症状の始まり

ここでは家族やご本人が初めにおかしいと気付いたのはどんな状況からだったかについての語りをご紹介します。認知症の初期症状としてよく言われているのは

・何度も同じことを言ったり聞いたりする。
・ものの名前がでてこない。
・以前はあった関心や興味が失われる。
・置き忘れやしまい忘れが多くなる。

などです。

家族が異変に気づく

こうした症状に、最初に気づくのは家族など身近に暮らしている人たちですが、私たちのインタビューでは、異変に気付いていても、 認知症を疑ってすぐに受診を勧めたという家族は少数派でした。たまたま体調が悪いなど一時的なことだろうと思っていたり、年齢相応の問題と思っていたりして、あえて医師の診察を受けさせようとは思わないようです。

しかし、多くの家族が認知症の診断を受けてから昔のことを振り返る中で、「今から思うとあれは認知症の症状だったのかもしれない」という話をしています。中には、以前から抑うつ症状があって、いつから認知症の症状が始まったのかはっきりしないという人もいました。(うつとの関係については「病院にかかる」も参照)

一緒に暮らしていないために気づくのが遅れるケースがある一方、毎日一緒にいるからこそ分からない場合もあります。同居していない親族や、職場や近所の人などから指摘を受けて受診したという人も少なくありません。もっと早く気づいてあげればよかったと後悔する人もいます。

ほかの家族の介護経験から、初期症状で認知症を疑ってすぐに受診を勧めたという家族介護者もいましたが、はっきりと認知症を疑うきっかけとなるような「決定的な出来事」があったという人が少なくありませんでした。

本人が異変に気づく

逆に家族よりもご本人が先に異変に気づいて、自分から受診したケースもあります。それまで健康に過ごされていた若年性認知症の方のほうが、 高齢になって発症された方よりも、自分の異変に気付きやすいようですが、高齢者の方でも外出の際に目的地にたどり着けない、帰ってこられないといった経験をして、受診を希望した人もいました。

ご本人が異変と感じているのは、必ずしももの忘れなどの典型的な症状ばかりではありません。「自分が自分でないような感じ」「ものが見えていてもそこにないような感じ」など、実際にご本人が違和感があると感じていても、それをうまく説明できないことも多いようです。その心細さについて、ご本人たちが次のように語っています。

次の女性も診断の10年ほど前からいろいろなことがうまくできなくなっていることに気づいていましたが、医療機関を受診しても「うつ」の疑いで、そのまま様子を見ていたそうです。空間認知に障害があるこの女性は、ホースを巻きとったり、靴下を丸めたり、といったことができなくなっていたのですが、まさかそれが認知症の始まりとは思わなかったと話しています。

中には早くから異常に気づいていながら、その不安を誰にも言わずに、日記に書き残していた人もいました。あとからそれに気づいた家族の思いは複雑です。

さらに、認知症とは関係なさそうな症状をご本人が訴えていたのを、やはり何か関連があったのではないかと感じている家族介護者もいました。

アルツハイマー型以外の認知症の始まり

一方、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症の人は、冒頭に挙げたような典型的な認知症の症状を示さないことも多いため、家族が異常に気づいていてもそれが認知症であるとは思わず、病院に行くようなことだとも思わないようです。睡眠時の異常行動は、しばしばストレスや疲れからくる「寝ぼけ」だろうと解釈されていました。

※脳が覚醒に近い状態で活動しているレム睡眠中に、夢の内容に反応して異常行動が出現すること

実際にはそこにいない人や生き物が見える、レビー小体型認知症に特徴的な幻視の症状が出現したときに、動物霊など病気以外の原因を疑い、お祓いをしたという人や、塩でお浄めをしたという人もいました。

レビー小体型認知症の母親を介護する女性は、出歩くのが好きだった母親の歩幅が狭くなったことが最初に感じた異変だそうです。

前頭側頭型の認知症にも、筋力の低下や動作がゆっくりになるといったパーキンソン症状が出現することがあります。次の女性は、夫がおじいさんのような動作や歩き方をするのを見て、まだ50歳をすぎたばかりなのに何かおかしいなと感じたそうです。

前頭側頭型認知症の一種であるピック病の夫を持つある女性は、前頭葉が委縮すると欲望や衝動の抑制ができなくなるという知識を持っていましたが、 子どものようにわがままをいうようになった夫がまさか本当に病気だとは思わず、「パパ、前頭葉が委縮してるんじゃないの?」と冗談を言っていたそうです。

前頭側頭型認知症においても、他の認知症でみられるような睡眠障害や意欲低下などのうつ症状、感情表現が乏しくなるなど統合失調症を疑われるような症状が初期に現れることがあります。次の女性もうつ病を疑い精神科を受診しましたが、解離性障害と診断され、5年後にやっと前頭側頭型認知症と診断がついたそうです。

2021年5月更新

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