薬物療法2:さまざまな薬とのつきあい方

慢性の痛みを持つ人たちは、痛みを抑える薬以外にも、副作用を抑える薬や睡眠導入剤、さらに痛みの元になっている疾患を治療するための薬(たとえば関節リウマチの診断を受けているインタビュー11の女性は抗リウマチ薬を、子宮内膜症と診断されたインタビュー31の女性は低用量ピルを、家族性地中海熱と診断されたインタビュー40の女性はコルヒチンを服用していました)など、複数の薬を使用することが多くなっています。インタビューでは薬の用量や組み合わせを試行錯誤しながら、痛みを抑えて日常生活を送る方法を模索する人々の姿が見えてきました。ここではさまざまな薬とのつきあい方についてまとめました。

効果と副作用のバランスを考えて薬を選ぶ

薬を服用するときは、効果と同時に副作用を考えなくてはなりません。次の女性は、線維筋痛症の痛みにはトラムセット、筋肉のけいれんには筋弛緩剤、さらに頭痛にはロキソニンなど、その時々の症状に合わせた薬の組み合わせにたどり着きました。現在の薬にたどり着くまでは、体重の増加、筋肉の硬直や震え、頭の中にもやがかかったような状態、目まい、頭痛など、多様な副作用に悩まされたと言います。

三叉神経痛の痛みに苦しんでいた女性は、テグレトール(一般名:カルバマゼピン)という薬を飲んでいましたが、痛みが強くなり、テグレトールだけでは痛みが抑えられなくなりました。リリカ(一般名:プレガバリン)やトラマドールも試しましたが、副作用が強くて期待した効果が得られなかったため、薬でコントロールすることを諦め、手術療法を選択しました。効果と副作用を天秤にかけて、医師と相談しながら治療法を選んでいくことが必要だと話しています。

薬の過剰摂取と依存

インタビューの中では、薬の過剰摂取(飲みすぎ)や薬に対する依存について語った人たちもいました。次の女性は、痛み止めのほか、ハルシオン(一般名:トリアゾラム)というベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤をため込んで、痛みの強い時にまとめ飲みをしていた時期がありました。ベンゾジアゼピン系の薬は乱用の危険が高い向精神薬として、「麻薬および向精神薬取締法」で管理されている薬です。その後、女性は医師のアドバイスを受け、作用機序の異なる3種類の痛み止めを組み合わせて飲むようにしたそうです。

際限のない痛みとの闘いの中で、いつとはなしに薬の服用回数と量が増えて行くと、薬物依存になる危険があります。薬が切れると不快な離脱症状が出てくる身体的依存だけでなく、欲しいという欲求が我慢できなくなる精神的依存もあります。そのような依存が生じると、薬を減らしたり、やめたりすることは容易ではありません。薬の選択肢があまりなかった時代に、慢性の痛みを抑えるために使っていたバルビツール酸系*の薬を、病院の都合で突然出してもらえなくなり、離脱症状で大変苦しい思いをしたと話していた人もいました。*バルビツール酸系の薬は、鎮静薬、静脈麻酔薬、抗てんかん薬などとして中枢神経抑制作用を持つ向精神薬の一群で依存性が高く、現在では痛みの治療に使われることはほとんどありません。

慢性疼痛治療薬ではありませんが、片頭痛発作時に使用するトリプタン系薬でも、医師の説明不足や患者側の勘違いで、過剰摂取から中毒のような状態に陥っていた人がいました。片頭痛の急性期治療薬、ゾーミッグ(一般名:ゾルミトリプタン)がとても効いたという女性は、仕事に穴を空けたくなくて、本来予防薬ではないこの薬を予防的に飲むようになり、過剰摂取して中毒を起こしてしまいました。

薬による痛みの抑制をあきらめる

薬の効果と副作用とのバランスを考えながら治療を続けていく人がいる一方、どの薬を試しても全く効果が感じられないという人もいます。後縦靭帯骨化症と診断された女性は、ロキソニン、リリカ、セレコックス(一般名:セレコキシブ)、ソセゴン(一般名:ペンタゾシン)などの痛み止めを処方されていましたが、どれも全く効果がなく、かなり早いうちに痛み止めを飲むのをやめてしまったと言います。

この女性は4回の手術を経てようやく痛みが軽減されたそうです。他にも先に紹介した三叉神経痛の女性(インタビュー03)や子宮筋腫を患っていた女性(インタビュー31)のように手術という選択肢がある人もいます。さらに手術以外の治療として、理学療法や心理療法を選ぶ人もいました。慢性疲労症候群と診断された女性は、精神科に通って1日30錠もの薬を飲んでも痛みが治まらず、長い間ペインクリニックで星状神経節ブロックを受けてしのいでいましたが、家族が紹介してくれた民間療法で痛みが改善したと話していました。

左足の付け根から足の裏にかけて広がる原因不明の痛みに苦しむ女性も、どんな薬も効かなかった痛みがある種の心理療法によって改善され、現在は睡眠導入剤だけを服用していると言います。

次の女性はどんな薬もブロック療法も効かない激しい腰痛に苦しみ、医師から「年単位でしかよくならない」と言われて、「痛い自分を受け入れるしかない」と考えるようになりました。そして今は睡眠導入剤以外、痛みに対する処方は受けていないと話しています。

2018年7月公開

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