外出をめぐるトラブル:「徘徊」と呼ばれる行動

認知症特有の行動・心理症状(BPSD:Behavioral Psychological Symptoms of Dementia、詳しくは「対応に困る行動・言動」を参照)の中でも、代表的なものが外出をめぐるトラブル、いわゆる「徘徊」と呼ばれる行動です。もちろん本人は「徘徊しよう」と思っているわけではなく、何らかの目的があって歩き始めて迷ってしまったり、何かじっとしていられないような理由があって歩き回ったりしています。しかし、事故や過労・脱水による衰弱など、自他に対する危害の心配もありますので、介護する人は目が離せず、身体的にも精神的にも負担の大きいものです。ここでは、「外出して帰ってこない人」を見守る介護家族の語りを紹介します。

 

なぜ歩きまわるのか?

「徘徊」の根底には、意識障害や認知機能障害があり、自分がいる場所・時間の見当がつかなくなり(見当識障害)、これが長年の生活習慣や職業習慣と結びついて、いろいろなパターンの「徘徊」を引き起こします。ストレスや不安・緊張などが加わると、その傾向は一層強くなります。私たちのインタビューでは、食事の支度のために「自分の家」に帰るというはっきりした目的意識を持って外に出て行く母親や、自分の故郷やデイサービスの方向に向かって歩き出してしまう父親について、介護する家族たちは次のように語っていました。

夜中の一人歩きについては、特に理由もなく朦朧として歩きだしてしまうというケースもあれば、あるレビー小体型認知症の患者さんのように自分が見ている幻覚に対処しようとして行動しているケースもありました。

※意識が混濁して、幻覚を見たり錯覚を起こしたりして、言動に一時的な混乱が見られる状態をいいます

本人はあくまで散歩に出かけたつもりで、記憶や空間認知の障害のために道がわからなくなって帰って来られないという、「徘徊」というよりは「迷子」といったほうがいいケースもある一方で、目的地には迷わずに行けるが時間の感覚がおかしくて、同じところに何度も出向くケースもあるようです。前頭側頭型認知症の患者さんでは、駅に家族を迎えに行く、あるいはフライドチキンを買いに行くといったはっきりした目的があるのに、帰宅時間ではない時間帯やチキンを販売していない時間帯に出かけて行って、目的が達せられずに何度も家との間を往復するというエピソードが語られていました。

 

「徘徊」への対応

このように外に出て行きたがる人たちに対して、どのように対応するかというのも、家族の生活環境によってまちまちです。出て行こうとする本人の気が済むまで一緒に歩いて、また家に帰ってくることができれば理想的ですが、そろそろ帰ろうと言っても本人がなかなか言うことを聞いてくれないこともあります。娘が連れ戻そうとしてもいうことを聞かないというアルツハイマー型認知症の母親は、顔見知りの人から声をかけられると素直に帰るのだそうで、娘さんは上手に周囲の人たちの手助けを得ながら、母の一人歩きにつき合っていました。また、レビー小体型認知症の人はせん妄状態のときは元気よく歩くのですが、しばらくして我に返ると急に体の力が抜けて倒れてしまうことがあります。突然歩けなくなった父親を抱えて当惑した経験について娘さんが語っています。

しかし、このように本人の様子を見ながら外出につきあえる人ばかりではなく、多くの場合、四六時中そばについては居られないからと、患者さんが一人では出られないように家の鍵を工夫したり、出て行ったことが分かるようにドアにセンサーをつけたりしていました。さらに行方がわからなくなってしまった時に探しに行けるよう、患者さんにGPS装置やGPS機能が付いた携帯電話を持ってもらうようにしている人も複数いました。

外出衝動が激しくGPS装置も外して出て行ってしまう父のために一時は介護離職に追い込まれたという次の女性は、様々な工夫を凝らして対策をとっていました。

多くの介護者が、一人で出かけて戻らない家族を自分たちで探しきれずに警察に捜索を依頼したり、警察から保護しているという連絡を貰って迎えに行ったり、という経験について語っていました。日中はほとんど迷うことがないピック病の夫が、夜の散歩に出かけて戻れなくなり、警察の大々的な捜索の末見つかったときの気持ちについて、その妻は次の様に語っていました。

この女性はこのあと夫にGPS装置を持ってもらったのですが、電池が切れていることに気づかず、また遠くまで歩いてしまった時に見つけられなくなって、再び警察に協力を要請せざるを得ませんでした。こうした経験の末、一人での外出を止めるのに一番効果的だったのは、セキュリティ意識の強い夫に「家の鍵が見つからないので誰かが家に残っていないと」とお願いして、自発的に家にとどまってもらう方法だったといいます。

これはある意味では「出て行きたい」という衝動を上回る目的意識を認知症の人が持ったことで、一人歩きが抑えられた例とも言えます。同様にレビー小体型認知症の父親の「徘徊」が治まったのは、デイサービスに行くようになってそこに自分の存在価値を見出すことができたからではないか、と介護をしてきた娘さんが分析しています。

2019年7月更新