代替療法・民間療法

今回「慢性の痛み」の体験について語ってくださった人たちの多くが、東洋医学や伝統医学、または民間療法と呼ばれるもの(健康食品やサプリメントを含む)を試していました。これらは「西洋近代医学を基本とした通常医療の代わりに用いられる医療」として、「代替療法」とも呼ばれます。

慢性疼痛治療ガイドライン」でも、いわゆる西洋医学の薬物療法や神経ブロックなどの治療だけでなく、漢方薬や気功、太極拳、ヨガ、マッサージの効果についての言及があります。いずれもエビデンス(科学的根拠)*が十分ではないとして、「弱い推奨」に留まっていますが、それでも一定の有用性を認めているのは、慢性の痛みには従来の西洋医学の枠組みでは対応しきれない部分があり、多面的なアプローチが必要とされるからでしょう。

ここではこうした西洋近代医学に属さない医療を選ぶに至った経緯、考えや思い、試みた結果に対する認識、効用と限界などについての語りをご紹介します。

*慢性疼痛に対する補完代替療法のエビデンス(科学的根拠)については、厚生労働省の「統合医療」情報発信サイトに米国補完統合衛生センターの情報の翻訳が掲載されていますので、そちらをご参照ください。

わらをもつかむ思いで

代替療法や民間療法を試したと話す人たちの中には、西洋医学的な検査をいくら重ねてもなかなか診断がつかなかったり、診断がついても西洋医学の枠組みの中では痛みを緩和する決定的な治療法がなかったりして、わらをもつかむ思いで代替医療や民間療法に望みをかけたという人たちがいます。

複数の医療機関を受診しても診断がつかず、硬膜外ブロックをやっても効かなかったという癒着性くも膜下炎の女性は、わらをもつかむ思いでいろいろな代替療法・民間療法を試したと話しています。後縦靭帯骨化症という難病を患っている女性も、当初は治らない難病だとは思わず、いつかは効いてくると信じてテレビ通販の漢方薬を飲み続けていました。この二人の女性に共通しているのは、当初は効果が出なくても、いつかは治ると信じてこれらの治療を続けていたものの、次第に自分の痛みを「慢性の痛み」として受け止めるようになる中で、代替療法から離れて行ったということです(「痛みの慢性化」をどう受け止めるか」というトピックの「痛みのある自分を受け止める」の項もご参照ください。)。

西洋近代医学に限界を感じて

中には、大学病院の医師に西洋医学では限界があるので、代替療法を試してみるように勧められた脊椎関節炎の男性もいました。この人は、色々調べる中で巡り合った「徒手治療」を試してみたところ、不思議と痛みが消え、痛み止めもほとんど飲まなくなったと話しています。

原因不明の激しい腹痛や全身の関節の痛みなどを訴えていた女性は、西洋医学に伝統的な自然療法を取り入れている病院を見つけて、アロマセラピーやホメオパシー、アーユルヴェーダ、ゲルソン療法、爪の際に針を刺して瀉血をする「井穴刺絡(せいけつしらく)」という治療など、実にありとあらゆる治療法に挑戦しました。それでも痛みから解放されず、ついに医師から「自分で自分に合う対症療法を探しなさい」とさじを投げられてしまったのを機に、西洋医学の併用をやめ、完全に民間療法に絞ったところ、次第に症状が落ち着いたと話しています。

身近な医療としての代替療法・民間療法

代替療法や民間療法を選んだ人の中には、もともと接骨院や鍼灸院などの伝統的な療術になじみを感じていた人もいます。厚生労働省の研究班が行った調査(平成22年度厚生労働科学研究「筋骨格系の慢性疼痛に係わる調査研究」研究代表者・戸山芳昭)では、腰痛や肩こりなどの運動器慢性疼痛については、整体、接骨院、鍼灸などの民間療法を受ける人の割合(20%)が、整形外科などの医療機関を受診する人の割合(19%)とほぼ同率であるという結果が出ています。

私たちのインタビューでも、腰痛に悩んでいた次の男性は、当初整形外科に2-3回通院したものの一向に良くなる気がせず、知り合いに勧められてかかった鍼(はり)治療のほうが即効性があっていいと思ったと話しています。

肩・腰・首を中心とした全身の痛みに苦しんでいた女性は、子供の頃から肩こりで鍼灸や整体にかかっていて民間療法を身近に感じていましたが、そうした療法で神経ブロックを必要とするほどの激しい痛みが治るかどうかは半信半疑だったそうです。しかし、薬や注射に依存する生活から脱したいという気持ちから、家族から紹介された、からだの左右のバランスを整えるという治療法を試してみて、一定の効果が感じられたと話しています。

西洋医学と代替療法を併用する

代替療法や民間療法を続けている人の中には、それらを西洋医学にとって代わるものとして選ぶのではなく、西洋医学の医療機関にもかかりつつ、代替療法・民間療法の施術も受ける、という人もいます。そこには西洋医学とは違った角度から痛みにアプローチしていこう――特に患部だけでなく全身に働きかけるようなアプローチで、複雑な症状に対応していこう――という考え方があるようです。

次の女性は、過去に片頭痛の急性期の薬に依存していたことがあるため(「薬物療法2:薬とのつきあい方」の「薬の過剰摂取と依存」を参照)、痛みの程度によっては薬を飲まないでマッサージで我慢する、頭痛だけでなく全身の症状に合わせて調合してもらえる漢方薬を使うなど、複数の治療法を使い分けています。

漢方や鍼灸などの東洋医学の療法を併用している人たちからよく聞かれたのが、直接患部に働きかけるのではなく、全身の血の巡りをよくして冷えを取ることで痛みを緩和する、という考え方です。三叉神経痛を抱えていた女性は西洋薬の服用も続けていましたが、鍼治療によって血の巡りを良くすることで、痛みの閾値(痛みを感じる最小限の刺激の量)に変化が起きて、痛みを感じにくくなったのではないかと話しています。

上記の女性は西洋医学を学んだ薬剤師ですが、同様に西洋医学の訓練を受けて看護師として働いていた別の女性も、東洋医学的アプローチの有用性を認めています。彼女は腰痛のため2回の手術を受けたあとしばらく仕事から離れていた間に整体師の資格を取り、自分の体の中心バランスと痛みの関係に気づいたと話しています。看護師の仕事に復帰してからも、完全に動けなくなる前に、整体師仲間や自分の影響で整体師の資格を取った母親に筋肉をほぐしてもらうようにしていて、以前に比べて痛みから遠ざかっているそうです。

自分で実践することの効用

専門家による治療や指導を受ける中で、自分でも実践できる民間療法を習得した人たちもいます。治療者に頼らずに、自分のからだや生活のコントロールを取り戻すことができるようになると、痛みと付き合っていくうえでの自信につながります。
先ほど紹介したからだのバランスを整えるという運動療法を受けていた女性は、自分専用の体操を教えてもらい、それを家でやることでストレスに強いからだになったと語っています。同様にエネルギー療法(気功)を受けているという女性も、自己治療の方法を身につけて、それを毎日繰り返すことで、アルバイトを始められるくらいまで回復したと言います。

また、何回も怪我を繰り返すうちに線維筋痛症を発症した男性は、「笑いヨガ」の研修を受けて、患者同士の交流会で実践したり、自宅でも笑いを絶やさないように努力していると話しています。

自分の生活を見つめ直すきっかけに

インタビューでは瞑想やヨガについて言及している人もいました。心と体が深くつながっていると考えるこれらの治療法は、痛みの軽減に劇的効果をもたらすというより、痛みをストレスと関連付けて自分の生活を見直すきっかけになるという点で評価されているようでした。

懐疑的なまなざし

中には初めから代替療法や民間療法に懐疑的な人もいます。もともと東洋医学を信じていなかったという次の女性は、CRPSで痛む手に鍼を刺すなんて考えられない、と思ったそうですが、左右対称の手のツボに鍼を打つと聞き、試してはみたものの、効果が感じられずに辞めてしまったそうです。

次の女性は、妹が外陰部の痛みに苦しむ母を「ハンドパワー」による民間療法に連れていったことにショックを受けたと話していました。母はわらにもすがる思いで受けに行ったのに、効き目がないのでやめたいと伝えても、思いやりの感じられない対応をされたことで、「騙されたのではないか」という思いが残ってしまったそうです。

自由診療による経済的負担

わらをもつかむ思いで、はっきりした効果がなくても治療を受けている人にとって、最も大きなネックになるのは費用です。代替療法・民間療法には、鍼灸やあんま・マッサージ、ほねつぎなどのように施術に国家資格を必要とするものと、アロマセラピーやホメオパシーなど民間の資格を有する専門家が行うものがあり、さらにはサプリメントや健康食品など患者が自分で購入して服用するようなものもあります。国家資格を要する施術については一部保険診療が認められているものもありますが、多くの場合は自由診療となり、通院頻度や期間によってはかなりの経済的負担となります。中には治療のために持ち家を売らなくてはならなくなったと話している人もいて、一定の効果を感じていた人もお金が続かなくなってやめてしまうことが多いようでした。

2018年12月公開