就学相談・学校の選択
医療的ケアのある子どもが就学するにあたっては、大きく3つの選択肢があります。
通学区域の特別支援学校に通学する場合、もしくは肢体不自由教育部門のある特別支援学校に入学し、教員が自宅等を訪問して学習機会を確保する場合、地域の普通小学校の普通学級もしくは特別支援学級に通う場合です。
特別支援学校と、普通学校の特別支援学級のいずれに通うかは、日常的に医療的ケアが必要か、移動や食事、排泄などが一人でできるかといった自立の程度によりますが、その基準は明確に決められているわけではなく、自治体の就学相談の場で、保護者の要望と教育委員会の判断のすり合わせが行われます。
インタビューに協力してくださった方々は、どのような理由でその学校や形態を選んだのでしょうか。
特別支援学校の通学籍を選ぶ
医療的ケアが必要な子の学校として特別支援学校の通学籍を選ぶ方が多いようです。
学校に通うことで家ではできない体験や刺激を与えたい、バギー移動やトイレ介助などのハード面が整っている、医療的ケアを含めた支援が受けられる環境が普通学校よりも整っている、コミュニケーションや日常生活に関する教育内容が豊富であるなどがその理由です。
特別支援学校は自治体によって、学区域が広域のため、就学時期に合わせて近隣に引っ越すという方もいます。
通学バスもありますが、気管切開をしていると通学バスに乗れない(トピック「学校の送迎」参照)ため、親が自家用車で送迎します。
次の方は、特別支援学校の通学籍を選びましたが、毎日の通学の送迎や付き添いが大変で何度も訪問教育にしようかと考えたといいます。
次の方は、普通学校の通学籍を希望し通っていたところ、学校の対応に不信感をもち、途中で特別支援学校に転校しました。
一口に特別支援学校といっても、対象となる子どもの主たる障害の種別によって分かれています。
教育内容は、学習指導要領を基本として、各自治体の教育委員会が定めた編成基準により時間割が作られ、教科等の指導の中で、コミュニケーションのための手話やパソコンの学び、日常生活に関わる知識を中心としたカリキュラムが組まれています。
次の方は、特別支援学校に通っているものの、普通学校での学習とは異なるため物足りなさを感じていると言います。
子ども自身が成長し自立していく過程で、子どもが自分で吸引したり、栄養を注入したりというケアを行えるようになる場合もあります。
しかし子ども自身で行うケアを特別支援学校で学校側がなかなか認めてくれず、子どもの自立との狭間で悩んでいるというお話もありました。
訪問教育を選ぶ
通学のためには、ケアに必要な道具の持参、学校までの送迎、親の付き添いなど多くの準備とサポートが必要となります。お子さんの健康状態や様々な条件の中で訪問教育を選んだという方のお話を紹介します。
事故や病気などで、普通学校に通っている途中に医療的ケアが必要となった子もいます。普通学校に戻るかどうかを決める際に、自宅にいながら学習できる特別支援学校の訪問教育を選び、元々在籍した普通学校との交流を選ぶ経験をされた方もいました。
普通学校を選ぶ
きょうだいと一緒に通わせたい、地元に友達を作りたいなどの理由で地域の普通学校を選んだ方もいます。地域の普通学校を選ぶにあたって、就学相談や入学後の配慮についてどのような対応があったのでしょうか。
普通学校の入学に向けては、お母さんやお子さんの希望もありますが、その気持ちが周囲の人を巻き込み、大きな運動となって行政や学校を動かしてきたという経緯があります。
年齢があがるほど学校での授業内容は難しくなってきます。小学校までは普通学校の特別支援学級に通うが、中学校からは特別支援学校に通うという選択をされる方もいます。
次の方は小中学校に続き、高校でも普通学校で過ごすことを希望し、普通学校の受験を経験された方のお話です。
就学相談
どこの学校に通うかは、行政の就学相談で情報交換をするのが一般的です。しかし、就学相談といっても、親の希望はほとんど聞いてももらえない雰囲気だったという声もあります。親が自分から積極的に動かないと、地域の学校や特別支援学校の種類や場所に関する情報もなく、また、医療的ケアがあることや障害があることは担当課に伝えているはずなのに就学を管轄する他部署との連携はないようで、就学相談の場にケアが必要なことの情報が共有されていないなど、失望の声が多く聞かれました。
大学進学
医療的ケアがあっても大学進学を目指し、実現した子もいます。
しかし、高校の推薦を受けるにあたり、通院のための欠席や早退により学校の出席日数が基準に足りないことや、大学入学後の生活に関する懸念事項が表明されるなど多くの悔しい思いや困難を経験したようです。医療的ケア児に限らず、様々な障害があっても大学や大学院進学を目指し、実現した方の語りは「障害学生の語り」 からもご覧いただけます。
2023年7月公開
認定 NPO 法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」では、一緒に活動をしてくださる方
寄付という形で活動をご支援くださる方を常時大募集しています。

普通学校にはバリアがあり過ぎ、特別支援一択だと思った。いずれ付き添いが外れれば自分も就労できるかもという期待もあった
普通学校に入学したが、2年生の終わりに吸引や休憩は待機室で行うよう言われ、悔しくて学校に行けなくなり支援学校に転校した
特別支援学校では知的能力の育成にあまり力を入れてくれない。勉強や自立を考えているなら普通学校の支援級をおすすめしたい
24時間呼吸器が必要になり、学校をどうしたらいいか悩んでいたところ、県の支援学校の先生が病院に通う形で訪問教育が始まった
交通事故で医療的ケアが必要になり元の学校に戻るか相談した際、息子の状態や学校の負担、親の付き添いの負担も考え訪問籍にした
普通学校は断られ、特別支援学校に通っていたが、姉が妹と通いたいと言ったことをきっかけに行政に働きかけ、普通学校に転校した
地元の友達を作りたいという思いで、幼稚園での交流を始めた。他のお母さんたちも応援してくれ普通小学校への入学が実現した
普通小学校入学にあたり行政との交渉が難航した。議員らにも働きかけて、学校に看護師を派遣してもらい、無事入学できた
特別支援学校の就学について問い合わせたら、相談日を過ぎていた。自分で動かないと何もわからないと思い、HPや先輩ママを頼りに情報収集した
地域の普通小学校に通うという選択肢があるとは思わず、勧められるがまま特別支援学校に決めたが、今は状況が変わってきたと思う
