家族の思い、家族への思い

ここではインタビューに協力した人たちが、妻や子ども、親、親戚といった家族に、前立腺がんの診断をどう伝え、またその人たちがどのように受けとめたのか、家族の思いと、体験者が抱く家族への思いについての語りを紹介します。

診断を伝えられたとき

医師から前立腺がんの診断を伝えられたとき、家族の誰かと一緒だったという人は少なくありません。妻と二人でという人もいれば、子どもや親戚に来てもらったという人もいました。一方、一人で診断を聞き、家族に伝えたという人もいます。家族の反応をみて、想像以上にショックを受けていたと話す人もいましたし、冷静に受け止めていたという人もいました。

進行したがんであると考えられるとき、詳しいことを家族に伝えるのをためらったという人もいます。診断や病状が分かった後は、しばらく家族がお互いに気を遣い、つらい気持ちを心の内に隠していたと語る人もいます。全てオープンにしても、変わらずに明るくいてくれる家族の様子に支えられたという人もいました。

詳しい病状は家族にだけ知らされ、自分には知らされていなかったという人もいます。今回のインタビューでは10年以上前に診断を受けた人に、診断後しばらくは「良性」と聞かされていた人がいましたし、診断名は知らされていても、ある程度回復するまで、進行の程度など詳しい病状は、妻の判断で知らされていなかったという人もいました。

子どもに診断を伝えたときのことも語られています。診断時に子どもが小学生という男性が2人いましたが、ほとんどは成人かそれに近い年齢に達していて、孫がいる人も少なくありませんでした。大人になった子どもには、積極的には伝えないという人の方が多いようです。現状では差し迫った危機はないので、「話してもしょうがない」「余計な心配をかけたくない」と理由が述べられていました。子どもが自立して遠方に住んでいたり、家庭を持っていたりすると、自分からは伝えず、他の家族の口から自然に伝わるに任せたという人も少なくありません。伝える場合も「早期だから」「進行が遅いがんだから」といった説明を添えたという人が多く、なかには自慢話のように伝えたという人もいます。

一方、子どもにはできるだけ早く、積極的に伝えたという人たちもいました。がんの遺伝的なリスクを心配していた人もいます。そのうちの一人の男性は、妻もがんを患っていたことから、子どものがん罹患のリスクがかなり高まるのではないかという申し訳なさと、妻の看取りのときに、家族皆が支え合うために、きちんと伝えることの大切さを実感したことを語っていました。ある男性は、頼りない親父だと思いながらも、すぐに子どもに助けを求めたと言います。自分が入院して不在になるときのことを考え、病床の息子に隠さず話題にしたという人もいました。

なお、がんは遺伝子の変異によって起こる病気ですが、多くの場合は年齢を重ねるにつれて遺伝子に傷が付くことで生じますので、大部分のがんは遺伝しません。しかし、遺伝的な要因に限らず、親子は似たような環境で暮らしているということもありますので、いずれかの親ががんを罹患している人ががんになる確率は、両親ともがんではない人の2倍ほどになるという研究があります(JACC Study)。また、前立腺がんについては父親や兄弟に前立腺がんになった人がいると、発症のリスクが高まることが知られています。

参考サイト がん情報サイト 前立腺がんの遺伝学

家族からの支え

家族から受けた支えについても、様々なエピソードが語られています。前立腺がんが見つかったのは、家族が病院に行くよう背中を押してくれたことがきっかけという人もいましたし、治療に関する情報は家族が集めてくれたという人もいます。その他にも、明るくいてくれることや、病気を理解し、食事などの日々の生活を支え、やりたいことをやらせてくれていることが大きな助けになっているという人もいます。存在そのものが支えだという人もいました。また家族が医療従事者の場合には、病院や治療選択でアドバイスをもらったという人もいます。
また、子どもの言葉に励まされたという人もいます。診断直後に息子がベッドサイドで語ってくれた言葉が、気持ちを落ち着かせるきっかけになったという人もいました。また、娘が自分をかばってくれた一言に救われたという男性もいました。

家族関係への影響

前立腺がんをきっかけに、家族との絆が強くなったという人もいます。家族との会話が増えたという人も少なくありません。家族に甘え、頼ることの大切さを語る人たちもいました。夫婦がお互い笑顔でいられるようになったという人もいます。一方で、診断を受けた後で気持ちが落ち込んでいるとき、妻の励ましの言葉が辛く響いて、妻と一緒に参ってしまったという人もいました。また家族が医療従事者で、何かと頼りになる一方、自分より状態が悪い人を診ているので弱音が許されぬ感じがして、複雑だと話す人もいました。

体調の悪化のため、働き盛りで家計を支える立場にあるとき、子どもたちに経済面で支援をしてもらわざるを得なくなったという人もいます。また、病床にある息子に励まされたという人もいます。

前立腺がんでは、選択する治療法によっては、勃起障害などの性機能障害が起こることがあり、夫婦生活に影響をきたすことが考えられます。ですが、今回のインタビューでは、この点について多くは語られず、触れられたとしても「普段の妻との関係は、以前と変わらない」「年齢もあるし、もう子どももいるから用は済んでいる」などと話す人がほとんどでした。(詳しくは「手術と性機能障害」を参照)。

家族への思い

「がん」という診断を、高齢の親がどう受けとめるかに心を砕いた人たちがいます。心配をかけたくないという気持ちから、他の家族や親族には伝えても、自分が先に亡くなる可能性がある場合はともかく、親にだけは伝えないようにしたと話す人は少なくありませんでした。親や家族に伝える際の、配慮の大変さと大切さについて語った男性もいました。

自分の治療に取り組みながら、親の世話もしなければならない状況におかれることもあります。この男性は、自分のがん治療と母親の体調の急変が重なってしまい、大きなストレスを抱えたと語っていました。

前立腺がんを患ったことをきっかけに、自分がいなくなるときのことを考え、子どもの将来を心配する声もありました。障害や病気を持った我が子の今後が心配だという人もいましたし、子どもが小学校を卒業するときに自分はいないかもしれない、と話すも人もいました。自分の病気が、成人した子どもたちの精神的自立のきっかけになり、子どもたちのためになれば、と話す人もいました。

家族に残すものについて語った人もいます。とくに子どもたちに対して、自分ががんとどう向き合ってきたか、その生き様を残したいと話す人もいましたし、悩みながらも幸せに生きる今の姿を見せることが家族に唯一、残せるものだと話す人もいました。

家族に伝えておきたいこととして、リビングウィル※について話している人もいました。医師からリビングウィルについて尋ねられたというこの男性は、家族と話し合い、意見をまとめる大切さと難しさを話していました。

※リビングウィル
終末期を迎え、意思の疎通ができなくなった場合に備えて、人工呼吸器の装着や胃ろうなど人工的な栄養補給法による延命措置を行なうかどうかについて、本人が意思表示することを指します。

2016年2月更新

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