就職活動における病気の開示・非開示
クローン病患者にとって就職の際に病気のことを開示するかしないか、また開示する場合にはどのように説明するかというのは大きな、そして悩ましい問題です。クローン病に限らず、持病があることが採用の際に不利に働くことはあり得ますが、逆に病気のことを伏せて就職した場合、症状が悪化した時に職場に配慮してもらうことが難しいという問題が生じます。私たちのインタビューでも、多くの人が就職時の開示・非開示の問題について語っていました。
病気のことを開示して就職活動をする
インタビューでは就職の際、病気があることを開示して採用されなかった体験について語っている人が複数いましたが、開示すると必ず採用されない、ということではなく、多くの方は開示しつつも採用にこぎつけていました。
病気のために月1回の通院が必要であることを伝えるとなかなか採用してもらえなかったという次の男性も、長く働くためには隠さない方がいいと話しています。
病気について先方に伝えて採用された経験を持つ人たちは、どのように伝えるかがポイントだと考えているようです。病気のことを説明するにしてもできないこと、マイナス面ばかりを話していた時はうまくいかなかったけれど、できること、メリットを熱意をもって説明したら採用されたという人がいました。
さらに主治医に「こういう形なら働ける」という診断書を書いてもらって採用されたという人がいました。自分で「働けます」というだけでなく、医師からの客観的な意見を得ることで、会社も安心して採用に踏み切れるのかもしれません。
さらに、仕事を選ぶ際に職場の環境や会社の方針に左右されがちな会社勤めは難しいと考え、病気があってもハンディにならないよう、公的な資格を取得したり、自分の身体、自分の都合に合わせて働ける自営業を目指したりする人がいました。
職種によっても病気が影響する職種と関係ない職種があるようで、次の方は大学を卒業した時に出版関係の会社を何社も受けたが、すべて不採用となったため、コンピューターの勉強をし直したそうです。その後応募したコンピューター関係の会社では病気のことは全く関係なく採用され、20数年経った今も病気を抱えながら仕事をしています。
病気を開示せずに就職した経験
クローン病であっても本人のそのときの体調や職場の環境から、通院・トイレ・仕事量など職場での健康管理の見通しが立てば、病気のことを開示しないまま採用されて、問題なく働き続けることもあります。
採用時には体調が安定していても、病気が悪化したときに、病気のことを開示していなかったために、会社側の理解を得るのが難しくなるケースもあります。病気であると伝えずに採用されたために無理をして病気が悪化し、自ら辞めざるを得なくなった、あるいはトイレに行く回数が多いことで病気であることがわかってしまうのではないか、という不安がストレスになって仕事を辞めたという方もいました。
どういう場合に病気を開示するべきなのかについても、考え方は人それぞれです。自分の体調に不安がある場合は話しておいた方がいいだろうが、長く寛解を維持している人がわざわざ話す必要はないだろうと話す人がいました。
病気が仕事に支障をきたすかどうかは、仕事の量や質と本人の体調のバランスに関係しています。そのため、学生時代に発症して仕事のことがわからないまま自分は働けないのではないかと決めてしまうのはもったいないことだと、次の方は話しています。さらに病気について就職先に伝えるかどうかについては、伝えることが採用に不利に働く場合があるとしても、伝えないで就職してもどこかでほころびが出る可能性があるので伝えたほうがいいと話しています。
障害者手帳を持って就職活動・就労をする
障害者雇用促進法(平成25年改正)において、45.5人以上の常用労働者を雇用する民間企業はその常用労働者数の2.2%の障害者を雇用する義務があります。(平成30年12月現在)そして未達の企業は不足1人につき月額4万円または5万円の納付金を納めなければならなりません。(企業規模により異なる)その他にも国の事業への入札資格停止や官報への企業名の公告などのペナルティーもあるので、企業としては障害者雇用に積極的に取り組んでいます。
クローン病では小腸機能障害(手術で小腸を切除して短くなっている場合や経管栄養を必要としている場合)と直腸機能障害(永久的人工肛門を造っている場合)などで身体障害者手帳を持っている方がいます。
クローン病の患者さんの中には障害者手帳を持っている方もいます。障害者手帳があると、障害者雇用制度を利用して就職することができますが、病気のことを開示し一般雇用枠で就職することもできます。ここでは障害者雇用制度をめぐる体験についてご紹介します。
障害者手帳を活用して特例子会社に就職したという方もいました。特例子会社制度は以下の解説をご覧ください。
事業主が障害者のための特別な配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、その子会社に雇用されている障害者を親会社や企業グループ全体で雇用されているものとして算定できる。このようにして設立、経営されている子会社が、特例子会社である。
2019年6月公開
認定 NPO 法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」では、一緒に活動をしてくださる方
寄付という形で活動をご支援くださる方を常時大募集しています。

病気を開示して就職しようとしたが、全て落とされ、やっと受かったところも非常勤だった。しかしその後、病気でも調整が利くということを強調すれば採用してもらえるところがあるとわかった
病気を告知して就職活動をしたが、なかなかうまくいかなかった。病気を開示しての就職活動は正直かなり厳しいと思うが、長く働きたかったら隠さずに就職活動したほうがいいと思う
最初は面接でも病気のマイナス面ばかりを無意識のうちに出してしまい、就職もうまくいかなかったが、病気は自分のステータスと割り切ってプラス面を出すようにしたら、就職もできた
保育園の就職面接では病気のことを詳しく聞かれて、自分も正直に答えた。子どもが好きで料理が好きだという大前提があったので、病気を乗り超えて採用されたと思っている
就職の最終面接では主治医にどういう仕事なら働けるかということを書いてもらって出すようにしている。そうすると自分で「働けます」というよりは信頼性があるので企業も安心できる
就職活動で最初は正直に病気を開示したが、どこも採用してくれなかったので、主治医に「炎症性の腸疾患があるけれど通常勤務に支障はない」というコメントを書いてもらって、採用に至った
サラリーマンになっても飛ばされたら終わりだとの思いがあって、また鑑定士の仕事にも興味があったし、不動産関係では最も上の資格だったので不動産鑑定士の資格を取った
寛解と再燃を繰り返しながら会社に勤めるというのは難しいと思い、自営業を始めるために資格を取ることにした
大学を卒業した時病気を開示して出版社を何社か受けたがどこも受からなかった。その後コンピューターの勉強をしてその業界に入ったが、そこでは病気は全く関係なかった(途中から音声のみ)
一旦寛解になってから務めた会社の採用面接の時は病気のことは話さなかった。勤務時間が夕方からだったので日中病院に行くことができたし、仕事の上でも問題なかった
学習塾なら午後からの勤務なので、通院もできるだろうと、病気のことは話さずに就職したが、そのデメリットもあった
就職の時は病気のことを言ったら不採用になると思って言わずに就職したので、トイレに行きづらくなって、そのことで周りの目が気になって仕事をやめてしまったこともある
就職する際に、自信をもって仕事ができるのであれば病気のことは言わなくてもいいが、不安がある人は話しておいた方がいい。ただし、10年間も寛解を維持している人が病気の話をする必要はない
面接の時に自分の病気を伝えるかどうかは難しい判断だが、伝えないで働いてもどこかでほころびが出ると思うので、伝えた方がいいと思う
専門学校を卒業してから障害者枠で家電メーカーの経理事務の仕事に就いた。その後東京で事務系の仕事をしていた
10年前に障害者雇用でベンチャー企業に就職して在宅で7年間勤務した。会社にはこちらができることを伝えて、会社のほうでそれに合った仕事を切り出してもらっている
