クローン病の患者さんの中には、人工肛門(ストーマ)を造っている人がいます。人工肛門とは手術によって造られた便の排泄の出口のことです。腸の端がおなかの表面に顔を出した状態になっていて、そこに便をためる袋を装着して排泄を管理します。人工肛門には大腸で造るものと小腸で造るものがあり、腸管を休めるためなどに造る一時的なストーマもあれば、肛門病変が悪化して自然排泄が困難な場合などに造る永久的ストーマもあります。
ストーマを造るのは治療上必要な場合が多いのですが、患者自らが生活の質を向上させるために望んで造る場合もあります。(ストーマに関する語りは「手術」のトピックにもありますので参照してください)
ストーマをつけて生活すること
ストーマをつけていると便意はなく、自然に便が袋(パウチ)にたまっていきますので、便意を我慢してトイレに駆け込むことはなくなりますが、一日に何度かトイレに行って便を捨てる必要があります。便をためる袋とそれを皮膚に貼り付ける板(面板)を合わせて「装具」と言いますが、この装具も定期的に交換することが必要になります。そうしたストーマの取り扱いについて、経験者に話していただきました。取り換えるタイミングや便を捨てる回数などは人によってかなり違うことがわかります。
一口に人工肛門といっても、腸のどの部分にストーマを造っているかによってたまる便の状態が違います。小腸にストーマを造っているの方は、腸の内容物から水分を吸収して便を作る大腸がありませんから、排泄物は液状になって常時出ている状態になるので、交換のタイミングが難しいと話しています。
人工肛門の中には一時的ストーマといって、腸の状態が良くなったら、再度腸管をつなぎ直して、自分の肛門から排泄できるようにするタイプのものもあります。一時的にストーマを造る際に用いられる方法に、双孔式ストーマというものがあり、腸管を切ったところの両方の端がお腹から出ています。経験者の方に説明していただきました(この方は病状が進行したため、再手術を受けて単孔式の永久的ストーマに造り直したそうです)。
ストーマのトラブル、問題点
装具による肌のかぶれや排泄物が漏れる失敗に加え、においや音など、ストーマにすることによるトラブルや抵抗感などは当然あります。特に女性の場合はボディーイメージが崩れるという悩みもあるようです。ストーマをめぐる様々な悩みの相談先としてストーマ専門のナース(ETナース、または皮膚・排泄ケア認定看護師)もいます。
男性でもストーマを他人に見られることには抵抗がある方もいますが、次の方はそれも次第に慣れて抵抗感は薄れてきたと話しています。
仕事中にストーマからおならのような音が出て恥ずかしい思いをした、という方もいました。
壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)や腸管皮膚ろうといった合併症がストーマの周りにできるとストーマの管理が一段と大変になります。(合併症については「クローン病の症状・合併症」のトピックも参照してください。)
ストーマにしてよかったこと、ストーマでもできること
ストーマにしたことでトイレに行く回数が減って日常生活の質(QOL)が改善したという方もいます。またスポーツなども問題なくできるというお話もたくさんありました。特に排便回数が多くて排便トラブルを抱えていた方にとって、ストーマの効果は絶大で、QOLは大幅に改善されたと言います。
ストーマになってからスキューバダイビングを始めた方もいます。
話しにくい話題でしたが、あえてストーマをしてからの性生活についてお聞きしました。その結果、最初は気になったが慣れてしまえば問題ないというお話でした。
ストーマを造るときの決断と複雑な思い
ストーマを造るというのはやはり大変な決断です。それが治療上どうしても必要だとしても、最終決断は本人がしなければなりません。ご本人の思いを伺ってみると、その過程や決断をした時の気持ちは複雑でも、最終的には納得して手術に臨んでいました。
人工肛門を造るという事は大変な決断ですが、次の男性はがんのリスクと人工肛門を秤にかけて悩んだ末、人工肛門の決断をしました。その時に背中を押したのは、人工肛門がすでに多くの人に造設され経験も蓄積されているという思いでした。
2019年6月公開
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