長引く症状・後遺症

新型コロナウイルス感染症は急性期を過ぎた後も症状が長引くことも明らかになってきました。発症後14日~110日の患者を対象とした複数の研究の結果を統合・整理した論文によると、新型コロナウイルスに感染症した患者の80%がなんらかの症状を訴えているとのことです*1。その症状は多様で、日常生活に大きな支障のない軽度のものから寝たきり状態になるほど重篤なものまで報告されていますが、それらがコロナウイルス感染を原因とする後遺症なのか明確に診断する基準は決まっていません。
 私たちのインタビューでも、半数近い方が後遺症を疑うような何らかの症状を体験していましたが、仕事に支障が出るほど深刻な状況の方は多くはありませんでした。ここではそれらの方々が様々な症状で苦しんだ経験や日常生活への影響に関する体験談を紹介します。
*1:Lopez-Leon S, Wegman-Ostrosky T, Perelman C, et al.: More than 50 long-term effects of COVID-19: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2021;11(1):16144. Published 2021 Aug 9.

身体的症状

新型コロナウイルス感染症の後遺症には多彩な症状があります。東京都の調査*2では、嗅覚異常(30.4%)、倦怠感(26%)、味覚異常(23.3%)、咳(22.3%)発熱・微熱(19.1%)、呼吸困難(15.1%)などが報告されています。また急性期にはみられなかった脱毛の症状も見られます。
*2:東京都病院経営本部:都立公社病院「コロナ後遺症相談窓口」相談状況、2021年10月31日現在、2021年11月

今回のインタビューでも嗅覚異常が長引いている人が複数いました。次の女性は子どものうんちの臭いが感じなくなり、ショックを受けていましたが、嗅覚がだんだんと戻り、子どものうんちの臭いを感じることができるように戻ったことが嬉しいと話されていました。

次の女性は嗅覚障害でにおいを感じなくなる無臭症とにおいの感じ方が変わってしまう異臭症を経験したことを話されていました。

嗅覚異常と同じくらいよく見られる後遺症に倦怠感(だるさ)があります。次に紹介する男性は、退院時は元気だったのに、その後激しい倦怠感に襲われ、仕事に戻る気力を失ってそのまま退職してしまったことを話しています。

一人の人に様々な症状が出ることもありますが、どれが後遺症なのかを特定するのは困難です。次の女性は呼吸器症状、頻脈、腕の痛みなど多様な症状について話しています。

発症のタイミング

新型コロナウイルス感染症の後遺症は、味覚・嗅覚障害のように発症してから療養後まで持続する症状と、いったん急性期から回復した後に出てくる症状があります。先ほどご紹介した男性も、入院中は仕事ができるほど元気だったのに、退院後数日してから倦怠感に襲われたと話していましたが、次の女性もホテル療養の後に一旦症状が落ち着いたのに、仕事に戻ってから微熱、頭痛が出て長く続いたと話していました。

退院後も1年余り外出を控えて自宅にこもる生活をしていたという次の女性は、脱毛や舌の痛みや耳鳴り、動悸などの様々な症状に悩まされたと話しています。しかし、コロナウイルスに感染して数か月以上経ってから出現したこれらの症状が本当に後遺症なのか、更年期障害などの他の身体的変化が原因なのか、はっきり言えないと話していました。

後遺症の治療

新型コロナウイルス感染症の後遺症の原因は自己抗体、ウイルスによる過剰な炎症(サイトカインストーム)などが考えられていますが、原因は明確になっていません。そのため治療法についても現在は症状を緩和する方法(対症療法)が中心となっており、後遺症そのものを治療する方法は分かっていません。
2021年に入ってからは新型コロナウイルス感染症の後遺症に対する治療を専門に行う「後遺症外来」が各地に開設されていますが、今回お話を伺った方々はまだ、そうした専門外来ではなく、耳鼻咽喉科などの一般的な医療機関で治療を受けられていました。
次にご紹介する女性は嗅覚障害の治療で鼻の奥の上咽頭と呼ばれる部分に薬を塗る「Bスポット治療」を受けた経験を話されていました。

 次にご紹介する女性は、嗅覚障害の治療として、アロマオイルなどの匂いを嗅いで嗅覚に刺激を与えたり、自分になじみのある匂いを嗅いで、その匂いが何であるのかを自身の記憶と結びつけるスメルトレーニングという治療を受けられたことを話されていました。

後遺症をめぐる不安

コロナ感染拡大の第1波の頃はまだ後遺症の情報がほとんどなかったので、症状があっても、すぐにそれが後遺症だと気づかなかった人もいました。しかし、第3波の頃にはメディア報道もあり、退院時に医師から説明を受けた人もいて、後遺症の心配をする人が出てきました。次の男性は夫婦ともに新型コロナウイルス感染症に感染し、二人で後遺症の心配をしていましたが、何も症状が残らなかったことを「非常に幸いな結果だった」と話しています。

後遺症の発症のメカニズム等については研究が進んでおり、少しずつではありますが、分かってきています。しかし、今でも分からない部分も多くあり、また、様々な情報が飛び交って、何が正確な情報なのか分からない面もあります。次にご紹介する医療職の女性は、新型コロナウイルス感染症についてはある程度知識を持っていましたが、退院後も続くひどい頭痛に不安を感じて、後遺症に関する情報を色々集めました。しかし、結局確定的な情報が得られなかったと話されていました。

後遺症がもたらす経済的負担

国立国際医療研究センターの研究では後遺症のある65%の人が後遺症の多くの症状は徐々に改善していくことが明らかになっていますが、発症後400日を経過しても、何らかの後遺症と思われる症状が残っている人もいることが明らかになりました*3。このように長引く後遺症は、人々の日常生活に大きな支障を来たし、経済的な困難をもたらす可能性があります。
*3国立国際医療研究センター「新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告」2021年10月8日

新型コロナウイルス感染症に関する治療に関しては、法律に基づいて自治体が負担しますので、治療そのものに費用負担はありません。しかし、後遺症に関しては、通常の保険診療となるため、自己負担が発生します。次の女性は後遺症と思われる症状の治療のために医療費がかかっていること、さらには体調不良のため仕事を休んだことによる収入への影響も話されていました。

国立感染症研究センターの調査では後遺症のある65%の方が仕事に影響があったと回答しています。コールセンターで働いていたこの女性も。呼吸困難があるほか、せき込んでしまうこともあり、後遺症に対する理解が十分ではない職場で仕事を続けることの難しさについても話されていました(「仕事・職場への影響」のインタビュー08さんの語りを参照)。

※今回インタビューに答えてくださった方々は比較的軽症の方が多かったので、引き続き後遺症の体験談を募集中です。重い後遺症を経験されていて、そのことについて「語ってもいい」と思われる方はこちらからご応募ください。

2022年3月公開

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