治療法の選択・意志決定
ここではインタビューに協力した人たちが、どのように考え、治療法を決定したのか、その選択のプロセスについて語っています。治療の選択は、前立腺がんの状態(大きさや悪性度、転移の有無、再発のリスクなど)や、治療を受ける本人が置かれている環境、人生・生活の中での優先順位などによって大きく異なります。
早期の前立腺がんでは、治療法の選択肢の多さから、どれを選んだらよいのか分からず、悩んだという人はたくさんいました。ですが、インタビューに協力した人たちの多くは、治療を受けることで得られるメリットを重視して選んだと話していました。体からがん細胞を取り去ってすっきりしたい、完治を期待できる治療を受けたいという思いから、手術(前立腺全摘除術)を選んだと話す人は少なくありません。なかには、医師から経過観察(監視的待機療法)を勧められたけれど、精神的に引きずりたくないという理由で手術を選んだ人もいました。
一方で、治療をうけることによって生じるデメリットやリスクを重くみた人たちもいます。前立腺全摘除術が選択肢にあっても、メスを入れることによって体にかかる負担や、本来ある臓器を取ってしまうことに抵抗を感じたという人は、あえて選ばなかったと話す人もいました。手術にともなう問題では、手術中の出血や術後の排尿障害や性機能障害を心配する声が多く聞かれました(「術後の排尿トラブルとケア」「手術と性機能障害」もご覧ください)。また、前立腺全摘除術を受けても100%の確率で完治するわけではないと聞いて、選ばなかったと話す人もいました。放射線治療後の障害を心配し、他の治療法を選んだという人もいます。また早期がんであっても、前立腺肥大など既に抱えている病気のために、放射線治療が選択肢から外れたという人もいました。
一度目の治療で完治できなかったときのことを考えて選択したという人もいます。放射線療法は、同じ部位には原則として一度しかできないと言われています。またホルモン療法は、時期に個人差はありますが、時間がたつとホルモン抵抗性が生じて効果が得にくくなる場合があります。こうした情報を耳にしていた人のなかには、次の治療手段として取っておきたかったから、最初に受ける治療法には、あえて選ばなかったと話す人もいました。また、治療を繰り返し受けられることに大きなメリットを感じて、HIFU(高密度焦点式超音波療法)を選んだという人もいます。(HIFUと冷凍療法を参照)
治療法選びのポイントは、他にもさまざま挙げられていました。費用を比較して、費用対効果の高い方を選んだと話す人もいましたし、仕事や人付き合いへの影響を考えて治療法を選んだという人もいました。性機能の温存のために放射線治療を受けるつもりだったけれど、勃起神経温存の手術が出来るという医師に出会い、思いがけず手術を受けることになったと話す人もいました。
また、実際の内容どうこうというより、治療法の名称から想像するイメージや、治療に関連する過去の個人的な体験が、選び方に影響したという人もいます。
日進月歩する医療で、どれが自分にとって合う治療法なのか、どの選択が正しいのかを判断することは、患者本人にとってだけでなく、医師にとってすら難しい場合があります。インタビューに協力した人たちの多くは、医師の勧めと自分の希望を合わせて治療の選択をしていましたが、なかには全部を医師にお任せしたという人たちもいました。その一方で、自分の価値観を大切にし、医師と意見が違っても自分の意志を貫いたという人や、インターネットや本から情報を集め、自分に合った治療を求めて研究をしたと話す人もいました。さらには、前立腺がんには、これが一番いいという治療法はないし、自分で選んだ治療法ならあきらめもつくだろうと割り切って決断を下したと話す人もいました。
順番を待つ必要があったなど、治療法を選んだあとに、その治療を受けるまで数か月期間を要したという人の中には、すぐにがんが進行することはないだろうと知ってはいても、不安があったという人は少なくありませんでした。
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医師から治療法を示され「どれでも妥当だから選んでください」と言われて困ってしまった
尿失禁が起こる可能性について聞いたけれど、がんを抱えたままより摘出したほうがいいと思ったので手術を選択した
医師として自分の患者には病気と仲良くと話していたけれど、自分ががんになったときは、がんと仲良くするのは性に合わなかったので手術を希望した(テキストのみ)
経過観察は先延ばしにすることだった。モヤモヤを引きずりながら生活するよりは、手術して取ってしまうのが最適と思った
本来あるべきものを取ってしまうのは不安だったし、手術は出血が多いと聞き、負担が大きいと思ったので、切らずにすむ方法を探した
手術を受けた人から、手術をやり直したことや、勃起能力を失ってしまって「面白くない」という話を聞き、手術は選ばなかった
医師からは手術を勧められたが、大きな手術には必ず後遺症が出るので、残り少ない人生をそうは過ごしたくないと思い、小線源療法を希望した
最初は、手術をして取ってしまいたいと思ったが、医師から手術も100%完治する訳ではないと聞いて、ホルモン療法を受けることにした
全摘手術か放射線療法か選ぶよう言われ、それぞれのリスクを考えた結果、体力もあったし放射線療法による障害のほうが心配だったので手術を選んだ
並外れた前立腺肥大があったので、放射線を当てる範囲が広範になるため外照射でも内照射でも難しいと言われ、手術を勧められた
TVなどの報道で、放射線治療を受けると、もう手術は受けられないとあるのを見て、これはやっぱり手術をしないといけないなと思った(テキストのみ)
60歳で余命が長いから、再燃するリスクを考えて判断したほうがいいと医者から言われ、20年は生きたかったのでホルモン療法はやめて手術にした
自分のかかっていた病院ではIMRTは保険扱いだったし、重粒子線と治療成績がほぼ同じと聞いたので、金銭的負担の軽いIMRTにした
1年先まで仕事が入っていて、今まで通り仕事を続けながらの治療が絶対条件だったので、数日休むだけで復帰できる小線源療法を選んだ
最初の孫が生まれた頃で、小線源療法を受けると孫を抱けなくなってしまうと聞いたので、小線源療法は除外した
結果的には3D原体照射を受けたが、若いころラジオ技術の虜になったことがあり、IMRTの「強度変調」という言葉に強く引きつけられた
がんができている場所や進行度の問題で手術ができないと言われ、放射線治療を提案されたが、ホルモン療法だけとお願いし、希望通りにしてもらった
ロボット手術を受けるまで、4か月ぐらい待つ必要があった。転移がないのはわかっていたが、待っている間に転移したら困る…という気持ちだった
