参加した理由

本人の利益のためだけに行われる「治療」とは異なり、「臨床試験・治験」はまだ確立されていない薬・機器・治療法を試すことで、「将来の患者」に役立つ治療を確立するために行われています。もちろん結果的にそれがその人に効いて、本人の利益につながる場合もありますが、逆に予測していなかったような副作用が起きる場合もあります。つまり、臨床試験・治験は本来、本人ではなく「他者」の利益のために行われるものですが、実際に体験された方々はどのような思いで参加されたのでしょうか。

他の人の役に立ちたい

「自身の患者会活動に役立てるため」や「病院に世話になっているから」といった、他者の利益のために参加を決めた人たちがいました。

次の人は、患者会の役員になったこととあわせて、自分自身の病状が落ち着いていたことから治験に参加することを決めたと話しています。

上記の方々のように、自身がかかわっている患者会とか、かかりつけの病院といった、役に立ちたい相手を具体的にイメージしている人ばかりでなく、もっと漠然と「誰かの役に立てれば」という思いで参加したと話している人もいます。

C型肝炎を患って、これまでにいろいろな薬の恩恵を受けてきた女性は、誰かが治験をやったからそれらの薬を使えたのだから、自分も役に立ちたいと思って参加を決めたと話しています。

自分にとっての利益も考えて

「他の人の役に立ちたい」という理由で臨床試験・治験に参加する人ばかりではありません。自分にとっての利益も考えて参加を決めた人もいらっしゃいました。

次の人は、ヘルニアの手術の際の麻酔薬の治験に参加しましたが、手術自体も初めての経験だったので、治験に参加することで個室に入ることができるという点に利益を見出していたようです。

次の人は主治医から「治験に参加すれば薬代が浮く」といわれて、参加を決めたと話しています。しかし、新薬の治験に入る場合は、効果や副作用について未知の要素があるので、本当の意味では「治療」ではありません。そういう意味では「治療費が浮く」ことにはならないのですが、確かに医療費支出は減るので、そのことが参加の動機付けになる場合もあります(「費用に関すること」のインタビュー08を参照)。

このように「個室に入れる」「治療費が浮く」といった、いわば「実質的な利益」が参加を決める大きな要因となった人がいる一方、「一種の賭け」として、臨床試験・治験に参加する人もいます。

次のおふたりの語りからは、既存の治療法ではなかなか良くならない症状が改善されることを期待して、「藁をもすがる思い」で臨床試験・治験に参加したことがわかります。研究に参加することは社会的意義がある、人の役に立つ、そういったことだけを意識していられない病状の場合、それが「新しい治療」となることを期待して臨床試験・治験に参加する人もいるのです。

他人のためか自分のためかというのは二者択一ではなく、その両方に言及する人も少なくありません。この慢性の痛みに苦しんできた女性は、自分自身の病状が改善することを期待するのと同時に、海外では承認されて使われている薬が日本ではなかなか承認されないことを気にかけ、それの解決につながればいいとも考えていました。

次の人は自身の仕事が臨床研究コーディネーター(CRC:Clinical research coordinator)で、普段自分が被験者に治験の説明をしている立場でした。ご自身が治験対象の病気にかかり、客観的な立場にたってみることで今後の仕事につなげようとしていました。

2016年11月公開