診断のための検査

ここでは認知症の疑いが生じたときに、それが年相応の機能低下なのか治療を要する病的な変化なのかを区別したり、認知症以外の病気と鑑別したりするために行われる、様々な検査の体験について紹介します。インタビューに協力した人たちの多くは、診断に際して認知機能の状態を調べる神経心理検査と画像診断検査の両方を受けたと話していました。次の2人の介護者も、最初に受診したときに問診を中心とした簡便な検査を受け、認知症の疑いが高いとなってから、さらに確定診断のために詳しい検査を受けたと話しています。

認知症の診断には大きく分けて、①症候学的検査、②神経心理検査、③画像診断の3つのタイプの検査が行われます。①の症候学的検査は、医師が問診や行動観察を通じて、その人に認知症特有の症状が出ているかどうかを判断するもので、それに関連する語りは「認知症のタイプと症状の違い」というトピックでもご紹介しています。以下では、②神経心理検査と③画像診断に関する語りを中心にご紹介していきます。

神経心理検査

神経心理検査は、主に認知機能の状態を調べるために行なわれます。神経心理検査にはいろいろな種類がありますが、インタビューでは多くの人が「長谷川式」という名称を口にしていました。正式には「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」といい、まず症状の有無と程度をふるい分ける(スクリーニングの)ために行なわれる簡単なテストです。このほかにMMSE(Mini Mental State Examination=ミニメンタルテスト)という検査や、時計の絵を書かせる時計描画検査も同様の目的に用いられます。

これらはあくまでスクリーニングを目的としており、検査を受ける環境によって点数が変わることがあるので、それだけで認知症の重症度について確定的なことは言えません。最初に診断を受けた病院では長谷川式検査の結果が16点で「中ぐらいの認知症」と言われた若年性認知症の男性は、そのあとセカンドオピニオンで受診した若年性認知症専門外来では23点取れて「初期の認知症」と言われたそうです(トピック「病院にかかる」のインタビュー介護者03の語りを参照)。ちなみに、長谷川式検査では30点満点中20点以下が、MMSEでは30点満点中23点以下が認知症の可能性が高いとされています(MMSEでは22-26点はMCI〔軽度認知障害〕の疑いとして、21点以下を認知症とする考え方もあります)。

長谷川式検査やMMSEでは、その日の日付、今いる場所などについて答えてもらったり、物の名前を三つ覚えて後から言ってもらったり、100から7ずつ引いた数字を言ってもらうなどの設問があります。後に認知症の診断を受けた高齢の女性は、数年前にこの検査を受けたときは全部答えることができたので、薬を出してもらえなかった、と話しています。これらはごく簡単な設問だけに、ご本人がそのような質問をされることで傷ついたり、うまく答えられないことに動揺したりする場合もあるようです。

また、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症の初期には、幻視や常同行動(同じ行動や行為を何度も繰り返し続けることと~「認知症のタイプと症状の違い」 の前頭側頭型認知症の項を参照)などの症状が出ていても、記憶障害が出ていないために、これらのスクリーニング検査では「異常なし」「年相応」と判定される場合もあるようです。若年性のレビー小体型認知症の女性は、記憶障害はありませんでしたが、100引く7の計算を全部間違えたため、認知機能の低下があると診断されたそうです(以下の「画像診断」の項のインタビュー本人11の語りをご覧ください)。

逆に、ピック病の人の場合はあえて検査に答えようとしないために点数が低くなってしまうこともあるので、点数だけで重症度はわからないと主治医に言われたと、ピック病の夫を介護する女性は話しています。

これらのスクリーニング検査の結果、認知症が疑われる場合にはいわゆる知能テストや個別の認知機能について詳しく調べるような神経心理検査が行われる場合もあります。次に紹介する若年性認知症の男性は、長谷川式の検査に加えて、インクのしみが何に見えるかを答えるロールシャッハ検査を受けたと話しています。但し、ロールシャッハ検査は、認知症の診断に必要な検査というよりは、認知症の人の人格特性を捉えるための検査と考えられます。

画像診断検査

認知機能の障害を引き起こす病気としては、アルツハイマー型認知症や脳血管障害がよく知られていますが、その他にも、中毒、外傷、感染症、腫瘍など様々な原因が考えられ、それぞれ治療も異なるので、正確な診断が必要です。そこで症候学的検査や神経心理検査に加え、画像診断検査を行って、脳の萎縮の程度や病変部位の違い、血液の循環や代謝の違いを調べます。MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)は脳の形の変化を見るための検査で、インタビューでも多くの人がこれらの検査を受け、脳の一部に萎縮が見られたことに言及していました。

さらに、放射性同位元素で印を付けた薬剤を用いて血流を調べ、脳の働きを見るSPECT(スペクト)や、同じく放射性同位元素を用いて脳の中の糖の代謝を見るFDG-PET(エフ・ディ―・ジー・ペット)などのより精密な検査を受けた人もいました。元脳外科医の若年性認知症の男性が友人の紹介でFDG-PETを受けた当時は、その検査を受けられる機械がまだ日本に3台しかなかったそうです。SPECTは認知症でも保険が適用されますが、FDG-PETは未だに利用できる施設が限られており、認知症の診断目的では保険適用にならないため、高額の費用がかかります。これらの検査の必要性については主治医と十分に話し合って、患者の協力が得られるかどうかも考慮した上で行うべきでしょう。

中には、脳の血流の検査だけでなく、MIBGと呼ばれる物質を使って心臓の周辺の交感神経の状態をみる、心筋シンチグラフィという検査も受けたという人もいました。レビー小体型認知症では心筋へのMIBGの集積が低下することがわかっているため、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症との鑑別診断に用いられます。2012年3月から認知症の診断で保険適用になりました。

しかし、幻視や認知機能の低下などの症状が出ていても、心筋シンチグラフィには異常が見られないこともあります。次の女性は、虫の幻視が見えたことから自らレビー小体型認知症を疑って受診したのですが、心筋シンチグラフィは陽性になりませんでした。早期治療を期待して受診したにもかかわらず、この時は診断がつかず、8か月後に再度受診して、その症状からようやくレビー小体型認知症と診断されたそうです。

その他の検査

インタビューでは複数の人が神経心理検査と画像診断検査のほか、血液検査を受けたと話していました。血液検査のみで認知症を診断することはできませんが、認知症と間違われやすい症状である意識障害をもたらすような疾患(糖尿病、腎不全、肝硬変など)と区別したり、脳血管性認知症の人では脳血管障害のリスク(血糖や脂質異常)を評価したりするのに役立ちます。

さらに脳波の検査を受けた人や髄液を取る検査を受けた人もいました。認知症の人の脳波には一定の傾向が見られることから、頭部CT検査や神経心理検査と併せて診断に用いられます。また、髄液検査では、腰椎に針を刺して採取した髄液の中に含まれるリン酸タウというタンパク質の量が多い場合に、アルツハイマー型認知症の疑いが高いと判断されます。この検査も2012年から保険適応になっていますが、実施している施設はまだ多くありません。

さらに認知症の診断のために必要な検査ではありませんが、インタビューでは遺伝子検査について言及している人がいました。若年で発症することの多い家族性アルツハイマー型認知症についての遺伝子診断は、先進医療*の枠組みや自由診療で行われるようになっていますが、現時点では発症を予防する方法が確立されていませんので、発症前診断については受け付けていない医療機関もあります。
*先進医療とは、厚生労働大臣の承認を受けた医療機関において、通常の保険診療治療と特定の先進的な医療技術を併用することができる仕組みを指します。

検査を受けるまでの苦労

認知症本人に自分が病気であるという認識がないときには、検査を受けてもらうのにひと苦労する場合もあります。レビー小体型認知症の父とアルツハイマー型認知症の母を介護した女性は、父は病院に行く前にきちんと説明すればMRIも動かずに受けることができたが、母は「早く出して」と騒ぎ出してしまう、と話していました(トピック「認知症のタイプと症状の違い」のインタビュー介護者34)。次の女性は脳血管性認知症の父とアルツハイマー型認知症の母を介護していましたが、たとえ理解できなかったり忘れてしまったりするとしても、検査を受けることについてきちんと説明する過程が大事なのではないか、と語っていました。

一方、ピック病の夫を介護する女性は、検査を嫌がって帰ろうとする夫を何とかなだめすかして検査を受けてもらわなければならなかったことを振り返り、若くて力がある患者を介護する苦労を語っていました。