親の就労

医療的ケア児を育てる上で、親、とくに母親が就労し続けられるかは大きな問題です。
子どもが生まれ障害をもつことがわかり、入院生活が長引いたことや、在宅での医療的ケアが必要になったことをきっかけに仕事を辞めることを決意した方は多くいます。
また、保育園を探したが医療的ケアを理由に入所できなかった方、保育園には預けられたが小学校入学を契機に学校付添いが必要となり、仕事をやめなければならなくなった方もいます。
その一方で、制度や周囲のサポートを受け仕事を続ける人、自宅でできる新たな仕事を模索した方もいます。
仕事をすることは経済的余裕だけではなく、親自身の生きがいや自己実現のための大切な人生の一部であるというお話がありました。

仕事を断念した

妊娠中は産休・育休が明けたら仕事を再開しようと思っていたが、実際に子どもが生まれ、まったく思っていなかった状況となった。再び働きたい気持ちはあったが、実際の日々のケアを前にそんな状況ではなかったなどのお話がありました。
最初の方は、出産前は臨床心理士という専門職についておられた経験からお話くださいました。

次の方も仕事が大好きでやりがいをもって働き、出産後も育児と仕事の両立を目指していたにもかかわらず、現実にはそれが叶わないという無念な気持ちをお話くださいました。

時短勤務で働いている

出産前の仕事を時短勤務にして続けている人もいます。家族や職場の理解はもちろん、保育園や訪問看護、デイサービスなど様々な支援を受けて仕事を継続していました。

次の方は、臨床心理士の資格をもっている方で、お子さんの小学校の付き添いが外れ、放課後も居宅訪問型児童発達支援という放課後デイサービスを自宅で受けられる制度を週2回利用できるようになったタイミングで時短勤務で仕事を再開したそうです。

生活保護の受給

次の方はもともと一般事務の仕事をしておられましたが、結婚しお子さんが生まれてから仕事を辞めてケアに専念しておられました。仕事については「この子と一緒にいたい。この子を預けてまで、自分が何かしようということは全くなかった」と言います。
その後、離婚しシングルマザーとなり、生活保護を受給しながらお子さんを育てていた経験をお話くださいました。2006年に15歳で息子さんは亡くなったので、1990年代後半~2000年代前半頃のお話です。

仕事を再開した

仕事と育児の両立を思い描いていたのに、ケアを前にその両立に悩んだと多くの方がお話されています。その中でも、資格をもっていたことからフルタイムに復職したという方や、独立して自分のペースで仕事をできる環境を整えたという方もいます。

この方は看護師で、妊娠中から産後の復職を希望していましたが、保育園に入れず悔しい思いを抱えながらも退職したそうです。しかし、お子さんとの入院生活を送る中で、復職の気持ちを新たにし、パートタイムや夜勤を経て、お子さんが7歳の頃、フルタイムに復帰しました。

次の方は、公認会計士の資格を持って会社勤めをしておられましたが、もとの会社に戻ることはせず、ご自身で独立する道を選んだといいます。
専門資格を持っていても、女性が家事、育児、仕事を両立していくことに難しさを抱えていた中で、医療的ケアを必要とする子どもが生まれ、子どもに背中を押される形で独立を決意したといいます。

次の方は母親で、夫婦ともに研究職です。お子さんが生まれたときに博士課程に在籍し、出産後に博士論文を提出し、フルタイムの仕事を始めたと言います。

コロナ禍で在宅勤務の普及と子育ての時期が重なり、夫婦で仕事と子育てを両立できる環境が整備されたことも大きかったようです。

自宅でできる仕事を模索した

会社などで働いていたそれまでの経験を活かし、在宅での医療的ケアと両立できる仕事を模索し、自宅で起業したという方、新たな資格をとって子ども向けの学習教室を開いたという方もいました。
もともとの職業や専門とはまったく違うことでも、チャレンジしたことで、経済的な面だけではなく、自分のやりがいを見つけたと言います。

次の方は、ご自宅での起業のご経験をお話くださいました。

次の方は、3人の子育てをしながらシングルマザーとなり、養育費や親の支援などを受けて生活していたそうですが、趣味だった手芸の技を生かし、着物リメイクの工房を立ち上げ、地域の同じような境遇のお母さんの雇用の場ともなっています。

次の方は、自宅でフランチャイズの学習教室を開業したご経験をお話してくださいました。
子どものケアに追われ自分を失っていくような感覚があり、ゾンビのように生きている母にケアされるなんて息子にとってもよくないと思ったこと、さらに医療的ケア児をもつ母だって仕事ができる道筋を見つけたいと思いたったことがきっかけだったといいます。

父親の就労

父親は経済的な大黒柱、母親は子どものケアという役割分担を多くの家庭でとられていますが、その中でも父親が仕事と、家庭でのケアの役割をどのように両立しているかについてもお話いただきました。

次の方は父親で、中学校の教員をされているため、平日以外も土日も部活動の指導や引率など忙しくお仕事をされています。夜しか家でケアを分担できない中で、夫婦ともに完璧を求めず、子どものアラームが鳴ったときには対応できれば、というスタンスでいないと、24時間毎日続く生活はできないとお話くださいました。

次の方は、妻としての立場から夫の仕事についてお話くださいました。こちらのご夫婦以外にも、車の運転や肉体労働を伴う夫の仕事を考えると、夜の睡眠時間を削るようなケアは任せることはできないと考えていた方や、子どものケアで夫が腰を痛めるようなことがあれば、家族の経済的基盤を失ってしまうと考え、どうしても自分一人で頑張ってしまうとお話してくださった方がいます。

次の方には、父親の職場に子どもの状況をどのように伝えているかについてお話いただきました。

次の方は、父親で救急救命士をしておられます。仕事柄、病気や障害のある子どもに対して職場の理解があり、お子さんの緊急事態にはすぐに家に帰るようにしてもらえると言います。
生後1か月で退院し、夜中に頻回な吸引があり、夫婦ともに眠れなかった中で、夜勤の間にご自身は仮眠をとり、家ではケアを担当することができありがたかったと言います。

次の方も父親で、お子さんが生まれて医療的ケアが必要となり、職場に在宅勤務を相談したと言います。
その後、コロナ禍となり社会全体が在宅勤務を推奨するようになったこと、夫婦ともに研究職で専門性が高いことから、自由な働き方ができており、子育ての両立の面でかなり助かっていると言います。

2023年7月公開

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