生きること、命への思い

ここでは、前立腺がんの体験とつながる、人生や命のありようについての考えや哲学、体験にまつわる語りを紹介します。

がんになって生き方を見直す

前立腺がんをきっかけに、これまで、そしてこれからの生き方への気づきを得たという人は少なくありません。日々の不摂生や不養生のせいで前立腺がんにかかったと考えた多くの男性が、食事や睡眠をはじめとする生活習慣を見直したり、健康を意識した様々な取り組みを始めたり、ストレスをためないように気をつけたりするようになったことを話していました。(「再発予防と体調管理」を参照)

さらにインタビューでは、こうした日常の変化だけでなく、人生についての考え方に前立腺がんが与えた影響についても語られていました。前立腺がんは、これまで無理を重ねてきた自分の生き方への警告だと思ったという人もいましたし、時間は有限だと感じ、真剣に考えよう、これからの人生はやりたいことをはっきりさせようと意識を新たにしたという人もいます。我欲が抑えられ、心にゆとりが出来て、生きることが楽になったと話す人もいました。また、これまでの人生を振り返り、自分の生きた証や後に残すものに思いを巡らせたと話す人もいました。

このような気づきや変化を経験して、前立腺がんに罹ったことは人生で必ずしもマイナスではないと話す人もいました。がんは自分を再発見するために必要な、痛みを与えてくれる「恵み」の一つだと表現した人もいましたし、「自分は生かされている」という思いを強くし、がんになったおかげで、家族や医療、身の回りのあらゆる物事へ、感謝の気持ちを持つようになったという人もいます。がんに罹ったことで、自然の美しさや身近な幸せに気づくことが出来たと語る男性もいました。

このような気付きをもとに、新たな目標や生き方を見出したという人もいれば、なかなかそんなふうにはいかず、意欲や希望をもてずにいると話す人もいました。

生死を受け止める姿勢―死生観

死の恐怖とどう向き合い、生きていくかについて、インタビューでは様々な想いや方法、哲学が語られていました。
これまでの人生経験で培われた死生観から「死の恐怖があっても、病いを自然なもの、生死は同じもの、当たり前のものと受け入れれば、それほど悩まずに済むのでは」と話す人たちもいました。
また、文学などの書物から、生死と向き合うための支えや気づきを得たという人もいます。年齢が比較的高い人たちの中には、前立腺がんが、生死に触れる初めての体験ではなく、これまで罹った別のがんや、結核などの他の病気、大きな怪我、若い頃の従軍経験などが、命の問題について考える源になっていると話す人も少なくありませんでした。

一方で、生死を自然なものとして受け入れたいと思いながらも、今はそこまでは行けず悩んでいると話す男性もいました。

生死と向き合うための取り組み

前立腺がんをきっかけに、心の安寧を得るため始めた取り組みがあると語る人もいます。
宗教や宗教家の言葉を頼りに、死の恐怖と向き合ったり、自らの人生を見つめ直したりしながら、心の平静を得る道を見つけたという人もいます。また、特定の宗教によらずとも、先祖や仏を敬ったり、座禅を組んだり、仏像を彫ったり、祈りや唱和といったものを手がかりに、自分なりの目標や感謝の気持ちをもって、命と向き合っているという人もいました。

がんと共存して人生を楽しむ

インタビューでは前立腺がんを患いながらも、よりよく生きるための様々な人生の知恵や哲学が語られていました。「病いは気から」と考え、今の生活を楽しみ、家族や仲間と一緒に、明るく前向きに生きることが大事だという人もいましたし、目標を持ち、人生にリズムをつけるのがコツだと話す人もいました。治療を受けながらも、治そうとするのではなく、がんと折り合い、共存を考えることの大切さを語る人もいました。そういった人たちの中には、がんに日々「大人しくしてくれてありがとう」と語りかけたり、俳句を通じて遊び相手にしたりしていると話す人もいました。

人生の終わりに向けた準備

人生の終わりをどう迎えるかに思いを巡らせ、準備を始めたという人もいます。心の準備のために、先に亡くなった人たちの名前を紙に書き、死後のイメージを膨らませてみたという人もいましたし、写真や手帳の整理をしながら人生を振り返り、命の価値を再認識したと話す人もいました。また、ある男性は、過去に別のがんを体験したことをきっかけに、死に慣れておく準備の大切さを学んだといい、前立腺がんを患った際には、火葬場の見学にまで行ったと話し、むしろそうすることで「長生きできる」とも語っていました。
一方で、残された時間を大事にしなければと思いつつも、何か特別なことをしようとするとおかしくなる感じがして出来ないと、苦しい心境を語る男性もいました。

最期まで闘いたい

一方で、いずれ必ず訪れる死に対して何か準備をするのではなく、がんと闘いたいと話す人もいました。がんで死ぬのはいやだ、「寿命」で死にたいという人もいれば、もがき苦しみながらも立ち向かい、生きる覚悟をもつことの大切さを語る人もいました。生まれて初めての大病である前立腺がんになんとしても勝って、一日でもいいから長生きしたいと話す人もいました。