認知症の薬物療法

現時点では認知症を根治する薬はありません。認知症の薬物療法は大きく分けて、記憶障害や実行機能障害などの認知機能障害を改善して少しでも病気の進行を遅らせる治療(抗認知症薬と呼ばれる)と、不穏(不安等で落着かない様子)、徘徊(ひとり歩き)、うつ状態、睡眠障害などのBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症特有の行動・心理症状)」を緩和するための治療の二つがあります。どちらも非薬物療法(音楽療法や運動等)を優先的に行い、必要に応じて薬物療法を組合せて治療することが原則です。まずは抗認知症薬にまつわる語りを、アルツハイマー型認知症の方とそうではない方の場合で分けて、ご紹介しましょう。

アルツハイマー型認知症と抗認知症薬

いわゆる「抗認知症薬」として承認されているのは、2018年7月現在、アリセプトとその後発品(一般名:ドネぺジル塩酸塩)、レミニール(一般名:ガランタミン臭化水素酸塩)、メマリー(一般名:メマンチン塩酸塩)、貼り薬(貼付〔ちょうふ〕剤ともいう)のリバスタッチとイクセロン(一般名:リバスチグミン)です。いずれもアルツハイマー型認知症の治療薬として承認されており、2014年9月にレビー小体型認知症に対する効能を取得したアリセプト以外は、本来アルツハイマー型認知症以外では保険適応になりません(但し、混合型の認知症として保険が適応されているケースもあります)。

アリセプト(とその後発品)は軽度の認知症の方から重度の方まで服用量を変えて幅広く使われる薬です。一方、レミニールや貼付剤(リバスタッチやイクセロン)は軽度及び中等度、メマリーは中等度及び高度の患者さんの治療に用いられます。*

*このインタビューが始まった2009年の時点で承認されていたのはアリセプトだけで、残りの薬が承認されたのは2011年になってからでした。そのため2009年から2011年までのインタビューで「認知症の薬」として登場するのは多くがアリセプトのことです。

抗認知症薬はそもそも記憶障害や実行機能障害などの認知機能障害(詳しくはトピック「認知機能の変化:記憶・時間・空間・言語など」を参照)の進行を抑える薬なので、薬を飲むことで劇的な変化は期待できませんが、中には以前のような表情が戻ってきた、おかげで一定の期間は楽に過ごせたなど、効果を実感していた人もいました。また、特に効いているのかどうかはわからないとしながらも、使用を止めたら悪化するのではないかという不安から、使用し続けている、という人もいました。

母が老健(介護老人保健施設)から出たり入ったりしているという女性は、老健では出されない抗認知症薬が在宅になると出され、本人がめまいや吐き気などを訴えることに疑問を感じていました。

2016年に厚生労働省保険局が国民健康保険中央会に宛てた事務連絡では、「認知症治療薬については、患者の症状等により添付文書の規定によらず当該規定の用量未満で投与される場合がありますが、一律に査定を行うのではなく投与の理由等も参考に個々の症例に応じた医学的判断をするように」と記載されています。これは、添付文書に定められた量より少ない量で処方した場合、健康保険の審査に通らず請求を却下されていた状況に対し、患者の症状に合わせた服用量を検討して良いとの判断がなされたことを意味しています。増量して副作用と思われる症状が出たら、そのことを主治医にしっかりと伝えることもご家族・当事者の重要な役割となってきています。

実際に抗認知症薬を服用しているご本人たちは、効いているかどうか良くわからないが、進行を遅くするためには飲み続けているという人が多く、中には薬は飲まなくてもいいのではないかと思っている人もいました。

一方、ある高齢の認知症の女性は、特に効果は実感していなかったが、血液検査の数値に異常が出てメマリー(メマンチン)を休薬したところ、急に記憶力が落ちたような気がするので、これまでは薬が効いていたのかもしれないと話しています。アリセプトにメマリー(メマンチン)を併用するようになって、症状の改善を実感している男性もいました。

アリセプトとメマリー(メマンチン)では同じ抗認知症薬でも、薬の働き方が異なるため、これらを併用することで、認知症の進行に対して効果が期待できると言われています(日本神経学会認知症疾患治療ガイドライン2017 P.227を参照)。上述の男性がメマリーのことを知った当初は、まだ日本ではこの薬が承認されていなかったので、薬を個人輸入して服用していました。その経緯について、この男性の妻は次のように話しています。

※クリスティーン・ブライデンさん~オーストラリア在住の女性。若年性認知症患者として自らの体験を2冊の本に著し、世界各地で講演を行なっている

なお、アルツハイマー型認知症と診断されていても、一人暮らしの本人が薬の管理ができない、本人が飲みたがらないなどの理由で薬を飲んでいない人もいます。中には医師から「そんな薬は効かない」と言われて飲むのをやめたという人もいました。医師によって薬に対する考え方や処方の仕方が異なるため、戸惑うことも多いようです。

以上で紹介した西洋医学の抗認知症薬に加え、漢方薬の中にも同様に認知機能の低下を遅らせる効果を期待されているものがあります。私たちのインタビューでは、若年性認知症の妻を介護する男性(インタビュー家族04)が、臨床試験をやって効果があったと言われている「八味地黄丸」という漢方を妻に飲ませている、と話していました。

アルツハイマー型認知症以外の認知症と抗認知症薬

アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ、イクセロンパッチなどの「コリンエステラーゼ(アセチルコリン分解酵素)阻害薬」は、アルツハイマー型認知症の治療薬として保険適用になっていますが、同じ「変性性認知症」(詳しくはトピック「認知症のタイプと症状の違い」を参照)であるレビー小体型認知症の人にも効果があると報告されており(日本神経学会認知症疾患治療ガイドライン2017 P.257を参照)、2014年9月にアリセプトがレビー小体型認知症にも適応になりました。

しかし、レビー小体型認知症には多彩な症状があるため、ある症状を改善させる薬が他の症状を悪化させることもあり、薬をのむときには、使用前後の症状の変化を観察し、その結果を主治医に詳しく伝えて注意深く使う必要があります。実際、私たちのインタビューでも、医師と相談しながら、何度も薬の種類や量を調整した経験について語っている人たちがいました。(この後の薬物療法と副作用の項も参照)。

若年性のレビー小体型認知症の女性は、医師からアリセプトを勧められましたが、インターネットなどから集めた情報をもとに、自らリバスタッチパッチを使いたいと申し出ました。ただ、パッチを最初に貼ったときは「認知症」という烙印を押されたような感じがして、誰にも見られなくないと思ったそうです。

また、日本神経学会では、脳血管性認知症の患者さんにも、科学的根拠は十分ではないながら、これらのコリンエステラーゼ阻害薬の処方を考慮してもよい、としています。レビー小体型認知症の患者さんではあまり効果が見られないメマリーも、脳血管性認知症の患者さんの認知機能障害に改善が見られたとする報告があります(日本神経学会認知症疾患治療ガイドライン2017 P.325を参照)。ただ、私たちのインタビューでは脳血管性認知症の方で、これらの抗認知症薬について言及している方はいませんでした。

一方、同じ「変性性認知症」である前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)については、これらのコリンエステラーゼ阻害剤の有効性は確かめられておらず、むしろ症状を悪化させるという報告もあります(日本神経学会認知症疾患治療ガイドライン2017 P.274)。メマリーには神経を保護する作用があると考えられており、私たちのインタビューでも、前頭側頭型認知症の夫がメマリーを飲んでいる、と介護者である妻が話していました。但し、メマリーの前頭側頭型認知症に対する効果についてはまだ十分なエビデンス(科学的根拠)がありません。

正常圧水頭症の場合、治療法の第一選択は手術であり、抗認知症薬の有効性は確かめられていませんが、アルツハイマー型認知症を合併している場合には一定の効果が期待されることから、抗認知症薬が使われることがあります。高齢のため手術を行なわない決断をした正常圧水頭症の男性の妻は、抗認知症薬を使っていると話していました。

BPSDを緩和するための薬

認知症の人には、脳がうまく働かなくなったために起きる日常生活上のさまざまな不自由や混乱から、抑うつや妄想、ひとり歩き、乱暴な振舞いといった周囲の人々が対応に困るような行動・心理症状(Behavioral Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)が出ることがあります。このようなBPSDには、非薬物療法を優先的に行います。薬物投与は非薬物療法を十分に行った後、必要だと判断された場合に併用して行われるべきなのです(かかりつけ医のための適正処方の手引きP.6~7)。薬の使用は、認知症のタイプや患者さんの年齢によってはむしろ悪化させる場合があり、正確な診断と慎重な使用が求められます。

インタビューの中では、レボトミンやグラマリールといった定型抗精神病薬を投与された人たちがいました(リスぺリドンなどの非定型抗精神病薬の投与を経験している人はいませんでした)。レボトミンは統合失調症にも用いられる薬で、興奮や妄想を抑える効果があります。グラマリールは患者さんの異常な怒りっぽさや徘徊などの症状を緩和する薬として使われています。しかし、これらの抗精神病薬はパーキンソン症状(筋肉のこわばり、動作が緩慢になるなどの症状)や、悪性症候群(高度の筋肉の硬直、発熱・発汗、意識障害をきたす)などの副作用を起こす場合があります。レビー小体型認知症の実父を看取った女性は、父親が当初脳血管性認知症と診断されてグラマリールを投与され、「廃人のように」なってしまったと語っています。

さらにレビー小体型認知症の人では、パーキンソン症状(パーキンソン病によくみられる、手足のふるえ、筋肉のこわばり、歩行障害などの症状のこと)が出ることが多いので、抗認知症薬や幻視などの精神症状に対する薬に加えて、抗パーキンソン病薬が投与されることもあります。複数の薬を併用するには微妙にさじ加減をする必要があり、専門医でも処方が難しいと言われています。

前頭側頭型認知症の方に特徴的な繰り返し行動(常同行動~「認知症のタイプと症状の違い」 の前頭側頭型認知症の項を参照)や食べ物に関する異常行動に対しては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)と呼ばれる抗うつ剤が有効であるとする報告があります(日本神経学会認知症疾患治療ガイドライン2017 P.274)。前頭側頭型若年性認知症の夫を介護する女性は、お店のトイレからトイレットペーパーを持ち出すという常同行動を抑えようと、パキシル(パロキセチン)というSSRIのジェネリックを処方してもらったところ、強迫的な常同行動は治まったものの、突然眠ってしまうようになったと話していました。

「抑肝散」という漢方には神経の興奮を収める作用があり、比較的副作用が少ないため、様々なタイプの認知症で、興奮しやすい、怒りっぽいなどの症状を抑えるために用いられています(日本神経学会認知症疾患治療ガイドライン2017 P.74 ならびにP.254を参照)。私たちのインタビューでは、上述の前頭側頭型認知症の人の介護者以外にも、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の人を介護する家族もこの薬に言及していました(レビー小体型認知症についてはインタビュー家族33を参照)。

薬物療法と副作用

ここまでに紹介した語りの中にも、副作用に関する体験談がいくつか含まれていましたが、薬物療法の副作用には個人差が大きく、使ってみないとわからないところがあります。特にレビー小体型認知症の場合は薬剤過敏の方が少なくないので、薬の扱いが非常に難しく、先ずは非薬物療法を行うことが重要だといえます。それ以外の認知症の方でも高齢者では薬物の副作用が出やすいので注意が必要です。

若年性レビー小体型認知症の女性は、当初うつ病と誤診され、抗うつ剤のパキシルを処方されたのですが、飲み始めた途端に血圧低下、起立性失神、過呼吸、手の震え、声が小さくなるなど、様々な症状が出て、薬をやめたらすべて治まったと話しています。

次の若年性レビー小体型認知症の女性の夫は、うつ病を疑い受診していたころ飲んでいた薬のせいで、症状の進行が早まったのではないかと疑い、いまでもメンタルクリニックに通った2年半を無駄に過ごしたと後悔しているそうです。

抗認知症薬では、アリセプトの主な副作用としては吐き気や下痢、興奮があり、レミニールでも主に吐き気が見られます。リバスタッチなどの貼り薬では、吐き気に加えてかぶれなどの皮膚症状が出ることもあります。メマリーではめまいや頭痛、眠気、便秘などの症状があります。こうした症状が出た場合は医師と相談して薬の量を調節したり、服用を中止したり、といった対応が求められます。

先に紹介したアリセプトとメマリーを併用している若年性認知症の男性(認知症本人インタビュー05)も、最初にアリセプトを飲んだときは合わなくて、最少量の3mgでも「調子が悪い。頭が痛い。肩が張る」と言って飲めないので、錠剤を砕いて1mgとか2mgにして飲んでいたそうです。

レビー小体型認知症の夫を介護する女性は、すべての抗認知症薬で歩行障害が出てしまい、薬をいったんやめた、と話しています。

また、病気の症状なのか薬の副作用なのかが判然としない場合もあります。次の男性は、若年性認知症の妻がてんかん発作を起こすようになったのが病気のせいなのか、薬のせいなのかわからず*、抗認知症薬と抗てんかん薬の両方を服用し続けていると話しています。

*認知症は、通常と比べてんかん発作を合併しやすいとされています。一方、薬剤に誘発されるてんかん発作の可能性もあり、患者さんの病態により対応は異なります。

薬の管理と支援

このように、認知症の人は認知症の進行を遅らせ、様々な症状を抑えるために複数の薬を併用することが多くなります。このほかに認知症の人が併用する ことが多い薬には、脳梗塞の再発を防止するために血流を良くする薬や血栓ができにくくする薬、血圧を下げる薬や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の薬などがあります。こうした数多くの薬を認知症の人が自分で管理して飲むのは難しく、飲むのを嫌がることもあるので、服薬介助は介護者にとってかなりの負担になることもあります。一方、若年性認知症の人のなかには、薬を自己管理し、自ら飲み忘れを防ぐ工夫をしている人もいました。

薬の剤型によっては患者さんが飲みにくいと感じるものがあり、次の男性は、介護をしている妻になかなか細粒の薬を飲んでもらえなくて苦労していると薬の管理と支援話しています。また、複数の薬を服用しているため、ショートステイを利用するときには、飲み間違えないようにセットしてホチキスで留めて渡しているそうです。

ご本人が飲み薬を嫌がる場合は、リバスタッチやイクセロンといった貼り薬を用いるのも一つの方法ですが、先に紹介した正常圧水頭症の男性のように、かぶれてしまって使えない場合もあります。

脳血管性認知症の父とアルツハイマー型認知症の母を介護する次の女性は、医師と相談したうえで、自分たちの顔を忘れないでほしいので認知症の薬は残しながら、生活習慣病の薬を減らしたと話しています。

次に、薬を自己管理している若年性認知症の方々の工夫をご紹介します。若年性アルツハイマーの男性は、お薬カレンダーと携帯のアラームを駆使して飲み忘れとインシュリン(糖尿病の治療薬)の打ち忘れを防いでいるそうです。また、低血糖につながってしまう打ち過ぎには、自分の記憶ではなく、カレンダーに針があるかないかで、打ったかどうかを確認しているそうです。

次の若年性レビー小体型認知症の女性の場合、記憶力自体はさほど低下していないこともあり、飲み忘れ、飲み間違い、飲み過ぎなどが続いた時に、何のために飲んでいるのかを自問して、服薬の意味を意識することで、飲み忘れを防げるようになったと話してくれました。

2021年7月更新

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