今回インタビューに協力していただいた方々は、ほとんどの方がクローン病を抱えながら働いている、あるいは働いた経験をお持ちの方です。発症してから就職した方も、在職中に発症した方もいますが、いずれにしても病気が就労に影響することは多々あります。病気のために入院したりして長期に休まざるを得ないこと、普段から定期的に通院しなければならないこと、職場や取引先との食事やお酒の席に参加しなければならないことなど、クローン病患者にとって様々なハードルがあります。このトピックではこれらの仕事上のハードルとどのように向き合ってきたか、それぞれの体験を紹介します。
組織の中で働く際の努力や工夫
組織の中で働いていると、通院や体調の悪化で仕事に支障が出た時、同僚にその分の負担が回ってしまったり、人事考課の際の評価に影響が出たりすることがあります。その分「調子がいい時には自分ができることを一生懸命やって貯金を作っておく」と話された方が複数いました。そうすれば体調を崩した時にその貯金が使える、ということで、そこに共通しているのは「病人扱いされたくない」「他の人と対等に仕事がしたい」という思いでした。
組織に属していると周囲の人に気を遣わなくてはならないというデメリットがある一方、自分が倒れた時でも誰かが代わりに穴埋めをしてくれるというメリットがあります。次の男性は医師として一人で訪問診療に従事していましたが、体調が悪化した時にバックアップ体制をとれるように組織で働くことを選びました。
欠勤のように仕事のパフォーマンスと直結することではありませんが、職場の懇親会や営業の接待などの場での飲食も多くのクローン病の患者さんが苦労されている問題です。そうした場に積極的に参加したいという方々は、事前にエレンタールを飲んでおく、食べられるものだけを選んで食べるといった工夫をしていました。
雇用者側の理解と職種に固有の就労条件
クローン病を持ちながら働いている人は、仕事を続けられるよう、様々な努力や工夫をしていますが、個人の力ではカバーしきれないこともあります。例えば、大手企業の子会社で働いていたという次の女性は、福利厚生は親会社と同じ水準だったため、発病した時の会社の対応はとてもよく、ありがたかったと話しています。会社の移転で通勤できなくなって辞めるまで、18年間勤務することができたそうです。
コンピューターのソフト業界というのは、成果さえ出せば就業時間や就業場所にはこだわらないという、特殊な業界ということもあるかもしれませんが、次の方は、配慮してほしいことは自分から会社に言ったほうがいいというお考えです。また、会社もそのほうがありがたいと思っているところもあると言います。
一方、次の男性は、病気になった途端有無を言わさずクビになったといいます。病気に対する理解が全くない雇用主もまだいるようです。
クローン病は内部疾患なので、外見だけではわかりづらい疾患の一つです。そのため職場の理解が得られず退職したという方がいます。しかし、ご自分でも「もっと自分から周囲に理解を求める行動が必要だった」という反省もされています。
一方、雇用者側の理解の問題だけでなく、仕事の性質上病気があると就労継続が難しいというケースもあります。次の方は焼き物のお仕事をされていて、トイレがネックになって仕事を諦めざるを得なかった方です。
自分に合った仕事を見つける
病いの様々な影響で組織の中で働き続けることは難しいと判断し、自営業を選択した人もいます。時間に縛られず自分のペースで仕事ができるメリットは大きいようですが、体調の良しあしが収入に直結してしまうという難しさもあるようです。
組織の一員として周囲の人と協力しあわねばならない役者の道を諦めて、一人でもできる朗読の仕事に転じた人もいました。ご自身はそのことで新たな道が開けたと感じています。
一方、組織の中で働く生活は続けつつも、仕事のハードさや時間的な自由度の高さを考慮して、より自分に合った仕事を求めて転職した人もいます。
次の方は、有給休暇をすべて通院のために使わなければならないという企業で働いていましたが、もともと研究職に関心があったこともあり、大学院で学びなおして、仕事の裁量度合いの高い大学教員の道を選びました。
看護師の仕事をしていて体調を崩し長期入院をした際に、自分の人生について考え、自分が本当にやりたいことをしようと大学院に進んだという方もいます。
2019年6月公開
認定 NPO 法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」では、一緒に活動をしてくださる方
寄付という形で活動をご支援くださる方を常時大募集しています。