経済的負担と公的支援

慢性の痛みは原因が複雑で,痛みへの対応にも個人差が大きいのが特徴的です。そのため、多くの方が様々な診療科、病院を複数受診していました。少しでも痛みを和らげるために保険の効かない治療を利用している人も多く、そのため医療費が高額になってしまったと語る人もいました。また痛みにより。転職や退職を余儀なくされ、収入がかなり減ってしまったと語る方も多くいました。このように慢性の痛みをもつ方は、痛みの治療のために出費が増えるにもかかわらず、収入が減ることが多く、経済的な負担が大きいようでした。経済的負担に対し社会福祉制度を利用している方もいましたが、申請や制度上の問題が様々あると語られています。ここでは、慢性の痛みをもつ方々のお金に関する話題をご紹介します。

痛みの治療に関する出費がずっと続く

慢性の痛みは完全には治ることが少なく、長期間に医療費がかかります。保険診療による医療費に加え、保険の適用されない治療を受けることで医療費が高額になる場合もあるようです。医療保険に頼ることで自分の生きる価値に疑問を持ったと語った人もいました。

交通外傷によって慢性の痛みが生じるようになった女性は、保険会社の人とのやりとりに傷ついた体験を語りました。そうして得た慰謝料でも長期にわたる痛みの治療費はまかないきれないと語っていました。

地方では、近くに自分にあう病院がないために、県外の病院に通院するための交通費や宿泊費の負担があるという方もいました。また痛みにより以前のように動くことができなくなり、生活環境を変えるため引っ越しやヘルパーの費用など出費が増えたと語る人もいました。

家族による経済支援

慢性の痛みをもつ人の多くは、仕事に支障をきたしており収入が減っていました。そのため家族の協力を得たり、貯金を切り崩したり、節約を心がけ生活されているようでした。家族の協力に感謝する一方、両親に経済的に頼らざるをえないことに対しひとり立ちできない後ろめたさや、仕事ができなくなり収入が一気になくなり妻が働くようになった状況に対し男としてのつらさを語った人もいました。

医療制度やその他の社会福祉制度の利用

経済的な負担に対して家族による支援のほかに、様々な社会福祉制度が利用されていました。しかし慢性の痛みに特定した医療制度や社会福祉制度はありません。そのため自分が利用できる社会福祉サービスが分かりにくく気づかなかったという人もいました。 就労状況や疾患の種類、障害の程度などによって傷病手当金、難病指定による医療費助成、障害年金、介護保険など様々な社会福祉制度が利用されていましたが、制度上の問題も様々あるようです。

治療に伴う費用を軽減するため精神疾患の診断で自立支援医療制度を活用し医療費の負担を軽くしている人もいました。この制度を利用すると、入浴・排泄・食事の介助や外出の際の移動支援などのサービスを受けることができるほか、「自立支援医療(精神通院医療)」の受給手続きをすれば、精神科通院医療費が原則1割負担で済むようになります。さらに自治体によっては、精神科に限らずすべての医療費の支払額に上限を設けて、それ以上払った場合に払い戻しを受けられる、高額療養費制度、公費負担制度や重度障害者医療費助成制度を設けているところもあります。

精神科で自律神経失調症と慢性疲労症候群と診断され、1日30錠を超えるうつ病の薬を服用していたという女性は、自立支援医療制度で医療費の負担が軽くなって助かったと話しています。

また「身体障害者手帳」や「精神障害者保健福祉手帳」などの障害者手帳を持つことによって、公共交通機関や公共施設の利用料金が割引になったり、所得税や相続税などが減免されたりすることがあります。自分で自分が身体障害者だと気づき、障害者手帳を申請して、医療費や税金の負担を軽くしたり、リフォーム費用にあてることができたという人がいました。

難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)に定められた難病(指定難病)の診断を受けている人は、病状の程度により医療費の助成を受けることができます。小学生の時から原因不明のまま診断がつかなかった方は40代ではじめて家族性地中海熱という診断がつき、その疾患が難病指定されていたので医療費負担が軽くなったと語っていました。

線維筋痛症は、非常に強い痛みを伴い日常生活や仕事にも大きな支障をきたすこともあります。しかし外見からは分かりにくいため、心身の障害があると認められにくいことや難病指定されていないことなど様々な制度の谷間にあると語った人がいました。

さらに痛みからくる就労困難による収入減に対しては、公的保険や公的年金制度によって補てんすることができます。私たちのインタビューでも、常勤のときには傷病手当金(*)をもらって一人暮らしができていたという人がいました。一方、65歳以上であれば老齢年金がありますが、64歳未満の人は障害年金を申請し認定されなければ公的年金はもらえません。障害年金の申請は煩雑で、慢性の痛みをもつ人が障害年金の認定を受けるのは困難なことも多いようです。

*公的保険の加入者が入院や自宅療養のために仕事ができなくなった場合に、標準報酬月額(保険料の計算の元となっている給与額)を日額換算した額の3分の2が、最大で1年6カ月間支給される制度

また、通勤時の事故等で慢性の痛みが生じた人の場合、労災が認められれば一定期間は医療費や所得の補償を受けることができます。しかし、医師により「症状固定」(傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態)と判断されるとそれらの補償は打ち切られます。次の男性は、通勤災害に発した慢性の痛みを抱えながら、労働保険審査会に再審請求をしたときの苦労を語っています。

2018年7月公開

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