仕事・職場への影響

ここでは、新型コロナの感染が、感染したご本人、濃厚接触者とみなされた方やそのご家族の職場の人間関係や仕事そのものに、どのような影響がもたらしたかについての体験談をご紹介します。

職場への報告と就業調整

今回のインタビューでは、皆さん感染の可能性を自覚した時点で、職場や仕事の関係者に報告・連絡・相談をしていて、感染を疑いながら職場に出勤した、あるいは職場での就業を余儀なくされたという人はいませんでした。ただし報告を受けた相手の反応は、職場によってまちまちでした。感染の時期、業種や組織風土のちがいが反映されているようです。

こちらの女性はまだ情報が少なかった第一波の時期に感染を経験しました。感染を疑ったときは、行く先々の病院や、保健所にすら、コロナの可能性を否定されましたが、当時あまり知られていなかった「嗅覚障害」の存在を仕事を通じて耳にしていたので「信念を持って」感染を疑い、上司に伝えるとすぐに理解してもらえて、自主隔離を始めたと話しています。

こちらは、子どもの感染がきっかけで、同居している家族全員が濃厚接触と判定を受け、みんな一緒に外出自粛を余儀なくされた方です。自治体の機関に属する自分は、すんなり有休をとれたけれど、同じ福祉分野で働く夫は企業勤めで、現場対応が主な業務だったため、調整の苦労があったと語られていました。

仕事への復帰にまつわる問題

新型コロナウイルス感染症は指定感染症なので、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で患者の退院及び就業制限の取扱が定められています。(2021年7月)現在、この就業制限は、もう感染の危険がないと判断されて退院(あるいは隔離解除)になった時点で、同時に解除されることになっています。ただ、法令上「復帰に問題なし」というお墨付きを得られても、実際にすぐに元のペースで働くことができるかというと、様々な事情から復帰までかなりの手間と時間がかかる場合もあるようです。

療養明けも続く体調不良、後遺症

通常、長期に休んだ後の仕事への復帰は、原則的に本人の体力や体調と、主治医や産業医の意見を合わせてタイミングが決められます。しかし、新型コロナウイルス感染症の場合は、自宅療養やホテル療養では医師の診察はなく、入院治療でも主治医がいない場合も少なくないので、復帰についての医学的な判断を仰ぐことが難しいという問題があります。 回復のペースや後遺症についての知見も十分に蓄積されておらず、個人差も大きいことから、一人ひとりが自分の判断で交渉して仕事への復帰のタイミングを決めなくてはならない状況が語りの中から垣間見えます。

こちらの大学教員の女性は、どうしても出勤せざるを得ない仕事が療養期間明けすぐにあったそうです。在宅ワークが認められていない職場で、体調不良を抱えながら薬やタクシー、ホテルを駆使して乗り切らざるを得なかった、と話していました。

こちらの女性はコールセンターの勤務で、だるさやせき込み、味覚嗅覚障害など、さまざまな長引く症状を抱えておられますが、職場に理解を求めるのは難しく、今後も同じ仕事を続けていけるかどうか、不安を感じているといいます。

PCR検査なしでの社会復帰をめぐる問題

退院時のPCR検査は、第3波の頃から必須ではなくなり、現在では人工呼吸器による治療を行わなかった場合、「発症から10日以上経って症状が軽快して72時間以上経過」していれば、隔離解除となります。この解除条件は、ウイルスの感染力とPCR検査の有用性と限界について知見を総合し、検討したうえで、現時点での最良な方法として設定されています。

しかし、「隔離解除時のPCR検査は原則不要」であることと、その理由(「感染者の不安と苦悩」のページの「退院後の感染の不安」の項を参照)は、いまだ世間に十分には浸透していないようです。感染症はコロナに限らず、どんなものでも感染リスクを完全に排除することはできません。また検査で「陰性」と出ても、あくまで検体を取ったその時点での結果で、一時的なものです。検査そのものも偽陰性や偽陽性など、一定の限界があることが前提で運用されています。

こうした条件のもと、隔離解除後はもう仕事に出て大丈夫ですよ、と医療者から伝えられるわけですが、「本当に陰性なの?感染力はないの?」と回復者側も、復帰を受け入れる職場側も、互いに疑心暗鬼になることが少なくないようです。業界によっては、こうした不安の払しょくのために、復帰前に「陰性証明」としてPCR検査を求めたり、求められたりする事態が散見されます。

今回のインタビューでは、クライアントとの契約に基づいて自営で働いている人と、介護現場で働いている人から、復帰前に自分や周りを安心させるいわば説得材料として、「陰性証明」を得るために、自発的に復帰前にPCR検査を利用した、というエピソードが聞かれました。

いくつかの音楽教室でバイオリンを教えているこちらの女性は、生徒や運営サイドから直接要求されたわけではなかったけれど、不安を与えないよう、そして自分も安心していられるようにと、自費でPCR検査を受けたことを話しています。

訪問介護の現場で働くこちらの男性は、隔離終了後も感染リスクに関する不安が残っていたので、会社と相談して休みを数日延長し、あわせて会社に用意してもらったPCR検査を受け、陰性であることを証明してから職場に復帰したと話しています。

「感染者の不安と苦悩 退院後の不安」 もご参照ください)

過剰な恐れが引き起こす、仕事への影響

濃厚接触の基準にあてはまっていなかったけれど、身近な人の感染が伝わったり、伝えたりしたことで、仕事の関係者に波紋が広がったと語る人がいました。

バイオリニストの女性は、リハーサルに参加した直後、別の現場で一緒だった人の感染が判明し、自分が濃厚接触者に該当すると知らされ、検査を受けて陽性の結果が出ました。慎重を期してリハーサルのときは分厚いマスクをつけていたことを話すと、同席したミュージシャン仲間は濃厚接触には当たらないと保健所に判断されました。にもかかわらず、仲間の一人が合理的な理由なく、感染者と一緒にいたというだけで、出演をキャンセルされた事実をSNS経由で知り、理不尽だと感じたことを話しています。

こちらの方は自営で飲食店を経営されています。第1波の時期に、別居だった実の父親を新型コロナ感染によって亡くされています。父親とは発症の1週間前に会ったきりで、「念のために」保健所から自分も1週間の健康観察を要請されました。1週間後に営業を再開し、このときはじめて休業の事情を知るところとなった従業員の様子について語っています。なお、従業員の反応はこの時期だけだったとのこと。当時を「まだ皆が恐怖を感じていた時だったから」と振り返っていました。

感染で問われる社会的責任

感染の原因追及

「夜の街」クラスターが頻繁に取り沙汰されていた時期に感染し、「夜の街で感染したのでは?」と職場から問われたという人もいます。「行っていない」と答えても、なかなか信じてもらえなかったそうですが、この方は、職場で感染予防を考える立場に置かれたなら、きっと自分も同じ質問をしただろうと、理解して受け止めていました。

感染が判明した前後に会っていた人に対して、仕事の関係者から偏見や感情的な反応が向けられた、というエピソードも聞かれました。自分が感染したことで、勤務先が一時期営業停止に追い込まれ、その責任を感染源と推定された人に負わせて、損害賠償を請求しようといった話が持ち上がり、板挟みになって辛い思いをした、という人もいます。

感染への罪悪感、感染ゼロのプレッシャー

職場を休んだ人は、お世話になった職場の人たちへ、自然に沸き上がった気持ちとして休んだことで仕事上迷惑をかけたことへの謝罪を、お礼とあわせて伝えたと話していました。

しかし中には、感染したこと自体に罪悪感を抱いて謝罪をした人もいます。感染したご本人の口からも「自分のせいで」「やってしまった」といった自分を責めるような言葉が少なからず聞かれます。周囲からそのような目が向けられることもあり、上司に促されて関係者に頭を下げて回ったと話した人もいましたし、自分では非があるとは思わなかったけれど、上司に責められて謝罪せざるを得なかったという人もいました。

介護現場で働くこちらの男性は、感染が分かったときは、潜伏期間中に重症化リスクが高い人を感染させてしまったのでは、と自分のこと以上に心配だったそうです(「感染者の不安と苦悩」インタビュー09)。幸い感染した人はいませんでしたが、 自分のせいで濃厚接触者に外出制限がかけられ、迷惑をかけてしまったことを謝罪したと話しています。

感染をゼロにするという不可能な目標は息苦しい、感染は誰にでも起こりうるので、感染ゼロを強調しないでほしい、と上司に働きかけた人もいました。

2021年9月公開

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