臨床試験・治験に参加すると、それまで診てもらっていた主治医のもとを離れ、臨床試験実施している医療機関で専門の医師の診察を受けることになる場合があります。また、通常の診療ではあまり出会うことのない臨床研究コーディネーター・治験コーディネーター・臨床試験コーディネーター(CRC: Clinical research coordinator)などと呼ばれる職種–臨床試験・治験を裏方として支えてくれる人々との協力も必要になります。ここでは、こうした臨床試験・治験ならではの医療従事者とのかかわりについてご紹介します。
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CRCの役割
CRCは、臨床試験・治験に参加する被験者、臨床試験・治験を実施する医師、そして治験の場合はそれを依頼する製薬企業や医療機器メーカーという3者の間の調整を図りつつ、臨床試験・治験が円滑に行われ、データの科学的信頼性が損なわれないように支援すると同時に、試験中に被験者の安全や人権が侵されることのないように配慮するという、重要な役割も担っています。しかし、今回のインタビューでは、はっきりと「CRC」「臨床研究コーディネーター」などの呼称を用いて、その調整的役割に言及した人は少数でした。臨床試験・治験に参加しなければ、そういう職種が存在することすら知らず、実際に参加してみてはじめてCRCの存在を意識したという人もいました。
被験者となる患者に対するCRCの主な仕事は、治験に関する詳細な事前説明や、検査などの補助、服薬状況や副作用の把握、患者からの問合せへの対応、相談相手となって不安や精神的な負担を軽減することなどです。これらの仕事は単に被験者の数を増やしたり、臨床試験・治験をスムーズに進めたりするためのものではなく、患者が十分に説明を理解して自発的に参加できる環境を整え、参加中の安全を確保するとともに、科学的に信頼できるデータを得ることを目的としています。
参加中のCRCとのかかわり
CRCはそれぞれ担当被験者を持ちます。検査等のスケジュール管理などを行うので、期間中は基本的には同じCRCがつくようです。次の人は、通常の治療と比べて、いつも同じ人が自分に関わってくれることの安心感について語っています。また、CRCに疑問を問い合わせたり、病気のことを話したりする中で、治験薬の開発状況に関する情報を得ていた人もいました。
臨床試験・治験に参加している間、患者にとっては、CRCとだけでなく治験を担当する医師とのコミュニケーションもとても重要なものです。しかし、通常の治療場面でもよく言われるように、患者から医師への質問はなかなかしづらかったり、時間が十分になかったりします。そこで、患者はCRCを介して医師とコミュニケーションを取ることもあります。
しかし、誰もがCRCの対応に満足していたわけではなく、中には、CRCに医師とのコミュニケーションをサポートしてもらえなかった人もいました。
患者にとっては医師だけでなくCRCも自分の身体を預ける医療従事者であり、関わっていく上で不安要素があっては、臨床試験・治験に参加し続けることは難しくなります。通常の治療と同じように、被験者と治験を実施する医療従事者の間に信頼関係が構築されていなければなりません。
次の人は、治験への参加を内諾した後にCRCから詳細な説明を受けたところ、説明の仕方や質問への回答に不安を覚えたため、担当のCRCを変えてもらった経験を語ってくれました。
治験期間中にCRCと過ごす時間は長いため、患者とCRCはいろいろな話をします。実際に臨床試験・治験を進める手順に直結することだけではなく、趣味の話などをして互いの信頼関係を深めていくこともあったようです。次の人は、CRCや医師などとの趣味の話を通じて、自分ではできなくなったことをまるで経験しているかのように想像していたといいます。また、この人が参加していたのは医療機器の治験だったため、医療従事者に加えてメーカーの人とも交流があったそうです。
もちろん、CRCとじっくりと関係を結んだ人ばかりではなく、CRCがいたことは認識していても、ほとんど印象が残っていないという人もいます。次の人はCRCよりも担当の医師とコミュニケーションを密に取っていたことを語ってくれました。
臨床試験・治験を実施している施設は限られているので、それまで何らかの病気で治療を受けていた人が臨床試験・治験に参加する場合、それまでかかっていた医師のもとで臨床試験・治験を受けるとは限りません。新たな医療機関に移り、治験を担当する専門医の診察を受けることになる場合も多いですが、そこで通常の治療とは異なるかかわりを感じた人もいました。次の人は普段の外来に比べて医師とゆっくり話すことができたのがよかったと話しています。
2016年11月公開
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