痛みとともに生きる知恵
私たちのインタビューに答えてくださった方々が痛みと付き合ってきた期間は、短くても2年、長い方では40年になります。ここでは各人が、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら痛みと付き合う中で身につけた「痛みとともに生きる知恵」についてご紹介します。
慢性化した痛みの中で、どのように日常生活を送っていくかということを考えるとき、ある人は主治医から言われた「痛みがあっても邪魔者扱いしたり逃げたりせずに、生き生きと明るい生活をする」という言葉をモットーにしていると話していました。
痛みをなくすことをゴールにしない
痛みとの向き合い方についての語りの多くは、このモットーとつながるところがあるようです。例えば、「痛みを邪魔者扱いしない」ということは、何人かの人が話していた「痛みをなくすことをゴールにはしない」ということにつながっています。
痛くてもやりたいことをやる
また、「生き生きと明るく」というのも、多くの人が語っていた「痛くてもやりたいことをやる」という決意と共通しています。冒頭に紹介した女性は、医師から「痛みがなかったら何をやりたいか?」と聞かれ、痛くてもそれを実際にやってみるように勧められて、お遍路の旅に出たと言います。
同様に「痛いからできない」と思っていたことを「痛くてもやってみる」に転換することで、人生に対して前向きになるきっかけをつかんだ人たちがいました。
痛みに支配されない
「痛みに支配されない」というのも多くの人が語っていたことです。次の女性は痛みのためにできないことがあっても、「今日痛みがあるからと言ってすべてが終わりではない」と意識的に考えるようにしているそうです。
さらに、自分が痛みに支配されると人生や生活のコントロールを失う感覚を持つこともありますが、逆に痛みをバロメーターにして生活を見直すなど、自分が痛みをコントロールする術を身に着けるようにしたと話す人たちもいました。
痛みを客観化する
痛みに支配されない一つの方法として、痛みの変化を記録に残したり、自分の体を実験台にして痛みの緩和の方法を研究したりすると話していた人たちもいます。観察や実験を通じて痛みを客観化することで、「痛み」を「私」から切り離すことができるのかもしれません。
その一方で、痛みの変化を把握することにとらわれ過ぎてしまうと、「こうしたら痛くなる」という予想で、痛みが起きる前から体が反応してしまうような状況が生まれて、かえって効果的ではないと考えている人もいます。次の女性は痛みがあっても充実感や満足感を得られる方法を探っていくことの方が大事だと話しています。
2018年7月公開
認定 NPO 法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」では、一緒に活動をしてくださる方
寄付という形で活動をご支援くださる方を常時大募集しています。

医師に聞いた「痛みを邪魔にしない」「痛みから逃げない」「生き生き」「明るい生活」という4つのモットーを冷蔵庫に貼って自分の目標にしている
完全に痛みが無くなったら嬉しいがそれをゴールとするのではなく、どこかで折り合いをつけて、痛みがあっても生活を楽しめるようにしていきたい
「治らなきゃ何もできない」と考えたら人生は絶望的だが、痛い中で何かができるかを考えられたら、今のつらさが半分になってきっと楽だと思う
痛みがあっても何かできたというのがないと何もない人生になってしまう。翌日具合が悪くなるリスクがあっても、自分ができる小さなことを最大限にやろうと思っている
「痛い」と常に言っているのではなく、「痛い」と言うのを休憩させて、小さなことでも楽しいことに挑戦してみることで、痛みを少しずつ減らす方法を自分で見つけていく
授業や外出中に急に刺さるように痛んで家に帰らねばならないこともあるが、そんな時は別な日に行ければいいと思う。一瞬にとらわれてすべてが終わりと思わないようにしている
痛みで生活や人生のコントロールができなくなる感じがあるが、痛みをバロメーターにして生活やメンタル面のコントロールが付くようになり、敗北感から少し這い上がった
最初はこの痛みは一生取れないのかと思って焦ったが、次第に自分で何とかして10の痛みを0にするのではなく8にしようという方向に考えが変わり、整体の勉強も始めた
毎日、朝昼晩と痛みの変化の記録をつけていると、逆に痛みから離れられなくなってしまうので、痛みがあってもどうすれば楽に過ごせるかを考えたほうがいい (音声のみ)
