経済的負担

インタビューでは、前立腺がんにかかったことによる経済的負担について多くの人が話しています。治療費の負担だけでなく、通院や療養のためにかかる費用もありますし、前立腺がんにかかることで仕事に影響が出て、収入が減ることも大きな問題として語られていました。ここでは、そうした前立腺がん治療に関連するお金の話題を紹介します。

公的健康保険の適用

前立腺がんに関わる検査法・治療法の多くは健康保険を用いて受けることができます。私たちのインタビューでも、多くの人が保険適応の診療を受けていました。しかし、これらの人々の中には、経済的にそれほど負担は感じないと話す人もいれば、かなり大きな負担だと話す人もいました。数ヶ月から1、2年ほどの治療期間で、手術や放射線治療などを受け、今は経過観察のためだけに通院しているという人や、すでに治療が終わっているという人の多くは、一時的に支出は増えたけれど、それほど重い負担だとは感じなかったと話していました。その一方、長期にわたって継続的に治療を受けている人たちは、経済的な負担は決して軽くないと話しています。特にホルモン療法を受けている人たちの負担は、例えば4週間に1回、皮下注射で受けるリュープリン(一般名リュープロレリン)が、薬価*で44,292円(3割負担だと13,000円以上)、内服薬であるカソデックス(一般名ビカルタミド)は毎日1回1錠957.3円で、1ヶ月(28日分)だと26,804円(3割負担でも8,000円以上)になるなど、費用は高額です。また、この2つの薬を併用する場合も多くあります。なかには家計を切り詰めて、何とか対応していると話す人もいました。
*薬価は2012年12月現在のものです。

高額療養費制度の利用

公的保険においては、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」があります。とくに一定期間の内に高額な治療費がかかる手術や放射線治療を受けた人のなかで、この制度を利用したおかげで、それほど大きな負担にならなくて済んだと話す人たちは少なくありませんでした。この制度は、以前は病院窓口で支払いをした後に申請をすることで、限度額超過分が還付されるシステムでしたが、現在は事前に申請することで、窓口での支払いを限度額のみにすることが出来ます。そのため入院前に申請をしておくと便利だと話す人もいました。また控除限度額は、ひと月ごとに設定されているので、治療がひと月以内に終了する場合と、2ヶ月以上にわたる場合では、全く同じ治療を受けていても自己負担額が異なります。そのため、手術などの高額な治療を受ける場合には、負担が少なくて済むよう、できるだけ月の初旬に入院して、ひと月のうちに治療が済むようにすると安上がりだとアドバイスする人もいました。

保険適用外の診療

前立腺がん治療には、HIFUや温熱療法など、全額自己負担となる自費診療扱いの治療法もあります。また一部の治療法は、「先進医療」という制度(平成18年10月の健康保険法一部改正に伴って導入された)を利用して受けられる場合があります。これは特定の医療技術を扱う施設が、厚生労働大臣に申請・承認を受け、そこでは通常の保険診療治療と特定の先進的な医療技術を併用することができる仕組みになっています。具体的には、前立腺がんの場合は、重粒子線治療、陽子線治療がこれにあたります*。これらの治療を先進医療として受ける場合、検査や診察、投薬や入院費用などの通常の治療と共通する部分については、健康保険が適用されますが、先進医療にかかる分(技術料)は全額自己負担となります。

さらに、転移や再発のため、まだ認可されていない抗がん剤や免疫細胞療法など、標準的な治療以外の治療を受けようかと考えている人たちの中には、こうした治療の選択肢を前に、高額なので受けるかどうか悩んでいると話す人もいましたし、受けたくても経済的に無理だろうと話す人もいました。ある男性は、試験的な治療に高いお金を払わなければならない状況について、国がもっと積極的にデータを集めるだけでなく、民間の寄付を研究に活用できるよう税制の改革も検討すべきだと話していました。

*前立腺がんの先進医療としてはこの他にロボット手術やペプチドワクチンがありますが、インタビューに協力してくださった方の中に体験者はいませんでした。

医療費以外のさまざまな経済的負担

通院や、療養のためにかかる費用もあります。私たちのインタビューでは、できるだけ自宅近くの病院で治療を受けたという人もいましたが、様々な理由で新幹線や船などを使って遠距離を通院していた人もいました。この場合、通院費用はかなり大きな額になります。ある男性は、放射線治療を受けるために遠方の病院に連日通院しなければならず、そのためできるだけ運転しやすい車を購入したそうです。この男性はまた、つらい抗がん剤治療を続けるのに、気晴らしは必要であり、そのための費用を捻出することや、それについて家族に理解してもらうことの大切さについても語っています。

健康食品や漢方などを利用している人たちもいました。高額なものとなると、あっという間に月数万~数十万単位の出費になってしまうという声も聞かれました。

また、術後の後遺症としてリンパ浮腫を発症し、そのケアに必須の矯正具を購入するためにかかる費用が負担であると話した人もいました。

民間保険の利用

民間の保険を利用した人もいます。加入しておいて良かったと話す人もいましたし、入っていなかったので、今思えば是非加入しておくべきだったという人もいました。一方で、保険に入っていなくても、支払う保険料を考えるとメリットを感じないし、別に困らなかったという人もいました。

仕事・収入への影響

私たちのインタビューでは、診断を受けたときに、すでに仕事を辞めていた人や、時期的にそろそろ退職や引退を考えていて、診断を受けたことをきっかけに仕事を辞めたり、仕事量を少なくしたと話す人が比較的多く、このような人たちの場合には、がんに罹患することの影響が、収入にまで及んだと話す人はいませんでした。しかし50代~60代で、現役で働いている人や、働くことを強く望んでいる人たちにとっては、病気を抱えたことが仕事や収入に直接大きな影響を及ぼしていました。仕事を続けられなくなってしまったり、再就職や再雇用が難しくなったりして、定期収入の道が断たれてしまったという人もいました。ある人は、子どもから支援を受けて何とか切り抜けたと話しました。退職前に受けた健康診断で見つかったという人の中には、年金が受給できる年齢まで継続を予定していた仕事を続けられなくなり、貯金を切り崩してやり繰りするしかないと話す人もいました。

治療が長引くことによる経済的不安

今後、ずっと治療を受け続けなければならないことを考えると、将来に不安を感じるという声はたくさん聞かれました。

また、これまで経済的に困りはしなかったという人でも、がんが再発・転移したときのことを想像すると、不安を感じるという人は少なくありませんでした。

ある男性は、治療にかかわる経済的な不安について相談できる専門家を、医療チームのメンバーに入れて欲しいと語りました。