薬物療法1:痛みの慢性化の経過と薬の種類

慢性の痛みの治療薬は大きくは「鎮痛薬」と「鎮痛補助薬」の2つに分けることができます。「鎮痛薬」は痛み物質を抑えたり、痛みを感じる神経を抑えたりすることで痛みを治す薬で、非ステロイド性消炎鎮痛薬(しばしばNSAIDsと略されます)とアセトアミノフェンを含む非オピオイド系鎮痛薬とオピオイド系鎮痛薬の2つに分類されます。「鎮痛補助薬」には抗うつ薬や抗てんかん薬と呼ばれる薬が含まれていますが、うつ病やてんかんを治すわけではなく、「鎮痛薬」と組み合わせることで痛みを抑える効果が得られる薬です。インタビューでは多くの人が、痛みの初期段階から慢性期に至るまでに、その時々の症状に応じて異なるタイプの鎮痛薬や鎮痛補助薬を経験していました。以下では、痛みが慢性化する経過の中で、痛みに対して用いられるこれらの薬についての体験談をご紹介します。

非ステロイド性消炎鎮痛薬を使う

インタビューに答えた方々の多くが、最初は非ステロイド性消炎鎮痛薬で痛みを抑えていますが、次第にそれでは痛みが治まらなくなって、より強い鎮痛薬や痛みの性質に合わせた鎮痛補助薬を処方されるという道筋を通っていました。その典型的な例ともいえるのが、次の女性です。頭痛が始まってからしばらくは市販の飲み薬や貼り薬を使って様子を見ていましたが、なかなか痛みが治まらないため、医療機関を受診して、ロキソニン(一般名:ロキソプロフェンナトリウム水和物)という非ステロイド性消炎鎮痛剤を飲み始めました。しかし、当初はとてもよく効いた処方薬も次第に効かなくなっていったと言います。

厚生労働省の研究班が作った「慢性疼痛治療ガイドライン」によると、ロキソニンやボルタレン(一般名:ジクロフェナクナトリウム)などの非ステロイド性消炎鎮痛剤は、運動器疼痛については「使用すること」が「強く推奨」されていますが、頭痛・口腔顔面痛については「使用すること」が「弱く推奨(*)」されています。上記の女性も初めは非ステロイド性消炎鎮痛剤で改善が得られたのですが、その後痛みが悪化して、片頭痛の治療薬の処方を受けるようになります。
* 診療ガイドラインにおける推奨度の強弱については「Minds診療ガイドライン作成の手引き2017」をご参照ください。

腰の痛みが続き、椎間板ヘルニアと診断された女性は、最初は低用量のボルタレンという非ステロイド性消炎鎮痛薬で痛みを抑えていましたが、次第に痛みが慢性化し薬の量が増えていき、やむなく手術を選択しました。

「慢性疼痛治療ガイドライン」では、非ステロイド性消炎鎮痛剤は神経障害性疼痛や線維筋痛症には「使用しないこと」を「弱く推奨」する、つまり、どちらかと言えば使わないほうがいい薬とされています。神経障害性疼痛の1つである開胸術後疼痛症候群と診断されている女性は、ペインクリニックの医師から非ステロイド性消炎鎮痛剤はこの女性の痛みには効かないと説明されたので飲んでいないと話していました。

鎮痛補助薬を使う

痛みが出始めてから線維筋痛症と診断されるまで5年以上かかったという男性は、診断がつくまではどこに行っても痛み止めや湿布薬を出されるだけでしたが、線維筋痛症という診断がついた後は、リリカ(一般名:プレガバリン)という抗てんかん薬と睡眠導入剤が出されるようになりました。

線維筋痛症や神経障害性疼痛に対しては、NSAIDsの効果はあまり期待できません。プレガバリンは神経伝達物質(痛みに関係する物質、いわば痛みの信号)の過剰な放出を抑制して痛みを抑える薬で、神経障害性疼痛と線維筋痛症の疼痛の治療薬として保険適応があります。

神経障害性疼痛の一種である複合性局所疼痛症候群(CRPS)で苦しんだ次の女性は、ロキソニンではなく、リリカ、ノイロトロピン(一般名:ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤)、トリプタノール(一般名:アミトリプチリン塩酸塩)や漢方薬を組み合わせて、痛みをコントロールしていると話しています。

薬の効き方は、病気の種類によっても変わりますし、個人差もあります。例えば、インタビューで多くの人が言及していたリリカについていうと、上記のCPRSの女性は「とても救われた」と言い、先の線維筋痛症の男性は痛みを「鈍くする」薬と言っています。しかし、同じ線維筋痛症の診断を受け、リリカを処方されたという次の女性は、最大量を飲んでも「全く効かなかった」と話しています。

リリカが効かなかったこの女性は、何とかしたいと自分で海外の文献を調べて、ノイロトロピンや麻薬指定されていない弱オピオイドのトラマール(一般名:トラマドール塩酸塩)を処方してもらえるよう主治医に働きかけ、その後は筋弛緩薬などと組み合わせて、仕事をしながら大学にも通えるほどに痛みのコントロールが図れるようになっていました。

麻薬に指定されていないオピオイド系鎮痛薬(弱オピオイド)を使う

この女性が内服したトラマドールは「慢性疼痛治療ガイドライン」では神経障害性疼痛に使用することが「強く推奨」、線維筋痛症に対しては「弱く推奨」されています。

シェーグレン症候群の診断がつくまで5年近くかかった女性は、診断後まもなくリリカが処方されるようになり、その後医師に頼んでトラムセット(一般名:トラマドールとアセトアミノフェンの合剤)を出してもらうようになりました。

先に紹介した腰痛で手術を選択した女性は、術後も痛みが解消せずに慢性化してしまいました。こうした慢性腰痛にもやはり鎮痛補助薬や弱オピオイドが用いられていました。

子どもの頃から痛みに悩まされてきた次の女性は、32歳で線維筋痛症と診断されました。多量のステロイド(副腎皮質ホルモン)投与時は劇的に改善しましたが、ステロイドを減らしていくとまた痛みがもとに戻ってしまいました。ペンタジン(一般名:ペンタゾシン)という薬の注射が一時的に効きましたが、吐き気が出てきてやめざるを得なかったそうです。なお、ペンタゾシンは効果の持続時間が短いため、今では慢性疼痛治療には使われなくなっています(ペンタジンは2017年に販売中止になりました)。

医療用麻薬に指定された薬を使う

非ステロイド性消炎鎮痛薬や鎮痛補助薬、弱オピオイドなどで痛みのコントロールができないとき、モルヒネなどの医療用麻薬(強オピオイド)が使われることもあります。医療用麻薬は乱用されれば重大な危害をもたらすおそれがあることから、その使用や管理が法令によって厳しく規制されています。がんの緩和ケア領域では多様な医療用麻薬の使用が推進されていますが、がん以外の慢性疼痛で保険適応がある医療用麻薬は、コデイン、モルヒネ塩酸塩、フェンタニル貼付剤だけです。「慢性疼痛治療ガイドライン」では、神経障害性疼痛に使用することを「弱く推奨」していますが、頭痛や口腔顔面痛、線維筋痛症には「使用しない」ことが推奨されています。

私たちのインタビューでも医療用麻薬を使用している人が複数いましたが、強い薬ということで副作用や薬物依存への不安から当初は使用をためらったという人もいました。椎間板ヘルニアの手術後に腰椎癒着性クモ膜炎で歩けなくなった女性は、モルヒネを服用するようになってもう10年以上になります。様々な鎮痛薬やブロック治療を受けても痛みが抑えられず、医師から「もうモルヒネしかない」と言われてもなかなか踏み切れず、最初はより弱いタイプのオピオイドであるコデインを試しましたが、それも効かなくてモルヒネの使用に踏み切ったと言います。

2度の交通事故後に慢性化した腰痛や首の痛みを抱える女性は麻薬指定されていない鎮痛薬の最高量を飲んでも痛みが抑えられなくなり、モルヒネから始めてフェンタニルの貼付薬を使うようになりました。ただ、この女性は乳がんも経験していて、がんに関する講演会などで医療用麻薬について正しい情報を得ていたので、医師からの提案をすんなりと受け入れることができたと言います。そうはいいつつも、まだ30代の若さで医療用麻薬を使っていることが将来の結婚や出産にどう影響するのか、不安も抱えていました。

強オピオイドの主な副作用として便秘、眠気、悪心(吐き気)、嘔吐があります。吐き気を抑える薬や下剤などを併用して、副作用をコントロールすることで長期間飲み続けることができる人もいます。しかし、脳幹部不全損傷という診断を受けている次の男性は、医療用麻薬を使うようになって、味覚異常と吐き気で食事が取れなくなり、2年間も経腸栄養剤しか口にしていないと言います。ひどい便秘で腸閉塞になりかけたこともあるという男性は、このような状態から脱したいが、他に薬の選択肢がないと話しています。

さらに医療用麻薬に対する医療者、医療機関の方針や考え方の違いに戸惑い、苦労する患者さんもいます。10年以上モルヒネを使っているという女性は担当医が代わり、処方量が減量となったため、痛みとしびれが増悪して動けなくなったと話しています。この女性は自分が必要とする量を出してくれる医療機関を探して駆け込んだと話しています。

医療用麻薬の副作用で2年間も食事を取っていないという男性は、医療用麻薬は副作用も強力なので、その対策についても相談したいが、医療用麻薬に詳しいであろう緩和ケア病棟のある病院を訪ねても非がん性疼痛の患者は診てもらえないと話し、がんではない慢性の痛みで医療用麻薬を使っている患者が相談できる専門医療機関がないことを嘆いていました。

2018年7月公開