラスのもとへ通いました。
葬儀会社の担当はジェーンを信頼し、しばらくジョンと二人きりで過ごすことを許してくれました。この警察とは違った、個人の敬意と尊厳を重んじる対応に、ジェーンはその葬儀会社に対してとても感謝していると言います。
パートナーや両親にとっては、家族が亡くなった後も、その人の面倒を見る必要があると感じることが多々あります。エリザベスは、娘のマーニが交通事故で亡くなったという知らせを受けたとき、娘のために必ず何かできるという確信があり、すぐにでも遺体安置所へ行きたかったと言います。
検死官の中には、検死官や他の係員に、家族や友人などが遺体と対面しているときは同じ部屋で付き添うようにと指示することがあります。その場合は、検死官や係員は、遺族の心情に配慮し静かに佇んでいるのが通常です。しかし、リサの場合、以前付き合っていた人が亡くなりその遺体との対面では、警察官の不謹慎な無駄話が邪魔でならなかったと言います。リサは、誰にも邪魔されることなく静かな時間を昔の友人と過ごしかったと、語ってくれました。
パットの息子はオートバイ事故で亡くなりました。パットはすぐにでも息子のもとに行きたかったと言います。遺体安置所には検死官が脇にいて、息子と二人きりの時間を過ごせなかったことを非常に悔やんでいると語ってくれました。パットは、なぜ、息子と対面するのに許可が必要だったのか、息子の身体を洗ってやることも着替えをさせてやることもできないのか理解に苦しみました。ピーターの息子、ティムも交通事故で命を落としました。遺体安置所では、息子に触れることを許されませんでした。
誰が遺体に触れることが許されるかという規定はありませんが、死因に犯罪性が疑われる場合、多くの検死官は、証拠が失われないようにするため、検死解剖前の遺体への接触を許可していません。遺族の中には、家族を失った者の感情に考慮することなく、あたかも遺体を警察の所有物のように扱うことを不当に感じる人もいました。
検死が終わり、検死官から暫定死亡証明書が発行されると、ほとんどの遺体は教会に運ばれます。遺族は希望すればそこで遺体と対面することができます。しかし、遺体の損傷が激しい場合は、葬儀会社や警察の連絡担当官は、遺族に対して遺体との対面を勧めないこともあります。また、遺族は、葬儀会社、警察の連絡担当官、検死官などから遺体の状況について説明を受けることもあります。時には、遺体の写真を遺族に見せ、遺族に対し事前に心の準備を促す場合もあります。遺族の中には防腐保存処理を拒む人もいます。そのような場合は遺体の状態変化が早く進みます。
時には、故人を家に運び、葬儀の時まで自宅で保管する場合もあります。しかし、この形は暑い日が続いたり、葬儀の日取が何日も後である場合に問題となり得ます。
ウィリアムは遺体との対面を決心する前に、警察に遺体の状況を尋ねました。遺体対面の決断を下すのは簡単なことではありません。しかし、対面しようと決断した人は、それが故人への最後の別れの機会であり、また人によっては、対面することで、死を受け入れることができたと言います。遺族のなかには、故人の表情が穏やかであったり、まるで眠っているかのようであったので安心できたという人もいます。
愛する人の遺体を見て、後悔した人もいます。また、人によっては、警察、遺体安置所、葬儀会社の担当から遺体の状況について説明を受け心の準備をしておきたいと考える人もいます。ジョスリンは遺体安置所の係員から息子の状況を説明され、遺体とは対面しないことを決断しました。サリーは、火災で焼け焦げた母親の遺体を確認しました。(参照「遺体の確認」)サリーは、葬儀の際に再び母親の遺体と対面しましたが、母親の姿が生前と比べあまりにも変わり果ててしまっていたため、対面したことを深く後悔しています。サリーは、亡くなった人の表情が平和的や温和であったり、幸せそうであったりすることなどまったく信じられないと語っています。
状況によっては、遺体との対面が認められない場合があります。シンシアは娘の遺体との対面を許可されませんでした。頭にひどい損傷を受けたことが理由であると考えられます。シンシアは思い返すと、その時にそのことを知らせて欲しく、もし、知っていれば、少なくとも娘の手を、最後にもう一度握る機会があったのに、と言います。
レイチェルは息子の遺体を、一目でも見たいと思いましたが、夫と娘は、彼を生前のままの姿で覚えておきたいと、遺体対面拒否を決めました。
同じような理由からマイケルも息子の遺体を葬儀場では見ないことに決めました。
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