便潜血検査を受けなかった理由

大腸がんは、現在、女性のがん死亡原因のトップ、男性では上から4位を占める病気です。したがって、がん検診の中でも重要な病気なのですが、その診断は下部消化管の内視鏡検査で確かめる必要があります。これは時間も手間もかかる検査ですから、自覚症状のない人も含めて全員に行う検査ではありません。まず、便に出血があるかどうかを便潜血検査でスクリーニングし、陽性反応が出た人に内視鏡検査を行うという2段階の手順が、世界的な標準となっています。しかし、実際に検診の専門家ではない一般の方々にお話を伺うと、このような便潜血検査の意味が必ずしもすべての人に伝わっているわけではないことがわかってきました。

便潜血検査を受けなかった理由も人それぞれでした。検査や病気に対する誤解、周囲の人々が受けているかどうかなどの条件によって左右されます。

健診項目に入っていなかったから

職場の定期健診でどのような検査を行うかは、法律(労働安全衛生法)によって定められています。便潜血検査はこの項目の中に含まれていませんが、会社によっては便潜血検査を追加したり、内視鏡検査費用の一部を会社で負担しているところもありました。オプションとして、自費で追加する場合もあります。このような職場による対応の違いが、便潜血反応を受けるか否かの違いにも反映されます。

任意の検査は時間や費用が余計にかかるから面倒だ、と捉える人がいる一方、任意になっているということは重要性の低い検診なのだと解釈していた人もいます。健康に関心があり特定健診*を無料で受けてきた女性は、オプションになっている項目はたいした検査ではないのだろうと考えていました。
なぜ大腸がん検診がオプションになっているのか、検診を実施する側からの情報提供が必要なのかもしれません。

*特定健診とは、医療保険者(組合管掌健康保険、全国健康保険協会管掌健康保険、共済組合、国民健康保険)が40歳から74歳までの加入者(被保険者・被扶養者)に対して行う健診で、特にメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した内容になっています。また、健診の結果によって特定保健指導が受けられるのも特徴です。ただし、事業主健診(職場で実施される健診)は特定健診の検査項目を含んでいるため、事業主健診を受けている人は特定健診を受ける必要はありません。なお、7 5 歳以上の人には、各都道府県に設置されている「後期高齢者医療広域連合」が健診を実施しています。

*本人補足:大腸がんは便潜血検査(2日間便を採取)で40歳以上、胃がんはバリウムのレントゲン検査で35歳以上なら毎年可能で、前立腺がんが60、65、70歳、緑内障検査が45、50、55、60歳でした。ほかに無料で受けられるがん検診は肺がん40歳~、咽頭がん40歳~がありました。

忙しかったから

仕事だけではなく日常生活の忙しさも検診受診に影響しています。ただし、忙しいから検診を受けられなかった、という人のほとんどは国民健康保険で地域検診の対象になっている人々でした。忙しい人でも受けやすいような検診の場をつくるなど、検診を提供する側の姿勢が問われます。

仕事が忙しく、妻の看病もしていた男性は、妻の入院していた病院で医師たちと交流をもつようになり、その病院の医師にがん検診について訊ねたことがあると語っていました。

社会人になってから一度も便潜血検査を受けていないと語った人は、忙しかったばかりでなく、大腸がん検診そのものについて知らなかったといいます。40歳未満の人は、国が推奨している市町村の大腸がん検診の対象にはならないので、勤め先等で検診を勧められない限り、大腸がん検診について知る機会が少ないと考えられます。

主婦検診の案内が来ても子育て中に子どもを預けて行くのは難しいようです。ましてや、国籍の差別のある在日の人々は、病院で名前を呼ばれること自体に抵抗を感じていたり、しっかりと子育てしなくてはいけないというプレッシャーがあったりします。それが検診/健診から人々を遠ざけている面もあります。

がんになる気がしないから

忙しさとともに多く語られたのが「がんになる気がしない」というものでした。もともと健診/検診は自覚症状のない人たちを対象にしているものですが、受ける側から見た場合、「がんになる気」がしなければあえて行くことは難しいのかもしれません。職場や地域の後押しがない場合は、特にそうなのでしょう。

血圧が高いことを気にしていた女性は、年齢とともに病気が出てくるとは思っていましたが、血圧をチェックするために受けた血液検査がきっかけで悪性の腫瘍があるとわかったときは非常にショックだったと語っていました。

女性のがん死亡率の第一位が大腸がんであることはあまり知られていません。女性のがんというと比較的若い年齢で発症する乳がんや子宮がんのイメージが強いようです。便通が悪いなど特に症状がなければ、あまり身近に感じないと語った女性もいました。

筋ジストロフィーの男性は介助を受けて生活していますが、検診に介助の人が同行することには抵抗がないと言っていました。「怖い」という気持ちもあるものの、「自分は大丈夫」という思いから健診を受けてこなかったそうです。

「自分はがんになる気がしない」という人の多くは、はっきりした根拠はなく、そう感じているのですが、中には自分なりの論理を持って、「がんにはならないだろう」と考えている人もいます。たとえば、家族を相次いでリンパ肉腫というがんで亡くした男性は、自分は多発性硬化症という病気になっているので、逆にがんにはならないのではないか、と語っていました。

一次検診として内視鏡検査を受ける

原則として大腸内視鏡検査は、便潜血検査で陽性反応が出たり、何らかの自覚症状があって受診して医師が内視鏡検査の必要があると判断した場合以外は、健康保険が適用されません。しかし、会社によっては、健康診断の項目に便潜血検査も含めていたり、、45歳以上の社員に対しては、その結果に関わらず内視鏡検査を受ける費用の一部を会社が補助しているところもあります。(「便潜血検査を受けた理由」インタビュー32 を参照)。

また、次の男性は、できるだけ詳しい検査がいいということで、毎年人間ドックで内視鏡検査を受けています。たまたま自宅の近くに内視鏡検査で実績のある病院があり、検査自体もそれほど苦痛ではないこと、また勤務先から補助も出るので続けているということでした。

上記の2名の男性は、内視鏡検査を検診として受けるのに、会社からの補助がありましたが、そうした補助がない場合は経済的負担を考えて二の足を踏む人もいます。次の男性はポリープをとったあと、毎年1回は内視鏡で検診を受けたほうがいいと言われました。ポリープ切除後の内視鏡検査は健康保険の適用になりますが、それでも費用負担を考えると毎年内視鏡検査は考えられない、と語っていました。

*一般にポリープ切除後の再検査では健康保険が適応になります。観察のみの検査の場合は3割負担で通常5000~7000円ですが、再度何か異常が見つかって組織をとった場合は組織検査の費用がかかるので、10,000~15,000円ほどになります。

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