費用に関すること

臨床試験・治験への参加は「ボランティアを基本とする」とよく言われます。ここでいう「ボランティア」とは「対価を期待せず、自発的に他の人のために行動する」ことを指しています。しかし、ボランティアとしての臨床試験・治験であっても、全く無償というわけではなく、臨床試験・治験に関わる医療費の軽減や実施側から被験者に対するお金の支払いといった金銭的メリットがあることがあります。一方で、臨床試験・治験の種類によっては、患者の医療費負担が通常の保険診療より大きくなるものもあります。ここでは、そうした臨床試験・治験への参加にともなう金銭的な側面についての体験談を紹介します。

治験に伴う治療費の負担

臨床試験の中でも治験は、未承認の薬や医療機器の効果や安全性を調べることを目的とした研究です。通常の治療とは違って、保険承認されていない薬などを使いますし、プラセボ(有効成分の入っていない薬)を用いることもあります。そのため、医療費の支払いは、通常の保険診療の枠組みとは異なるものとなります。通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)については、一般の保険診療と同様に扱われ、患者が一部負担金を支払うことになりますが、治験に関連する薬や検査などの費用は、原則としてその薬や機器を開発している企業が負担します。(治験に伴う医療費の仕組みの詳細については別項を参照してください。)

皮膚の病気で高価な生物学的製剤の治験に参加した人は、無料だということにかえって不安を感じたと話しています。同様に、費用は全額保険適応になると聞き、自己負担があることでむしろ安心したという人もいます。また、薬の値段を想像して、被験者が担っている責任や緊張感を感じたと話している人もいました。

一方、次の人は、糖尿病を患っていていろいろな薬を出されて薬代が気になっていたところ、主治医から治験に参加することで「薬代が安くなる」といわれ、一度は参加しようと思いました。その後忙しくなって実際には参加しませんでしたが、改めて振り返ってみると、治療と治験はまったく別なので、治療費の軽減を参加の動機付けにするのは問題ではないかと話しています。

しかし、中には、経済的なゆとりがなく、医療費に十分なお金が回せないので、治験に参加することで費用を負担することなく関連する薬や検査が受けられて助かったという人もいました。この男性は肝臓がんの治療薬の治験に参加していましたが、再発して治験の中止とともに医療費免除も打ち切られたのが残念だったと語っています。他にも治験終了後に薬が保険適応になっても、高価な薬なので経済的な負担が大きく、高額療養費制度に救われている、と話す人たちがいました。

治験以外の臨床試験に伴う治療費の負担

企業が承認申請のために実施する治験以外にも、未承認の薬や医療機器を使ったり、それまでに承認されていたのとは異なる使い方をしたりする臨床試験(医師主導治験や有償治験も含まれます)がありますが、その臨床試験がどのような枠組みで行われているのかによって、患者が負担する金額はまちまちです。治験のように保険診療との併用が認められているものとそうでないものがあり、保険診療外の医療費をどこまで試験を実施する側が負担するかも、臨床試験ごとに異なります。中には、保険でカバーされていない部分の医療費がかなり高額になる臨床試験もあります。

私たちのインタビューでは、通常の治療よりも費用がかかる臨床試験に参加していたのは、主にがんの患者さんたちで、お金を払ってでも新しい治療に挑戦して、病気を治したいという切実な思いがあることがうかがえました。中には、期待した効果が得られなかったので、自ら参加を中止するという判断をした人もいました。

被験者に対するお金の支払いについて

治験に参加すると、通常の治療より頻繁に通院しなくてはならなかったり、検査が増えて身体的・精神的な負担が生じたりすることから、そうした負担を軽減する目的で、金銭の支払いがあります(これを負担軽減費と呼ぶこともあります)。負担軽減費の金額は1回の通院で7,000円~10,000円、入院では1泊10,000~20、000円程度で、お金で参加を誘導するようなことにならないように、社会的常識の範囲内で設定されています。

こうした金銭の支払いについて、想定外で驚いたという人もいれば、ちょっとしたお小遣いのように受け止めた人もいました。その一方で、臨床試験・治験を受けるために自宅から遠い病院まで通院していた人は、交通費の足しにはなっても、それだけでは赤字だったと話していました。

一方、お金を受け取った以上は被験者として定められたことをきちんとこなして、臨床試験・治験の結果がどうなったかなど、立ち入ったことを聞いてはいけないのだろうと思っていた人もいました(「臨床試験・治験の結果を知る」のインタビュー02さんの語りも参照)。しかし、臨床試験・治験に参加する人がお金を受け取ったからといって、その人の本来の患者としての権利が損なわれることはありません。患者として自分の気持ちや希望を医療従事者に伝えることができることは、通常の診療の場合とまったく同じです。

こうしたお金の支払いについては、いただけるものはありがたくいただくが、やはりそれを目的として参加するのは望ましい形ではなく、人の役に立ちたいという精神が基本だろうと話す人もいました。

臨床試験・治験では、有効性・安全性が十分に確立していない治療や検査を行うわけですから、本人の自発的意志による参加が条件であり、そこに義務・強制などの圧力が加わってはなりません。「お金を受け取った以上は立ち入ったことを聞いてはいけない」と思ってしまった人もいるように、金銭的な見返りも大きな圧力になる場合があります。経済的に恵まれない発展途上国で参加者を募ることが問題視されるのは、こうした経済的圧力が介入する可能性もあるからです。治験参加者への金銭の支払いは、あくまでも「報酬」ではなく、試験の意義を理解し、自らの意志で時間を割いて交通費を使って参加してくれたことに対する謝礼なのです。

2016年11月公開