認知症と診断された方々の多くは家で支援を受けながら生活していますが、施設に入所される方も少なくありません。認知症の方々が長期に利用できる主な施設には、①特別養護老人ホーム(症状が安定しており、常時介護が必要な要介護3以上の方を対象(特養と呼ばれる))、②介護老人保健施設(在宅生活への復帰に向けたリハビリを中心とする医療ケアと介護を行う短期入所施設(老健と呼ばれる))、③認知症高齢者グループホーム (少人数で共同生活をおくるホームで、介護を中心とした支援を行う)、④有料老人ホーム(住宅型や介護付きなど多様で、食事や生活サービスの提供を行う)⑤サービス付き高齢者向け住宅(賃貸契約の高齢者向けの住居で見守りや在宅のサービスを併せて利用できる)、⑥介護療養型病床(医療機関で長期にわたり、介護や医療のケアを行う(2024年度末廃止予定))、⑦介護医療院(長期的な医療ケアと介護を提供する医療機関(⑥の廃止後の移管先のひとつと言われている))、などがあり、主に介護保険制度が適用される施設です。
また、認知症が重い場合や内科疾患のケアが併せて必要な場合などは医療保険制度が適用される⑧精神科等の認知症専門病棟や⑨医療療養型病床があります。
①~⑧の施設については住所を置いて「終の棲家(ついのすみか)」として過ごせる施設から、数か月の短期利用の施設もあり、運営母体や施設の特徴、かかる費用も様々です。(参考ホームページ : 施設サービス、生活の場を自宅から移して利用するサービス )
今回、インタビューに協力した介護する人の中にも、認知症と診断された家族をしばらく家で介護したのち、上記のいずれかの施設に入所させることを決めた方々がいました。ここでは、施設入所を決めた理由、施設選び、入所するときの本人の様子、入所中の通い介護、今後に向けて入所を考える、といった家族の語りを紹介します。
施設入所を決めた理由
ほとんどの方々ができる限り家で看たいと思いつつも、在宅介護の限界を感じて施設入所を決めていました。徘徊や夜間の頻繁なトイレ介助、本人の安全を確保するには24時間片時も目を離せない、介護する人自身の健康問題といったことが理由として語られ、決断する時に、ケアマネージャーや主治医に相談したと話す人たちもいました。理由とともに踏み切れなかった思いや後悔の思いを語る人たちもいました。
また、介護を必要とする人が複数いて、どちらかを施設に入れる決断を迫られた人たちもいました。ある女性は義母と夫を、別の女性は両親を介護していました。両親を介護していた女性は、あるとき母親に手をあげてしまい、主治医に赤信号だと言われても、施設に預けるという決断になかなか踏み切れなかったそうです。
一方で、介護の負担が理由ではなかった人もいました。その男性は、一度は施設入所を決めたのですが、やはり1人は寂しいと妻を有料老人ホームから退所させたと語っていました。
ある高齢の認知症を患う女性は、娘の勧めにより娘の家のそばのサービス付き高齢者向け住宅に転居した理由について次のように語っています。
施設選び
施設選びは本人を連れて見学する、体験入所を利用するといった方法で実際に見て決める人がほとんどで、200人待ちと言われた人もいるようになかなか空きがないため、複数の施設に申し込む場合が少なくありませんでした。余裕を持って、いくつも回ってよいところを選んだ人もいましたが、何人かの人たちは、在宅介護の限界を感じ、差し迫った状況で入所を決めざるを得なかったため、十分吟味することができなかったといいます。一旦、入所したとしても、本人に合わない施設であったり、介護状況に不満を感じたり、方針や経済面など介護する家族の希望や条件に合わなかったりして、別の施設を探して移ったという人たちもいました。また、本人の帰宅願望が強い、夜間に手がかかるなどの理由から、別の施設に移るように言われた場合もありました。
上で紹介した人は、退院後デイサービスを利用しながら、父親の在宅介護を試みましたが、デイサービスでも暴力や暴言が見られたため、認知症専門の精神科病院を探し、入院させることにしたそうです。しかし、その病院では、動けるにもかかわらず、リハビリパンツでなくオムツを使う契約だったため、納得できず、今度は一般病院へ転院させたところ、しばらくして肺炎を起こして亡くなるという経過を辿ったそうです。
介護老人保健施設(老健)は、短期入所を基本とした施設なので、入所できる期間は、原則として3ヵ月間と決まっています。そのため、老健で3カ月過ごして1カ月在宅に戻り、また老健に戻る、というサイクルを3年間続けていた人がいました。在宅の間は、ショートステイとデイを組み合わせて過ごしていたそうです。家族全員が仕事を持っていて日中家にいないため、認知症の姑を一人にはしておけないということで苦肉の策ですが、老健から戻るたびに認知症が進行していて、在宅復帰はもう難しいかもしれないと話しています。
一方、100歳になる実母を老健に預けている女性は、老健は在宅復帰を目指す施設なので、現実に在宅に戻れる期間は限られてしまうけれども、家で看る努力を続けようという気持ちになれる、と話していました。
入所中の本人の様子
施設が決まり、初めて入所したときの本人の様子について何人かの介護する家族が、当初は受け入れていないようでも、入所時には意外にも覚悟し、落ち着いて受け止めていたことを語っていました。しかし、中には、まだ自分で歩けるし、自分で食べられるのになぜここにいるのかと言っていた人もいたそうです。入所後、帰宅願望が言動に表れていた人たちもいました( インタビュー介護者20 を参照 )。
サービス付き高齢者向け住宅に移り住んだ認知症の女性は、食事が提供されるので料理をしなくなった寂しさや認知症が進むのではないかという不安を感じていました。
入所中の通い介護
施設に入所したあとも家族は施設に通い、ときには泊るなどして介護をしていました。最後のほうは泊りこんで、ほとんど一緒に生活していた人、遠いのでたまにしか泊ることはできないという人などがいました。家族が行くと、本人の表情が変わるし、職員の入所者への対応の仕方も見られると話していました。
今後に向けて入所を考える
現状では、在宅介護している人たちも、将来、病状が進行したときの事を考えたり、相談したりしています。周囲で施設に入っている人がいると抵抗が少ないという話をしてくれた人もいました。動けなくなったとき、顔がわからなくなったとき、というように症状が進行したら入所を考えたいという人たちがいました。また、母親を施設に入れるかどうかを巡って姉弟の意見が異なり、2人だけで話していると感情的になるので第三者(ケアマネージャー)を入れて話し合っているという人もいました。
先に紹介した高齢の認知症の女性は、今後もっと症状が進んだり、寝たきりになったときに今のサービス付き高齢者向け住宅には住めなくなることについて話していました。
2021年7月更新
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