一次検診を受けないでがんと診断される

今回、インタビューをした人たちの中には、検診を受けないで大腸がんと診断された方が複数いました。大腸がん検診には、便潜血検査による一次検診と、そこで陽性反応が出た人が受ける精密検査(二次検診)があります(「一次検診と二次検診」 参照)。検診を受けないで大腸がんと診断された人のなかには、便潜血検査をこれまで一度も受けたことがないという人だけでなく、便潜血検査は受けていたが、そこで陽性になっても精密検査は受けず、自覚症状やそれ以外の理由で医療機関を受診してがんが見つかった人が含まれています(「便潜血検査を受けなかった理由」 「精密検査を受けない理由」 も参照)。ここでは、一次検診を受けないでがんと診断された人たちの語りをご紹介します。

自覚症状に気づく

検診を受けずにがんが見つかった人たちが医療機関を受診するきっかけになったのは、大半が自覚症状です。ある男性は、突然我慢できないほどの激しい腹痛に襲われたため、タクシーで病院に駆け付けたところ、直腸がんと診断されました。また、別の女性は排便をしてお尻を拭いたときに、トイレットペーパーに茶褐色のものがついたため、不安になってかかりつけ医を受診したことがきっかけになり、直腸がんという診断に至っています。

35年前に診断を受けた女性は、ひどい下痢が40日ほど続いたことがあり、かかりつけ医の診察を受けましたが、1年半通っている間、特に検査は行われず、処方された下痢止めも効果はありませんでした。別の病院を受診しましたが、そこでも検査は行われず、「大丈夫だ、大丈夫だ」と言われるだけでした。その間もどんどん体調は悪くなっていきました。ある日、真っ黒い血の塊のような便が出たため、それを病院に持っていったところ、初めて腸の検査(注腸X線検査)が行われ、がんであることが分かりました。

自覚症状がありながら、直接肛門科や胃腸科などの医療機関を受診するのではなく、がん検診を受診する人たちがいます。次の男性も出血がきっかけでした。振り返れば、ほかにも自覚症状だったかもしれないと思われることは幾つかありましたが(マラソンのタイムが落ちる、時折強い痛みを感じる、普段あまり変わらない体重が減る等)、普段の生活に支障はなかったため、特に気にすることはありませんでした。しかし、痔の傾向はないのに出血したため、おかしいと感じて人間ドックを予約しました。そこで初めて便潜血検査を受け、陽性となり、大腸内視鏡検査を経てがんという診断を受けました。

同様に便に血がついていることに気づいて、インターネットのがん検診を受けた当時喫茶店を経営していた男性は、最初は気楽な気持ちで申し込んだのですが、検診キットについていた問診票に答えていくうちに不安が募ってきて、陽性の結果が返ってきたときは仕事中にお客さんの前でも手が震えてきたと話しています。

一方、インタビューした人の中には、自覚症状があり、がんを疑ったが、しばらく放っておいたという人もいました。この女性は、3年前ほどから便の色が黒くなったり、下痢や便秘といった便通異常があり、自分でもがんを疑っていました。しかし、「60(歳)まで生きればいい」、がんになったらなったときと考えていたので、しばらく放置していました。しかし、従兄の医師に強く受診を勧められ、「しょうがなく」病院に行ったところ、3つほど腫瘍が見つかり、検査をしたところ、初期のがんと診断されました。

偶然に見つかる

便潜血検査(一次検診)も受けておらず、自覚症状も全くないまま、がんと診断された方もいます。この方は、夫の付き添いで病院に行った際、血圧が高かったので血液検査を受けたところ、貧血であることがわかり、赤血球もしくはヘモグロビンの量が正常よりかなり少なくなった状態で、消化管からの出血が疑われたことから便潜血検査を受けました。その結果を、医師をしている身内に見せたところ、内視鏡検査を受けるように言われ、S字結腸にがんが見つかりました。がんは内視鏡が入らないほど大きくなっていましたが、本人に自覚症状は全くありませんでした。

精密検査を受ける

がん検診は自覚症状がない人を対象に行い、がんを早期に発見することを目的としています。しかし、実際には、自覚症状の有無が検診を受けるかどうかに強く関わっているようです。実際、二次検診としての精密検査については、受けないという選択をする人も少なくありませんが( 「精密検査を受けない理由」 を参照)、自覚症状から受診をして精密検査が必要になった場合、これを受けないという人はほとんどいませんでした(「精密検査を受ける理由」のインタビュー28 も参照)。35年前にがんと診断された女性は、血の塊が出て受診していることもあり、「これをやらないと、自分は死んじゃう」という切迫感から、医師の指示通りに精密検査(注腸X線検査)を受けたと語っています。一方、全く自覚症状がないまま精密検査を受けることになった女性は、以前から内視鏡検査に対して強い恐怖感を感じていましたが、医師をしている身内の強い勧めもあり、受診しました。

診断を受け止める

検診を受けないでがんであることが判明した人たちは、診断をどのように受け止めたのでしょうか(。(「精密検査の結果を知る」も参照)。多くの人はやはり、がんと診断されて大きなショックを受けています。自覚症状で人間ドックを受診した男性は、大腸がんと診断されたとき、「なぜ自分が」という思いにとらわれ、誰とも話す気になれなかったといいます。

一方、「がんになったらなったとき」とがんを疑いながらも放っていたという女性は、がんと聞いて「ちょっとはショック」だったものの、早期がんだったこともあり、「10年ぐらいは生きられるぞ」と思ったと話しています。一方、ステージⅣの進行がんと診断された女性は、「やっかいな病気になってしまった」という思いはあったものの、動揺することはありませんでした。肝臓にも転移していましたが、特段体調に変化はなく、日常が辛いと感じることもなかったため、内視鏡の映像などを見ても危機感がなかったと語っています。

自覚症状が出るまで、大腸がん検診を受けたことがなかった人たちは、検診を受けてこなかったことをどう思っているのでしょうか。その多くは自覚症状が出るまでは、自分たちの健康に自信を持っていて、検診の必要性を感じていなかった人々です。そのためか、このインタビューでは、がん検診を受けていなかったことに対して、強い後悔の念を抱いている人はいませんでした。たまたま受けた血液検査でがんが見つかった女性は、がんを想定外の出来事といい、せめて血液検査くらいは受けたほうがいいと言います。東北地方に住む彼女は、当初は震災のストレスとの関係を疑ったそうですが、ここまで大きくなるには5年かかると医師に言われたことから、もっと前からあったのに気付かなかったのは怖いことだと話しています。

前述の肝臓への転移がみつかった女性は、検診を受けない人が多いことは個人の問題ではなく、予防や検診による早期発見など、がんについての教育を徹底していない国や自治体の問題だと語っています。一方、「がんになったらなったときだ」という考え方で検診を受けていなかった女性は、検診について懐疑的な発言をしている著名な医師に共感しつつ、がんを見つけても切らなくてもいいのではないか、と話していました。